Tearstain(涙の跡)

ここはある日の事務所…
真美「おっはよー!」
右にポニーテールをした元気な少女が事務所へと入ってきた。
真美「あれー?誰もいな…」
と、ふとその少女が事務所を見渡すと…
伊織「すー…すー…」
事務所の応接用ソファーで完全に寝てしまったロングヘアーの少女が一人いた。
真美「寝てるみたいだからちょっち静かにしよっと…」
そこに…
小鳥「おはよう真美ちゃん」
給湯室の方から小鳥がやってきたようだ。
真美「あ、おはようピヨちゃん」
小鳥「あら、伊織ちゃんこんなところで眠っちゃったのね」
真美「いおりんどしたの?」
小鳥「聞いた話だけど、家族と口げんかで負けて悔しかったから出て来たらしいの」
真美「そうなんだ」
小鳥「それでさっき泣きながら私に話してくれて…泣き疲れちゃったのね」
よく見ると伊織の頬には涙の跡が見て取れる。
小鳥「でも、どうしようかしら…」
真美「どうしたの?」
小鳥「真美ちゃん、ちょっと伊織ちゃんを仮眠室に運ぶのを手伝ってくれる?」
真美「え?うん、いいよ」
………
ここは仮眠室…
小鳥「真美ちゃん、今日はお仕事は?」
真美「今日はお休みだよ。それで遊びに来ただけー」
小鳥「それならちょっとの間、伊織ちゃんの様子を見ててくれるかしら」
真美「いおりんのこと見てればいいの?」
小鳥「起きた時誰もいないと寂しがるかもしれないけど、これから片付けなくちゃいけない仕事があるから…」
真美「そういうことならいいよ、真美が付いてるから」
小鳥「ありがとう真美ちゃん。もし起きて喉が渇いたって言ったらそこに用意してあるジュース飲ませてあげて」
真美「分かったー」
バタンッ
小鳥は急いだ様子で事務室の方へと戻って行った。
真美「んー、でもヒマだなー」
ゴソゴソゴソ
持ってきた自分のカバンを漁り始めた真美。
真美「あー、あったあった。じゃあそっちで寝っ転がりながらこれしてよっと」
どうやらゲーム機を取りだしたようだ。
ボフンっ
真美は向かいのベッドへと身を投げた。
真美「事務所のベッドって気持ちいいんだよねー、よし続きやろ」
 
しばらくすると…
伊織「んっ…」
どうやら目を覚ました様子の伊織。
真美「あれ?起きたのかな?いおりん」
伊織「えっ…?あれっ…?私どうしてここに…?」
さっきとは違う景色に少し戸惑っている様子だ。
真美「おはよういおりん」
伊織「真美!?え?ここはどこよ?」
真美「事務所の仮眠室だよ。いおりんが寝てる間にピヨちゃんと真美で運んで来たんだよ」
伊織「そうなの…おはよう真美」
真美「喉渇いてない?そこにジュース用意してあるよ」
伊織「もらうわ」
真美「いおりん、はいコップ」
伊織「ありがと、真美」
トクトクトクトク
伊織のコップへとオレンジジュースが注がれていく。
伊織「こくっ…こくんっ…んっ…ふぅ…」
真美「いおりん、真美にも飲ませてー」
伊織「え?いいわよ。はい」
伊織は持っていたコップを真美へと手渡した。
真美「ありがとー」
トクトクトクトク
真美はコップへとオレンジジュースを注いでいった。
真美「ごくっ…ごきゅんっ…ぷはー…」
伊織「でもどうして真美がここにいるのよ」
真美「ピヨちゃんにいおりんが起きるまで見ててって頼まれたんだー」
伊織「そうなの…」
真美「『起きた時誰もいないと寂しがるかもしれない』からってね」
伊織「そ、そんなの…」
真美「でもピヨちゃんに聞いたけど、口喧嘩して出てきたんだよね?」
伊織「…っ!そうよ、笑えばいいじゃない」
バツの悪そうな顔になる伊織。
真美「じゃあ真美と一緒じゃん」
伊織「えっ…?」
真美「真美も今日は、亜美と喧嘩して出てきちゃったんだ」
伊織「へえ…アンタもなの」
真美「だって酷いんだよ。亜美が勝手に真美の所から大事な物持ち出してって、それ壊しちゃったって言って来たんだもん」
伊織「そうなの…私もお兄ちゃんに同じことされちゃって…」
真美「それも一緒だったんだー」
伊織「でももうバカらしくなってきちゃったわ。別に安く買える物なのに、つい意固地になっちゃって…」
真美「そだよね。真美も来る途中にずっと反省してたもん」
伊織「真美はこれから時間あるの?」
真美「あるよー。今日はお仕事もレッスンも無いもん」
伊織「じゃあ軽くレッスンで身体動かしてから、一緒に買い物に付き合ってくれるかしら?」
真美「真美がいおりんの買い物?いいよー」
伊織「それなら…歌詞レッスンでいいわね?」
真美「うん。どーせヒマだからどれでもいいよん」
伊織「じゃあ行きましょ」
真美「その前にこれを給湯室に置いてからだね」
伊織「そうね」
真美「あ、でもその前に…」
伊織「何よ?」
サッ サッ
真美はポケットからハンカチを取り出して伊織の涙の跡をそっと拭いた。
真美「いおりん、すんごい泣いてたんだね。跡が残ってたよ」
伊織「あ…ありがと…真美」
伊織はその真美の笑顔に、少し恥ずかしそうに頬を紅く染めてそう応えていた…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
真美と伊織。亜美と伊織とは一味も二味も変わるのが私のSSです。
私の真美の隠れたテーマが「想いやり」なのです。
自分じゃない自分がいた、そんな時代こそが一歩引いた立場を、そして想いやれる心を作り上げたと思っています。
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2011・08・04THU
飛神宮子
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