ここは節分の765プロ事務所前… |
美希 | 「あれ?どうしてここに来ちゃったんだろ…」 |
そこに見慣れぬ人影が一人。 |
美希 | 「もうここは…美希の事務所じゃないのに…」 |
そう、961プロに移籍した美希である。 |
美希 | 「でも…何か今日は向こうにも行きたくないの…」 |
何やら恨めしそうに事務所を見上げていた。 |
美希 | 「帰ろ、今日は事務所も行かなくていいよね…」 |
そこに… |
伊織 | 「何してんのよ、アンタ」 |
美希 | 「え?美希のこと?」 |
伊織 | 「ここにはアンタと私以外の誰が居るわけ?」 |
美希 | 「デ、デコちゃん!」 |
伊織 | 「デコちゃん言わないで、もうっ!」 |
美希 | 「伊織どうしたの?」 |
伊織 | 「それはこっちのセリフよ。美希こそ事務所はここじゃないでしょ?」 |
美希 | 「何か…分からないけど来ちゃったの…」 |
切なそうな美希を見ていられなかった伊織は… |
伊織 | 「もう仕方ないわね…寒いんだからちょっと入りましょ」 |
美希 | 「い、いいの?ミキ、もうここの人じゃないのに」 |
伊織 | 「私が良いって言ってるんだから良いの!あっ、そうね。折角だし、プロデューサーにちょっと相談してみようかしら」 |
美希 | 「え?何かあるの?」 |
伊織 | 「んー、それは美希しだいかもしれないわね」 |
美希 | 「よく分からないけど伊織がそう言うなら付いてくの」 |
伊織 | 「ちょっと玄関の中で待ってなさい。プロデューサーの所に行ってくるわ」 |
美希 | 「う、うん…」 |
……… |
事務所の仕事場で… |
P | 「え?美希が来てるって?」 |
伊織 | 「そうなのよ。事務所の前に居たから今は玄関に居てもらってるわ」 |
P | 「そうか…それで相談って何だ?」 |
伊織 | 「そうそう。あの今日の事務所の豆まきの鬼の役って決まってなかったわよね」 |
P | 「ああ、一昨年は千早で去年は律子だったけどな」 |
伊織 | 「来ちゃった美希にやらせましょ」 |
P | 「おいおい、仮にも違う事務所のアイドルだぞ」 |
伊織 | 「どうせ誰かがやらなくちゃでしょ。みんな渋ってたじゃない」 |
P | 「まあそうだけどな、まずは美希を呼んできてくれないか?」 |
伊織 | 「いいわよ、今から会議室に連れてくるわね」 |
……… |
玄関に戻ってきた伊織。 |
伊織 | 「美希、会議室に行くわよ。プロデューサーも待ってるわ」 |
美希 | 「本当!?」 |
伊織 | 「ちょっとこれから働いてもらうわね」 |
美希 | 「え?それってどういうことなの?」 |
伊織 | 「それは行ったら分かるわよ」 |
美希 | 「うん、まずは話だけ聞くの」 |
ガチャッ |
会議室に入る二人。 |
伊織 | 「プロデューサー、美希を連れてきたわよ」 |
P | 「伊織、ご苦労さま」 |
美希 | 「プロデューサーさん!」 |
P | 「美希、久しぶりだな」 |
美希 | 「元気だった?みんなに潰されちゃったりしてないの?」 |
P | 「…ったく、そんなんだったらプロデューサーやってらんないって」 |
美希 | 「あ、そっか」 |
P | 「それでだな、伊織から話は聞いたか?」 |
美希 | 「ううん、行ったら分かるって言われたの」 |
P | 「あのさ、今日の節分の鬼役をやってくれないか?」 |
美希 | 「え?ミキがどうして…?」 |
P | 「いや、今年は誰もやりたがらなくてなあ…」 |
美希 | 「あ、でもミキが出てきたらみんなどうなのかな…」 |
P | 「俺は良いんだ。でも美希に対して他のみんなは良い気がしないだろうからさ」 |
美希 | 「う…やっぱりミキは裏切り者だもんね…」 |
P | 「ああ。それだけはなあ…いつでも戻ってきていいんだぞ」 |
美希 | 「それはダメなの。ミキはこの事務所を倒してハニーを奪うまで向こうで頑張るって決めたから」 |
P | 「分かってる。こっちも全力で倒しに行くからな」 |
美希 | 「それで、んー…ミキ、やってもいいよ」 |
P | 「やってくれるんだな、ありがとう」 |
伊織 | 「フフフ、美希がやってくれて良かったわ」 |
P | 「ん?伊織、それはどういう意味だ?」 |
伊織 | 「何でもないわ何でも」 |
伊織は何かが隠されているかのような頬笑みを浮かべていた。 |
……… |
そして事務所での豆まきが始まる前… |
律子 | 「そういえば今年の鬼は誰なのかしら?」 |
やよい | 「でもでも、全員いますよ律子さん」 |
律子 | 「そうね…プロデューサーや社長も違うって言ってたし…」 |
そこにやってきたプロデューサーと… |
美希 | 「みんな、今日はよろしくなの…」 |
全員 | 『美希ーーーーっ!?!?』 |
伊織を除く全員の驚きようは半端なかった。 |
P | 「今日は何か理由が分からないけど来た美希に、鬼をやってもらうことになったからさ」 |
美希 | 「がおーなの!」 |
P | 「じゃあ律子、後は頼んだぞ」 |
律子 | 「分かったわ。みんな、鬼を追い出して福を呼び寄せましょう」 |
全員 | 『はーい!』 |
その声とともに豆まきが始まった。 |
全員 | 『鬼はー外!福はー内!』 |
美希に向かって豆が雨のように飛んでくる。 |
美希 | 「…だってミキは裏切り者だもんね…」 |
小さな声で美希はそう呟いた。 |
全員 | 『鬼はー外!福はー内!』 |
美希 | 「こんな仕打ちは当然だよね…」 |
鬼を演じてはいるものの、少し落ち込んでいる。しかし小さく、だが確かに美希の耳は届いた言葉があった。 |
伊織 | 「961はー外!美希はー内!」 |
美希 | 「えっ…!?」 |
その声のする方に向いてみると、それは… |
伊織 | 「鬼はー外!福はー内!961はー外!美希はー内!」 |
そう、さっき美希に鬼を頼んだ伊織だった。 |
美希 | 「(伊織…そっか、だからミキを鬼にさせてくれたんだ…)」 |
心のどこかに一つ光が差し込んできたのを美希は感じた。 |
美希 | 「(こんなことで落ち込んでたらダメだよね。うん、今日はいっそ暴れちゃおうっ!)ガオー!!」 |
伊織に向けた美希の唇、それをはっきりと「あ・り・が・と」と伊織は読み取っていたという… |