ある日のオーディション会場… |
真美 | 「2位合格かー」 |
P | 「まあ仕方ないさ、相手が相手だったからな」 |
真美 | 「そうだけどやっぱり悔しいところはあるなー」 |
P | 「それでこの後の収録まで体力は大丈夫か?」 |
真美 | 「うん、だって今日は亜美が具合悪いんだし。これくらいへっちゃらだもん」 |
P | 「お、頼もしいな」 |
真美 | 「じゃ、収録まで楽屋で休もうよ」 |
P | 「そうだな、でも戻る前に司会の人の楽屋に挨拶してからな」 |
真美 | 「うん、そだね」 |
……… |
そして楽屋に戻った二人。 |
真美 | 「やっぱり今日も敵わなかったね」 |
P | 「事務所の力も違いすぎるから仕方ないさ」 |
真美 | 「でも今回初めてちょっと勝てた気がする」 |
P | 「確かに、今回は一矢は報えたぞ」 |
真美 | 「次こそは倒せるかな?」 |
P | 「あとは真美達の努力次第だな」 |
真美 | 「うん、真美も亜美と一緒に頑張るよ」 |
P | 「アイドルアルティメットまであともう3か月だから、これからはもっとレッスンもきつくなるぞ」 |
真美 | 「それくらい乗り越えなきゃダメっしょ、こうなったら兄ちゃんにとことんついて行くよん」 |
P | 「よし、まずは収録までゆっくり休んでくれよ」 |
真美 | 「うん。あ、ちょっとトイレ行ってくるね」 |
P | 「了解」 |
……… |
真美がトイレで用を済ませると洗面台にいたのは… |
真美 | 「あー、お姫ちんだー」 |
貴音 | 「双海…亜美ですか?」 |
貴音も用を済ませた後のようだ。 |
真美 | 「んー、そうだけどそうじゃないよ」 |
貴音 | 「それはどういう…」 |
真美 | 「だって亜美じゃなくて…」 |
真美は髪飾りの位置を左へと変えた。 |
真美 | 「真美だもん」 |
貴音 | 「なっ…そういうことですか…」 |
真美 | 「お姫ちんもトイレ?」 |
貴音 | 「そうですが…今日は双海亜美は…?」 |
真美 | 「今日は具合が悪くって真美一人だけなんだ」 |
貴音 | 「そうですか…」 |
真美 | 「今日の収録、お姫ちんと一緒だよね」 |
貴音 | 「ですね…」 |
真美 | 「でもやっぱりお姫ちんには勝てなかったよー」 |
貴音 | 「当たり前です。わたくしには負ける要素などありません」 |
真美 | 「次こそは真美達が勝つかんね」 |
貴音 | 「それは無理でしょう。真美とわたくしとは次元が違いましょう?」 |
真美 | 「そんなことないよ。今回だって一矢は報えたって兄ちゃんも言ってくれたもん」 |
貴音 | 「しかしそれも総合で勝たなければ負けは負けではないですか…!」 |
真美 | 「でも………」 |
貴音 | 「わたくしはあなた方765プロの人間とは格が違うのです!一緒にはしないでいただけますか…!」 |
真美 | 「…っく…んっ…」 |
貴音 | 「…真美、どうなされたのですか?」 |
真美 | 「うわあーーーんっ…お姫ちんが怒ったぁっ…!」 |
一方的に言われたのがよっぽどだったのか、真美はとうとう泣きだしてしまった。 |
貴音 | 「ま、真美!?」 |
真美 | 「わあーーーーんっ!お姫ちんなんかもう知らないっ!」 |
ダダダダダ |
真美はトイレから駆け出して行った。 |
貴音 | 「真美っ!待ってください…!」 |
タタタタタ |
貴音も真美を追ってトイレから駆け出して行った。 |
……… |
そして追い付いた先… |
貴音 | 「も、申し訳ありません真美…そこまで言うつもりなどありませんでしたが…」 |
真美 | 「…っく…でもでも…真美達だって頑張ってるのにぃ…んくっ…」 |
貴音 | 「わたくしとしては事実を言ったまでで…真美を傷付ける気など無かったのです…」 |
真美 | 「…お姫ちん…ぐすっ…一方的だったもん…」 |
貴音 | 「それは…確かにそうでした…」 |
真美 | 「お姫ちん、昔に会った時はもっと優しかった気がするよ…」 |
貴音 | 「そ、そうですか?真美」 |
真美 | 「うん…最近何だか冷たくなってきた」 |
貴音 | 「それはライバルであるのですから…当たり前のことでしょう」 |
真美 | 「ライバルだけど、真美はお姫ちんのこと好きだもん」 |
貴音 | 「真美…」 |
真美 | 「でもいいんだよ、お姫ちんが真美のこと無理して好きになってくれなくても…」 |
貴音 | 「そうでは…」 |
真美 | 「真美のこと敵だから嫌いっしょ?」 |
貴音 | 「話を聞いてください!」 |
ぎゅうっ |
貴音は真美の身体を抱き寄せた。 |
貴音 | 「わたくしは貴方のことが嫌いとは一言も言っておりません」 |
真美 | 「でも…」 |
貴音 | 「貴方の事務所は確かに嫌いではあります。しかし各人をどうして嫌いになれますか」 |
真美 | 「お姫ちん…」 |
貴音 | 「確かに最近は心に余裕が無く、ギスギスした態度を見せていたやもしれません」 |
真美 | 「そうなんだ…」 |
貴音 | 「アイドルアルティメットももう近くになりましたから…今まで以上に必死に実力を蓄えておりますゆえ」 |
真美 | 「それだったら真美だって負けないし、負けるつもりはないもん」 |
貴音 | 「ええ。一番の高みでぜひとも…勝負いたしましょう」 |
真美 | 「うん、その時は真剣勝負…だね」 |
貴音 | 「もちろん負けるつもりはないですから」 |
真美 | 「こっちだって、最後は勝ってみせるよ!」 |
貴音 | 「…フフフ、何だか今日は真美に負けてしまった気がします」 |
真美 | 「オーディションはお姫ちんが勝ったじゃん」 |
貴音 | 「そう…ですね」 |
真美 | 「ねえ、お姫ちん」 |
貴音 | 「何でしょう?真美」 |
真美 | 「向こうの空、月が綺麗だよ」 |
貴音 | 「…本当ですね」 |
ひゅんっ |
夏から秋へと変わりゆく宵の風、心の中にもそれが吹き込むのを貴音は感じていた… |