ここはある日の事務所… |
千早 | 「…どうしたらいいのかしら…」 |
一人の髪の長い少女が何やら悩んでいた。 |
千早 | 「上手くは…いってるけど…最近何だか…」 |
何やら少し深刻な悩みのようだ。 |
千早 | 「私の気持ち…本当に伝わってるのかしら…」 |
恋のことなのか、少し溜息も混じっている。そこに… |
ガチャッ |
雪歩 | 「おはようございますぅ」 |
一人のショートカットの少女が挨拶をしながら事務所に入ってきた。 |
雪歩 | 「千早…ちゃん?」 |
千早 | 「え?あ、おはよう萩原さん」 |
雪歩 | 「どうしたの?何か凄く悩んでるみたいだけど…」 |
千早 | 「いえ、何でもないわ」 |
雪歩 | 「…それならいいです…でも…」 |
千早 | 「何ですか、萩原さん!」 |
少し怒った剣幕を見せる千早。 |
雪歩 | 「あうぅ…千早ちゃん…」 |
千早 | 「はっ、ゴメンなさい…」 |
雪歩 | 「でも…本当に何か深刻みたいだったよ」 |
千早 | 「あっ、そうね…萩原さん、ちょっと相談に乗ってもらえる?」 |
雪歩 | 「わ、私でいいの?」 |
千早 | 「むしろ一番適任かもしれないわ」 |
雪歩 | 「それなら…うん、じゃあどこか部屋借りた方がいいかなあ」 |
千早 | 「そうね、今日萩原さんは事務所には何を?」 |
雪歩 | 「私は…ちょっとダンスが遅れ気味だったから、自主レッスンしようかなって」 |
千早 | 「私もそうだから…ダンス用の部屋でお願いするわ」 |
雪歩 | 「うん…」 |
……… |
少しして来た小鳥に鍵を借りて二人は事務所内のダンスレッスン用の部屋へやってきた。 |
雪歩 | 「それで相談って…?」 |
千早 | 「あの…私と春香のことは知ってるかしら?」 |
雪歩 | 「え?千早ちゃんと春香ちゃんのことって…」 |
千早 | 「真に何か聞いてないかしら?」 |
雪歩 | 「真ちゃんに…ああ、う、うん…」 |
何のことかをようやく理解して少し口ごもった雪歩。 |
千早 | 「最近、春香が何だか少し冷たい気がするの…」 |
雪歩 | 「ええっ!?そうは見えないけどなあ…」 |
千早 | 「ううん、前みたいにしてても何か違うって思って…」 |
雪歩 | 「千早ちゃん、それはきっと違うと思うよ」 |
千早 | 「えっ…?」 |
雪歩 | 「きっと落ち着いてきたってことだから」 |
千早 | 「そうなの…かしら」 |
雪歩 | 「120%くらいだったのが100%になったって感じじゃないかな」 |
千早 | 「今までが…過剰だったってこと?」 |
雪歩 | 「そういう感じかも…今まで、ベッタリだったんじゃない?」 |
千早 | 「言われてみればそうかもしれないわ…」 |
雪歩 | 「だから前に比べたらきっと今の方がちょうどいいの」 |
千早 | 「ありがとう萩原さん、やっぱり相談して良かったわ…」 |
雪歩 | 「ど、どういたしましてですぅ…」 |
千早 | 「でも萩原さんもそうだったの?」 |
雪歩 | 「私の場合は自然と真ちゃんが優しくしてくれてきたから…」 |
千早 | 「それで…?」 |
雪歩 | 「それをそのままプロデューサーが売りにしちゃって…」 |
千早 | 「そういえば萩原さんの2つ目のユニットって、あとは真に律子だったわね…」 |
雪歩 | 「真ちゃんが王子様で私がお姫様で律子さんが従者っていうユニットで、売り出そうってことになって…」 |
千早 | 「あの頃は、ずいぶんといちゃいちゃしてたものね」 |
雪歩 | 「させられていたのもあるけど、好き…だったから」 |
千早 | 「律子がいつも呆れてたくらいだったわ」 |
雪歩 | 「それくらいやらないとダメって言われたからね」 |
千早 | 「フフフ…そうなのね」 |
雪歩 | 「あれ?でも私と春香ちゃんとの最初のユニットの頃って、千早ちゃんはそうでもなかったよね」 |
千早 | 「あの頃はまだ春香のことは何とも…思ってなかったの」 |
雪歩 | 「ううん、そんなこと無かったんだよ」 |
千早 | 「そ、それってどういうこと!?」 |
雪歩 | 「千早ちゃんの春香ちゃんを見る目も、春香ちゃんが千早ちゃんを眺める目も私に向けるのとは全然違ってた」 |
千早 | 「そんなこと…」 |
雪歩 | 「自然としてたから気付かなかっただけ、いつも見てた私が言うんだから間違いないよ」 |
千早 | 「…そうね…」 |
雪歩 | 「だからいずれはそうなるって思ってたんだよ」 |
千早 | 「でもどうして黙って…」 |
雪歩 | 「恋って、自分で気付いて初めて恋…だから」 |
千早 | 「気付いて…」 |
雪歩 | 「私が真ちゃんや貴音さんに抱いたように、千早ちゃんや春香ちゃんも気付けると思ったから」 |
千早 | 「萩原さん…」 |
雪歩 | 「紫陽花でもう一度二人が組むって聞いた時、だから私は安心したんだ」 |
千早 | 「そうなの?」 |
雪歩 | 「きっとプロデューサーも何か気付いてたんじゃないかな」 |
千早 | 「そんな…恥ずかしい…」 |
雪歩 | 「私が真月譚雪姫を組まされたみたいに、プロデューサーってそういうの凄く大事にするから…」 |
千早 | 「プロデューサー…」 |
雪歩 | 「そうじゃなきゃ、もう一度二人を組ませたりなんかしないと思うよ」 |
千早 | 「ありがとう…プロデューサー…」 |
雪歩 | 「だから、これからも自分らしくやっていけばいいんだよ、こんなこと私が言うのもおこがましいかもしれないけど…」 |
千早 | 「そうね…萩原さんもありがとう…」 |
雪歩 | 「どういたしまして…千早ちゃん」 |
千早 | 「…よしっ」 |
何やら一つ決心をして… |
千早 | 「あの…そろそろレッスン始めましょう」 |
雪歩 | 「そうだね。せっかく借りちゃって…あれ?」 |
千早 | 「どうしたの?萩原さん」 |
雪歩 | 「ドアの外にいるのって…誰だろう?」 |
千早 | 「…は、春香っ!?」 |
雪歩 | 「そ、それに…真ちゃんまでぇ…」 |
コンコン ガチャッ |
春香 | 「千早ちゃん、ここに居たんだっ」 |
千早 | 「ええ、ダンスが少し足りないって思って」 |
真 | 「雪歩も一緒だったんだ」 |
雪歩 | 「うん、私も次の貴音さんとの曲のダンスを仕上げたいなって」 |
千早 | 「春香はどうしたの?」 |
春香 | 「えへへー、ちょっとこれから真と表現力レッスンしよっかなって」 |
真 | 「うん、ボクも響との曲が発表近いからさ。それでプロデューサーに聞いたら二人がここに居るって聞いたから」 |
雪歩 | 「そうなんだあ、頑張ってね真ちゃん」 |
真 | 「うん、次の曲も可愛くてカッコいい曲だから決めてみせるよ」 |
雪歩 | 「うわあ、楽しみだな」 |
千早は真と雪歩のやり取りを眺めながら、それを自分と春香とに重ね合わせていたという… |