Sternmost Hole(最後の穴)

雪歩18歳の秋…
雪歩「ご購入いただきまして、どうもありがとうございます」
サラサラサラ ぎゅっ
サインをしたその手でファンに握手する雪歩。
雪歩「こんな物を戴いてよろしいのですか?ありがとうございます」
サラサラサラ ぎゅっ
次の人へと同じように握手する。
この日は雪歩にとって通算3冊目の詩集の発売日、とある地方都市の書店でサイン&握手会をしている。
 
そのサイン会も終わり、ここは控室…
雪歩「ふぅ…終わったぁ…」
「おつかれさま雪歩、今回の作品も大好評だったな」
雪歩「本当に嬉しいです。私が書いた詩を喜んでくれる人がそれだけいるってことですよね?」
「ああ。何か出版社から聞いた話だと、もう1・2週間で重版かかるとかだったな」
雪歩「ふええ…そんな、いいんでしょうか?」
「いいんだよ。雪歩も自分にもっと自信を持ってくれよ」
雪歩「…はい、分かりました」
「しかしさ、けっこう経ったな…雪歩とこういう関係になってからさ」
雪歩「もう3年半は経つんですね」
「最初はさ本当に大丈夫かと思ったもんだよ」
雪歩「うう…そうですよね、私なんか…私なんか…」
「そんなに落ち込むなって。誰も悪いなんて言ってないだろ?」
雪歩「でもすぐ穴に埋まっちゃう私なんて、嫌だったんじゃないですか?」
「そうだな…だけど、その分成長させてみたいって思ったものさ」
雪歩「確かにプロデューサーと出会ってから私、随分と成長できました」
「俺が思った以上だったよ」
雪歩「でも、それを支えてくれたのはみんなプロデューサーでした」
「こんな俺でも雪歩の支えになれてたのかな」
雪歩「だってプロデューサーが居なかったら私なんか、内気で小心者のただの女の子でしかなかったですぅ」
「…だからそこまで卑下するなって、まあでもそこは巡り合わせに感謝だな」
雪歩「そうですね」
「それにしてもあれからもう3年半も経つのか…」
雪歩「そういえば…一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?雪歩」
雪歩「プロデューサーはどうしてずっと私の担当をしてるんですか?」
「え?どういう?」
雪歩「最初は一年って言ってたような気がして…」
「ああ。確かに当初はその予定だったんだけどな、でもさ…」
雪歩「…でも?」
「雪歩の魅力に気が付いてから、離れたくないって思ったんだ」
雪歩「えっ…」
少し顔を紅く染める雪歩。
雪歩「そうだったんだぁ…」
「ああ、それで社長に無理言って続けさせてもらった」
雪歩「こんなに素敵なプロデューサーと一緒に居られるなんて、私幸せです」
「…そう言ってもらえるとプロデューサー冥利に尽きるな」
雪歩「でも、これが私の本心ですから…」
「ありがとう…よし、そろそろ旅館に戻るとするか」
雪歩「そうですね、あいさつして行きましょう」
 
ここは宿泊場所として確保してもらった、その地方都市の中心地を離れた温泉旅館。
雪歩「ふぅ〜〜〜…」
「はぁ〜〜〜…」
雪歩「このお湯は気持ちいいです、プロデューサー」
「ああ、確かにこの温泉は効くな」
え?どうして二人とも一緒に温泉に居るかって?
雪歩「でも良かった、こうして誰にも邪魔されないで入れるって」
「ありがたいな、ここまで配慮して手配してくれるなんてさ」
一般客と一緒で混乱にならないように、家族風呂を特別に借りているのである。
「雪歩、もう少しこっちに来ないか?」
雪歩「えっ…で、でも恥ずかしいからいいですぅ…」
「こういう機会もなかなか無いからどうかなって思ったけど、まあ雪歩が嫌ならいいさ」
雪歩「むぅ…プロデューサー意地悪ですよぉ」
「だって嫌なんだろ?」
雪歩「そう言われたら…」
ピトッ
湯の中でプロデューサーとぴったり隣り合った雪歩。
「そこまでぴったりくっつかなくても良かったのに」
雪歩「だって…嫌じゃないですもん」
「でもこうすると何だかお湯以上の温もりを感じるよ」
雪歩「私もです…」
二人はしばらく心で会話するかのように何も語らずただ浸かっていた。
………
ザブンっ ザパっ
少し身体を冷やすために二人は湯船へ腰をかけた。
「一つ聞いていいか?」
雪歩「何ですか?プロデューサー」
「雪歩は今後はどうしていきたい?」
雪歩「うう…どうしていったらいいのかなあ…?」
「まあ今答えなくてもいいよ、でもいずれは答えを出さなきゃだめだろうからさ」
雪歩「分かりました」
「いつまでも俺がレールを敷いていくわけにもいかないだろ?」
雪歩「はい、でもどうしたら…」
「いつかは自分で決めて欲しい、そんな雪歩になって欲しいな」
雪歩「あうう…穴掘って埋まりたいですぅ…」
「あのさ、穴掘って埋まるとかいうのはもうやめないか?」
雪歩「でもぉ…」
「そんなに埋まりたいって思ってる?」
雪歩「だって何だかもうこんなことで迷ってる自分、見せたくなくって…」
「それならさ…」
瞳が真剣になったプロデューサー。
「今度は俺の心の穴に埋まってくれないか?」
雪歩「えっ…それって…」
「お前のこと、俺が貰い受けたいんだ」
雪歩「プロデューサー…」
「こんなところで言うのも反則かもしれないけどな」
雪歩「私が…プロデューサーと…」
「前から思っていた。雪歩と一緒になりたいってさ」
雪歩「こんな私でも…いいんですか?」
「いいや、そんな雪歩だから。俺の心の穴を埋められるのは、雪歩だけなんだ」
雪歩「○○さんっ…!!」
ぎゅうっ
雪歩はプロデューサーにひしと抱きついた…
 
その夜…二人は同じ部屋で蒲団をつなげていた。
雪歩「プロデューサー」
「何だ?雪歩」
雪歩「東京に帰ったら、私の家族にあいさつしないとですね」
「…そうだな、大丈夫かな?俺で」
雪歩「心配しなくても大丈夫です。プロデューサーなら信用はされてますから」
「まあその辺は帰ってからゆっくり考えような」
雪歩「はい…」
二人の進む道、頑張れば自ずと先は見えてくる。一つになるのはそう遠くないだろう…
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あとがき
ども、飛神宮子です。
「あなたへの想い」折り返しを過ぎた(一応予定)7本目は雪歩です。
甘いのはやっぱり定期的に欲しくなってしまう性分のようです。
「信頼」ってやっぱり大事ですね。
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2009・07・26SUN
飛神宮子
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