I'm Only one Step Away to You(貴方まであと一歩)

真、20歳の6月…
「今日までありがとうございました!」
ここは西にある某都市。客演で真が準主役級の役をやっていた全国ツアー公演の打ち上げの席である。
役者A「こちらこそおつかれさま。この劇団の練習は厳しかったんじゃないか?」
「でも皆さんに支えていただいて、ここまでやってこられました」
役者B「もう、うちに入っちゃわない?真ちゃん」
「いえ。不勉強なボクがここで続けていったら、皆さんに迷惑になるかと思います」
役者C「でもあれだけ厳しいうちの演出のシゴキを耐え抜いたんだからな」
演出家「そこ!厳しいとか言わない」
役者A「アハハハハ!」
役者C「でもこれは菊地君の自信になるだろうな」
「はい!これからもここで学んだことを忘れずに、一人のアイドルとして頑張っていきます!」
役者D「がんばって。私たちも応援しているわよ」
総指揮「これは君の事務所とも相談になるけど、近い舞台の主題歌とかも考えてる」
「それに負けないよう、今後も活動していきたいと思います。本当にありがとうございました!」
パチパチパチパチパチ
総指揮「しかし菊地君の客演が決まってから、いつもよりも女性の予約者が多かった気がするなあ」
「そ、そうだったんですか?」
役者A「舞台から見てもいつもに比べて女性が多かったですね………」
 
宴も終わり…
役者B「今日はまだこっちに泊まっていくのよね?」
「はい。プロデューサーが待っててくれてますから」
役者D「そう…じゃあそのプロデューサーさんによろしく言っておいて」
「はい。ではみなさんありがとうございましたっ!お先に失礼します」
バタンッ
タクシーに乗り込んで、プロデューサーの待つ今日の宿へと向かっていった…
役者B「フフフ、あの言い方だと相当好きみたいね」
役者D「言ってたじゃない、あの人と常に一緒だったから耐えられたって」
………
ここはタクシーの中…
♪〜
「あ、電話だ」
PI♪
「もしもし、プロデューサーですか?」
『ああおつかれさま、真。今どこだ?』
「今は打ち上げが終わってタクシーに乗ってます」
『あとどれくらいで着く?』
「ちょっと待ってください。運転手さん、あとどれくらいで着きます?」
運転手「そうだねえ、今の時間だと15分くらいかね」
「ありがとうございます。プロデューサー、あと15分くらいでそっちに着きます」
『分かった。着いたら連絡をくれないか?』
「分かりました。ロビーに行ったら連絡しますね」
『了解』
PI♪
「何だろう?でも楽しみだなあ…」
………
宿に着いた後、汗と疲れを取るために一風呂浴びて部屋へと戻った真。
「ふぃ〜、プロデューサー戻りました」
「おつかれさま。大丈夫だったか?顔が赤かったから、だいぶ飲まされたように見えてたけど」
「そんなことないですよ。きちんとそこはセーブしてきましたから」
「ま、ささやかだけどこっちもやろうと思ってさ」
プロデューサーはテーブルの上へとチューハイを2本取り出した。
「へへんっ、そう来ると思ってました」
「まあな、これくらいしなくちゃと思ってさ」
「プロデューサー、隣座ってもいいですか?」
「ああ、別にいいぞ」
浴衣姿の二人、それが互いに寄り添いあった。
プシュッ プシッ
「おつかれさま真、カンパイ」
「カンパイ、プロデューサー」
カンっ
「コクっコクンっ…はあっ…やっぱり好きな人との方が美味しいや」
「ゴクっゴクンっ…ぷはあっ…俺もだよ、付き合いで飲むのとは違うな」
「プロデューサーがこうして用意してくれてると思って、あんまり飲まなかったんです」
「そうか…」
「…でも、こうして大好きなプロデューサーとずっと一緒に活動できるなんて…」
すっかりプロデューサーの胸板の上で蕩けている真。
「もうあれから4年以上経ったんだな…」
「1年経った後、ずっとボクに就いてくれるっていってくれて…」
「あれには社長も参ったらしいけどさ、今では正しい選択だと思ってるぞ」
「フフフっ、ありがとうございました」
「でも俺の前ではやっぱり女の子らしいな、真は」
「だって、安心できるから…かな」
「でも今回の舞台での役柄は女の子してたよな」
「あの劇団は、子供の役以外はそういう感じみたいですよ」
「そうなのか…それならまたやってみるか?」
「もう一回くらいならやってみようかな。シゴキはきつかったけど、やりがいはあったし」
「ま、また話が来たら考えておくからな」
「あ、話はまだ来てないと思うんですけど、近い舞台の主題歌を歌ってみないかって言われましたよ」
「おお、でかした。もちろん受けるんだろ?」
「はい。折角お世話になりましたし」
と、プロデューサーが何かに気付いたように…
「な、なあ真…」
「何ですか?プロデューサー」
「見えてるぞ、さっきから」
プロデューサーに寄りかかっていた真。多少足も広がっていて、その浴衣も着崩れていた。
「もう…プロデューサーのエッチ…」
一旦プロデューサーから離れて、慌てて裾を直す真。
「可愛いの…着けてるな。でももう少し大人っぽくてもいいんじゃないか?」
「それなら今度、買うのに付き合ってもらえませんか?」
「いいけど…まったく、今日はそんな話をするつもりは無かったんだけどな」
「えっ…?」
「真、一ついいか?」
「何ですか?プロデューサー」
「この舞台が成功したら、そろそろ言わなきゃって思ってたんだ」
「…そろそろ…?」
「俺が真をこの舞台に送ろうと思ったのは、女性として磨きを掛けて欲しかったからなんだ」
「そう…だったんだ」
「役柄が男役だったら最初からお断りするつもりだった。真はそういう扱いされるのが嫌いなのは知ってたからさ」
「プロデューサー…」
「真はこの舞台をやってきてどうだった?」
「凄く楽しかったです。あと女性って素敵だなって、自分が女性で良かったなって思いました」
「俺の狙い通りだったな」
「プロデューサーのこと、一層好きになれました」
「俺も、ここで成長した真を見て決意したよ。もう大丈夫だって思ってさ」
「…な、何ですか?」
「あのさ、真は全部出し切ったか?」
「えっ…?」
「女性としての自分をさ」
「それは…たぶんまだこれからだと思います」
「だったら…」
真剣な目でプロデューサーから一言囁かれた。
「真の中にある一番の女性は、俺にだけ見せてくれないか」
「それって…プロデューサー…」
「ああ。真が嫌じゃなかったら、一緒に…なりたい」
「そんなの…」
チュッ
プロデューサーの唇へと吸いつく真。
「嫌だって言うわけないじゃないですか!」
ギュッ
そしてそのままプロデューサーの胸へと真は飛び込んだ…
 
夜も更けてきて…
「明日、帰るんですよね?」
「ああ。名残惜しいか?」
「違います。二人だけで過ごせる時間がもう少ないんだなって…」
「そんなのこれから幾らでも作れるだろ?」
「…そうですね」
二人の道が一つに重なれば輝きは一層の光になる。そこまであと一歩…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
今日は砂糖の日だから「あなたへの想い」第9弾です。あ、砂糖の日だからというのは後付けの理由です。
真は本当の自分を考えさせてからの方が良いかなって思いまして。
ちなみにこの舞台ツアー、数年前に【東京→1カ月休み→札幌→新潟→名古屋→神戸→福岡】こんな感じで巡っている舞台が元です。
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2010・03・10WED
飛神宮子
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