Sorcerous Ring(魔法の指環)

「なあ、律子」
律子「………くぅ…すぅ…」
「おーい、律子」
律子「………すぅ…くぅ…」
「すっかり寝ちゃってるな。しょうがないか、プロデュース業は初めてだもんな」
律子に事実上引き抜かれた俺は、765プロの子会社の社長をしている。
「しかし、寝てると本当に可愛いんだけどなあ」
律子「寝てるとは余計です、社長」
「うわっ、起きてたのか?」
律子「ちょっと休んでただけですから」
とは言え、俺もプロデュース業を終わりにしているわけでもなく…
律子「んー、でも今日は疲れたなあ。まさか私まで出演させられるなんて」
「確かにな、でも俺も昔世話になったからな…断れなくてスマンな」
こういう形で律子が出るときはやっぱりやらざるを得ない。何せつい最近まではトップアイドルだったわけだし。
律子「まあああいう所に行く時点で諦めてましたけど」
「俺もさ、あの番組のディレクターがあの人だとは知らなかったんだよ」
律子「でもやっぱり社長も顔が広いんですね、これから私も頑張らないとかな」
「そりゃさ、何人もプロデュースしてたんだから自然と顔も広くなるさ」
律子「確かにあの頃は凄かったなあ、765プロがあそこまで成長するなんて思ってなかったから」
「それは俺の力じゃないさ、みんなの素材を俺は伸ばしただけだし」
律子「そうなのよね、でもその伸ばし方だけは見習わないと」
「でも今日は出演にプロデュースに色々疲れただろ?ゆっくりしてていいぞ」
律子「んーっ、今日はそうさせてもらう。これから事務所よね」
「そうするつもりだけど、どこか寄りたいところあるのか?」
律子「ううん、明日にするからいい」
「了解。でもどうだ?あの二人は」
律子「実力はまだまだ底上げが必要だけど…うまいこといきそうかな」
こうして今プロデュースしているアイドルを家へと送った後、俺の走らせる車の中で話すのも毎度のことだ。
「確かになあ、見てて思うけどやっぱりダンスが足りなさそうかな」
律子「うん。ちょっと体力が足りないみたいで…すぐへばるのよ」
「でもあまり酷使するなよな、預かっている側なんだからさ」
律子「それは分かってるけど、もうすぐルーキーズのオーディションだし」
「もうそんなに経ったのか…それなら俺がレッスンやろうか?」
律子「んー…社長の手は借りたくなかったけど…一度参考にしたいしなあ」
「律子一人でやるって頑張ってたし、口出しとかはしないつもりだったからね」
律子「社長はまたプロデュース業をする気はあるの?」
「俺?俺は…今のところは無いな。律子みたいな逸材が来れば別だけど」
律子「それはどういうことかしら?」
「プロデューサー時代に春香達みんなをプロデュースして分かったんだよ」
律子「そういえば私は一番最後だったわね」
「俺に合うのは律子みたいな人なんだとさ」
律子「わ、私っ!?」
「俺を引っ張ってくれる人が一番だったってこと。俺はそうやって伸びるタイプだったらしいからな」
律子「んー…確かにそうかなあ」
「だから律子みたいな人が来たらまた考えるさ、たぶん律子は無理だろうから」
律子「どういう…?」
「たぶん律子じゃソリが合わないぞ、そういう人は」
律子「なるほどねえ…ってでも…」
「でも?」
律子「その娘に感けて、私を見捨てたりしたら承知しないから」
「分かってるよ、俺が好きなのは律子一人だけだから」
律子「社長…ううん、ダーリン…」
「何か久々だな、そう言われるのもさ」
律子「そんなみんなが居る所で言えるわけないでしょ」
「でもいいな、可愛いよ律子」
律子「ば、ばかっ!」
「でもこれは俺の本心だからな」
律子「そんなこと突然言うなんて…恥ずかしいじゃない…」
「うん、やっぱり可愛いな」
律子「も、もう知らないっ!」
律子の顔はもうすっかり紅くなっていた。
「ん?そういえばリングは?」
律子「あんなところで付けてたら問題でしょ、ここに付いてるわよ」
と、律子は胸元からリングの付いたネックレスを出した。
「それもそうか、世間には公表してないしな」
律子「今公表したら世間的にまずいでしょ」
「ま、でもいずれはな」
律子「分かってるわよ、でも今のが軌道に乗るまではお預けだから」
「分かってるって、頑張ってくれよ律子」
律子「任せといて、765プロに負けない大きさにするつもりだから」
「それは相当頑張らないとだな」
律子「ダーリンにできたんだから、私にだって…」
「おっともうすぐ着くぞ」
律子「そうね、ちょっと事務所で休んでから帰るとしますか」
「ああ、コーヒー淹れるつもりだったし。飲むよな?」
律子「貰う」
「いつものやつ淹れてやるよ」
律子「ありがと、ダーリン」
「ん?電気点いてるな、ということは…」
律子「あの子にもっと手当て出した方がいいかしらね?」
「そうだなあ…経費があるなら考えた方がいいか」
律子「そんなにギリギリってわけでもないし、いいかもね」
「でも、そうなると律子ももう少し出ないとだろ。いいのか?」
律子「そうね…事務所のためとはいえ、本当は今の二人を売り出すのが本筋だし」
「まあそこらへんは律子に任せるよ」
律子「OK、考えてみる」
「それじゃあ事務所に行くとするか」
律子「あ、その前に…」
車を出た二人、そして…
「律子…」
律子「ダーリン…」
Chu
ここは駐車場、二人は永きキスを交わした…
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あとがき
飛神宮子です。
小鳥さんSSとは違う世界、それを書いてみたくて書きました。
律子の将来、ということで今まで書いた中では100のお題の千早と同じくらい後の世界ですね。
律子だって恋を夢見るお姫様ですもの。
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2008・05・21WED
飛神宮子
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