Seek Shelter from Rain(雨やどり)

響19歳の2月…
ザーーーーーー
「うわあっ!凄い雨だっ!?」
「プロデューサー、こっちに行くぞっ!」
二人は学校の近隣にある運動場にあった体育倉庫の中へと逃げ込んだ。
バタンッ
プロデューサーはドアを閉じた。
「ふう…これで吹き込まないから大丈夫か…」
「プロデューサー、大丈夫か?」
「何とか…少し濡れたけどな。そう言う響は大丈夫か」
「自分か?自分は何ともないさ」
ポフッ ポンッ
二人は体育倉庫の中に積んであったマットの上へと腰掛けた。
「でも突然降ってきたな」
「こんなのスコールみたいなもんで、すぐに止むぞ」
「え?そうなのか?」
「うん。でも学校のすぐ近くで良かったな」
「ああ」
「それにしても自分にこんな企画が舞い込んでくるなんてなー」
「どうだった?」
「んー…先生役って難しいなー。どう教えたらいいか、戸惑ったぞ」
響に舞い込んできた企画、それは母校で先生をやる番組であった。
「でも上手いことできてたじゃないか」
「後輩にダメなところは見せられないからな。必死に色々と考えたりしたさー」
「今のトップアイドルの響なら、それくらいは何とも無いと思ったんだけどな」
「そんなことないさ。だって…」
チュッ
「まだまだプロデューサーがいなくちゃ、何でもできはしないぞ」
「響…」
「自分のこと…見ててくれる人がさ」
「でも来た頃はまだ警戒心が強かったよな」
「自分が目の敵にしていた人に見てもらうんだから、最初は戸惑ったんだ」
「あの頃まだ俺のこと、少し敵だと思ってたんだろ?」
「うん…だってさ、ちょっと前まで敵だったんだぞ。そうもなるさ」
「けどそれ以上にあの頃の響は少し弱弱しい感じがしてた」
「そう…なのか?」
「ああ。961プロに半ば捨てられたような感じだったんだろ?」
「うん…」
「美希は戻ってくるって感じだったし、貴音は貴音で覚悟決めた感じだったけどさ」
「美希も貴音もそういうところはいいなって思ってた」
「でも響は、うちにも捨てられたらどうしよう…って思ってたんじゃないか?」
「ど…どうしてそれを知ってるのさ」
「雰囲気で掴んでた。その部分は千早に似ていたからさ」
「千早?」
「千早もそんな感じの流れを歩んできてたからさ」
「そっか…」
「最初に顔合わせしたときに、響からはそれを感じてた」
「何だ、プロデューサーにはお見通しだったんだ」
「だけどそれからは随分と成長してくれたよ」
「そっかな?」
「素材は元から素晴らしかったけど、努力もちゃんと重ねてくれてさ」
「だって、実力出さなくちゃ見捨てられちゃうって思ってたから」
「そのおかげで、今はこうして一緒にいられるわけだけどな」
「そだな…アハハっ」
「それにしても、もう響とは長いんだな」
「そうさ。自分が765プロに来てから、ずっとプロデューサーしてもらってるもんな」
「だとするともう3年以上になるのか」
「ここまで色々あったさ」
「色々…まあ響との想い出の半分くらいは動物についてになっちゃうんだけど」
「そっか…自分がよく逃がしちゃうからなー」
「だけどそれ以上に、響についての想い出はあるんだからな」
「う…そう言われると何だか照れるさ」
「照れたところも可愛いんだけどな」
「な、何を言ってるんさ。は、恥ずかしいぞ…」
「何だよ…そんなに恥ずかしがってたら、今日言いたかったこと言えないじゃないか」
「え?今日何か自分に言うことがあったのか?」
「いや、後にしよう。こんな場所で言われたいとは思わないだろう」
「そんなこと言われると余計に気になるぞ」
「じゃあいいのか?これ、真剣な話になるんだぞ」
「えっ…」
「いいんだな?」
響は一呼吸置いて…
「…あ、ああ。覚悟は決まったぞ」
そう答えた。
「あのさ、こんなところで言うのもそのさ、何か場違いな気がするんだけどな」
「場違いって、何さ?」
「そのな、この仕事はどうだった?」
「この仕事…う、うん。何か楽しかったって言うか、自分と向き合えた気がする」
「そうなんだよ。響にはそれをして欲しかったんだ」
「そうだったんだ…」
「自分と向き合って、過去の自分も全て受け入れて未来を見据えて欲しかった」
「プロデューサー…」
「悔しいけれど、過去があるからこそ今の響があるってそう思ってるから」
「そっか…」
「響は心に曇りはまだある?」
「無い…って言ったら嘘になるな。だって、あの頃を受け入れるって…難しいことだもん」
「だったらさ…」
プロデューサーはそこで一呼吸置いて…
「俺がその曇りを晴らす太陽になれないか?」
「えっ…」
「この企画が来てからずっと考えていたことだったんだ」
「プロデューサー…」
「響は俺と同じ苗字…嫌か?」
「…ううん、でも…えっ…」
「これからもずっと過去に向き合って生きていくのは、時に辛くなるかもしれない」
「うん…」
「俺はそんな響の支えになりたい…ってうわっ!?」
ぎゅうっ
響はプロデューサーに突然抱きついてきた。
「プロデューサー…こんな女の子でいいのか?」
「響でじゃない、響だからだぞ」
「これからも迷惑掛けちゃうかもだぞ」
「響のことならそれも大歓迎だ」
「動物もいいのか?」
「響がそれを望むなら俺は構わない」
「それから…それから…ああっ、もう!」
チュウッ
響はプロデューサーの唇を吸い寄せた。
「もう混乱してきちゃったさ。でも…」
「でも?」
「プロデューサー…大好きだぞ」
その言葉を合図にしたかのように、スコールが降りしきった空は青空へと変わっていく…
その空には大きな虹が弧を描いて橋を掛けていた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
どもっ、飛神宮子です。
4ヶ月連続のあなたへの想い、今月は響です。
響はあの過去があって今がある、だからこそこれからもその過去を受け入れて生きて欲しいと私は思います。
このシリーズも次でラスト、大トリは伊織になりました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2011・11・30WED
飛神宮子
短編小説に戻る