Twelfth Shell(十二枚目の衣装)

小鳥「プ…プロデューサーさん、これは…」
ここは夜の事務所、小鳥の許にプロデューサーが持ってきたものは…
小鳥「ど、どうして…これってステージ衣装ですよね?」
そう、ハンガーにかけられた様々な衣装をラックごと持ってきたのだ。
「そうですけど、どうしました?」
小鳥「どうして私のところにこれを持って来たんですか?」
「俺も社長に聞かされて驚いたんですけどね、これ…」
小鳥「………」
「小鳥さんって、採寸とかされたことありますか?」
小鳥「はい。律子さんが候補生になる時に、ついでってことで測りましたけど…」
「そういうことでしたか…ああ…」
小鳥「も、もしかしてこの衣装って…」
「そのもしかしてです。どの衣装も余計に一つあって、おかしいなとは思っていたんですけど…」
小鳥「それで社長に聞かれたんですね」
「はい。内緒とは言われたんですけど、黙っていてもしょうがないですから」
小鳥「でも私なんか…こんな衣装着たって似合わないですよ」
「そうですか?俺は似合うと思うんだけどなあ…」
小鳥「そんな…春香ちゃんとかやよいちゃんとかに比べたら全然ダメですよぉ」
「小鳥さんだって遜色無いですって。プロデュースしている俺が言うんですから」
小鳥「うっ…そこまで言われたら…着るしかないじゃないですか」
「え?えっ…」
小鳥「プロデューサーさんになら、見られてもいいですから…フフッ」
と、小鳥は765プロの制服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと小鳥さんっ!」
小鳥「はい?何でしょう?」
「あの…俺が見てていいんですか?着替えてるところ」
小鳥「そんなの…いつも見てるじゃないですか、二人だけの時に…」
「それとこれとは話が別ですって、ブラインドも鍵も開けっ放しなんですよ」
小鳥「それなら…先に閉めちゃいましょ」
「そういう問題でも…まあ、いいか」
二人は鍵を閉め、ブラインドを下げて回った。
小鳥「よし、これでいいわ」
「いいですけど、良いんですか?本当に俺の前で着替えるなんて」
小鳥「それは少し恥ずかしいですけど、大好き…ですから」
「小鳥さん…そう言われると嬉しいですよ」
小鳥「フフフっ…それじゃあプロデューサーさん、まずは何から着ましょうか?」
「え?えっと、そうですね…これなんてどうですか?」
小鳥「これって…体操着じゃないですか!」
「だって、他にもこんなのもありますよ」
小鳥「ええっ!袴は良いとしても、スクール水着にメイド服にチャイナ服って…社長は何を考えてるのかしら」
「俺だって分からないですよ」
小鳥「みんなに着せて歌わせたこととかもあるんですか?」
「えっと…袴はプラハの3人に着せましたし、ま〜ち2人のチャイナ服は意外と好評でしたよ」
小鳥「へえ…やってみるもんですね…」
「それでどうします?これ、着てくれませんよね…」
小鳥「んー、恥ずかしいですけど、昔に戻ってみちゃいましょ」
と、小鳥は服を着替え始めた。
小鳥「でもちょっと恥ずかしいんで、向こう向いててくださいね」
「分かりました」
………
小鳥「もういいですよ、プロデューサーさん」
「はい、分かりまし…」
プロデューサーが振り向くとそこには、体操着に白靴下、運動靴に鉢巻き姿の小鳥がいた。
小鳥「ど、どうでしょう…」
「いや、どうもこうも素敵ですよ」
小鳥「素敵だなんてそんな…そんなジロジロと見ないでください、恥ずかしいです…」
「いや、一度他のアイドルにも着せたことがあるんですけど、遜色無いですって」
小鳥「そ、そうですか?」
「この身体のラインも綺麗だし、ちょっとエッチっぽいですけどね」
小鳥「あ、やっぱりいやらしい眼で見てる…」
「俺だって男なんですから」
小鳥「ふう…これくらいでいいですか?やっぱり恥ずかしいです…」
「小鳥さんが満足しているなら、俺はもういいですよ」
小鳥「それじゃあ次は…あ、選ぶんで後ろ向いててもらえますか?」
「分かりました、楽しみにしてますね」
………
小鳥「もういいですよ、ご主人さま」
「はい…ってご主人さま!?」
振り向いたそこには、ヘッドレストに誰の色にも無い水色メイド服を着た小鳥が…
「水色のメルヘンメイドって小鳥さんのだったのか…」
小鳥「どうでしょう?似合ってます?」
「完璧です、こんな給仕だったら一生居てもらいたいくらいです」
小鳥「それならご奉仕いたしましょうか、ご主人さま」
「そうしてもらいたいところですが、他の衣装ももっと見てみたいなって」
小鳥「んー、そうですね。私も着てみたいのが多くて…」
「じゃあまた後ろ向いてますね」
………
小鳥「○○クン、こっち向いて」
「え?えっ…!?今度はまさか…」
振り向くプロデューサー。
小鳥「君の告白…とても嬉しかったな…ってフフッ、こういう感じですか?」
「いやあ、本当にドキッとしましたって、セーラー服の小鳥さんに言われるなんて」
小鳥「昔に戻った感じ…ですね」
「本当に可愛くて、今でも充分女子高生でやっていけますって」
小鳥「そ、そんなことないですってばあ、もうっ」
顔は真っ赤にしているが表情からして満更でもないようだ。
「あずささんよりも似合ってる気がするなあ…」
小鳥「そんなこと言ったら失礼ですよ、あずささんに」
「は、はい。あ、あの…今度は俺からのリクエストでいいですか?」
小鳥「はい、どれでしょう?」
「あの、これを着てくれません?」
小鳥「これって…CUTE and GIRLYのエメラルド・ブルーム…これって私用のですか?」
「うーん、誰のとも違う気がしますし、たぶんそうでしょう」
小鳥「社長…事務所の予算をもっと考えて欲しいなあ…」
「確かに、こういう時でもなきゃ使わない物なのに…」
小鳥「まあでもとりあえず、着てみましょうか?」
「そ、そうですね…」
………
「こうして見ると、小鳥さんも一人のアイドルとしていけますよ」
小鳥「そうですか?何だか恥ずかしいですけど、プロデューサーさんがそう言うなら…」
「衝撃デビューさせちゃいましょうか?」
小鳥「いやいやいやいやいや、私なんかよりも他のみなさんの方が何十倍も何百倍も素敵ですからっ」
「事務員から衝撃デビュー…うーん、でも…」
小鳥「…でも?」
「やっぱり俺だけの小鳥さんで居て欲しいな…って」
小鳥「プロデューサーさん…」
ぎゅっ
いつの間にか二人は抱き締めあっていた。
「あの、一ついいですか?」
小鳥「何でしょう」
「折角なんで、1曲歌ってくれませんか?その衣装のまま」
小鳥「え?えっ…ええーっ!?無理無理無理無理無理ですよぉ…」
「小鳥さんの歌の上手さは折り紙つきだから大丈夫ですって」
小鳥「でも…」
「でも?」
小鳥「私にもって、社長に渡された曲は1曲あるんですが…」
「聞きましたよ、小鳥さんの曲があるって」
小鳥「いかんせん、CD化も無いだろうということでカラオケが無いんです」
「カラオケが無いだけですか?」
小鳥「はい、ここに楽譜はあるんですが…」
「あ、それじゃあ俺が伴奏弾きましょうか?」
小鳥「えっ?プロデューサーさんって出来るんですかっ!?」
「だって、それじゃあどうやってレッスンするんですか?」
小鳥「ああっ、そうですね。それじゃあお願いできます?」
「はい、ちょっと向こうの部屋からキーボード持ってきますね」
………
「よしっと、じゃあ弾きますよ」
♪〜
プロデューサーの弾くキーボードから『空』の伴奏が流れ始めた
小鳥「♪〜〜〜」
小鳥の身体から自然とダンスが、唇から歌が紡がれ始めた…
 
と、そこに…
律子「ふう、まったくあの記者は参っちゃうわね。この時間ならプロデューサーはまだいるわよね」
律子がどこからか一人、事務所へと戻ってきた。
ガチャっ ガチャガチャガチャ
律子「あれ?電気点いてるのに居ないなんて…中から音楽も聴こえるし…電気代が勿体無いじゃない」
ガシャッ ガチャン
律子が鍵を回すとそこには…
律子「な…プ、プロデューサーに小鳥さんっ!?」
P・小鳥「り、律子っ!?」「律子さんっ!?」
律子「な、何してるんですかーっ!!!」
「お、落ち着け、律子」
律子「落ち着けって、落ち着けるわけ無いでしょ!」
小鳥「まあまあ律子さん、私が良いって言っちゃったのが悪いの」
律子「うう…それでも…確かに私も着ましたよ。だからって小鳥さんに着せていいもんじゃないでしょ!」
「まず怒るなら社長に怒ってくれよ。これ、全部小鳥さん用なんだって」
律子「ええっ!?ど、どういう…」
「衣装を作る時に、社長が亜美と真美のを別々にしてたのも含めて12種類作ってたんだよ」
律子「私のに春香、伊織にやよい、あずささんに千早、真に雪歩、亜美に真美に美希で11種類…」
小鳥「せっかくなのに勿体無いでしょ、律子さん」
律子「でも、プロデューサー。小鳥さんが目の前で着替えてるのは問題です」
「そんなこと言ったって、小鳥さんがそれで良いって言ったんだからさ」
律子「小鳥さん…小鳥さんは765プロ最後の良心だと思ってたのに…」
小鳥「フフフっ、恋人同士ですからねっプロデューサーさん」
律子「はあ…まさかプロデューサーと小鳥さんの仲がここまで進んでたなんて…」
「そういえば律子、何か用事があったんじゃないの?」
律子「もういいです、本当はあったんですけど」
「いや、もう遅いし送ってくよ…用事ってこれだろ?」
律子「そうですけどぉ…こんなに見せ付けられたら居られないです」
小鳥「フフっ律子さん、ここは一緒に帰りましょ」
律子「うー、小鳥さんがそこまで言うなら…分かりました」
小鳥「それじゃあ着替えてきますね。プロデューサーさん、この衣装は…」
「あ、俺が倉庫に片付けておきますんで」
小鳥「分かりました、行ってきます」
「よし、じゃあ俺も帰る準備するか。あ、律子」
律子「何ですか?プロデューサー殿」
「このことはくれぐれも秘密にしておいてくれ…お願いな」
律子「えー…しょうがないなあ、小鳥さんの名誉もあるからここは諌めます」
「スマンな、今度何かおごってやるから」
律子「やよいと一緒ですからね。でも、小鳥さんとの仲は本当の話だったんですね」
「ま、まあな。お互い良い支えになってるよ」
律子「その話が出た頃から、何だか雰囲気が変わってましたから」
「心の持ちようってやつかな…ってこうしちゃいられないな、片付けてくるから」
律子「分かりました、ちゃんと元の場所に戻してくださいね」
この後も何度も二人だけのファッションショーがあったとかなかったとかいうのはまた別のお話である…
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あとがき
飛神宮子です。
小鳥さんSS第3弾、いやー書いてて楽しいこと楽しいこと。
オチは決めていたので、そこまでの展開だけが問題でした。
きっと小鳥さんの衣装もあるでしょう、いやそう思いたいです。
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2008・03・23SUN
飛神宮子
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