真 | 「おはようございます!プロ…あれ?居ない…」 |
朝早い事務所にハスキーボイスが響き渡った。 |
小鳥 | 「おはよう真ちゃん」 |
真 | 「あ、小鳥さんおはようございます。プロデューサーに朝のこの時間に来るように言われたんですけど…」 |
小鳥 | 「どうしたのかしら…ん?ちょっと待って、確か…」 |
小鳥は何やら机の上を探し始めた。 |
小鳥 | 「えっと…あ、あったわ。真ちゃん、ちょっと残念なお知らせかも」 |
真 | 「ええっ!何ですか?」 |
小鳥 | 「プロデューサーから言伝ね。『向こうの手違いで仕事が午後に変わりました』…ですって」 |
真 | 「えーっ!?せっかく朝一の仕事だって言うから…」 |
小鳥 | 「でも大分夜遅くだったみたいね、昨日も日が変わるまで残務処理してたみたいだわ」 |
真 | 「本当だ、このメモの日付と時間が今日の真夜中だ」 |
小鳥 | 「あと、『ちょっと休んでから来ます』って。そういえば最近寝不足気味だったわね…」 |
真 | 「そんなに遅くまでボク達のためにやってくれてるんですね」 |
小鳥 | 「そうよ、今日は他に何も無いみたいだし、ゆっくり休ませてあげましょ」 |
真 | 「そうですね、よしっ!…って安心したらお腹が空いてきたなあ」 |
小鳥 | 「どうしたの?何も食べて来なかったの?真ちゃん」 |
真 | 「へへっ…実は今日寝坊しちゃって食べられなくて…」 |
小鳥 | 「ダメよ!アイドルだって身体が資本なんだから」 |
真 | 「すみません…それじゃあ時間もあるし、何か食べに行ってこよっと」 |
小鳥 | 「あ、待って!真ちゃん」 |
真 | 「どうしたんですか?小鳥さん」 |
小鳥 | 「それなら一緒に行きましょ。実は私もまだなのよ」 |
真 | 「小鳥さんも人のこと言えなかったんですね、へへっ」 |
小鳥 | 「あ、でもどうしよっかなあ…まだ朝早いし誰も来ないわね」 |
真 | 「社長は持ってるんですか?」 |
小鳥 | 「社長も持ってるし、律子さんも持ってるわよ」 |
真 | 「それなら大丈夫ですよ、行っちゃいましょうよ」 |
小鳥 | 「そうね、行っちゃいましょ」 |
真 | 「どこにしますか?この時間だとそんなに開いている場所も無いしなあ」 |
小鳥 | 「そうね…あ、真ちゃん。お姉さんが良い所に連れてってあげましょう」 |
真 | 「え?どこですか?」 |
小鳥 | 「フフフ、ここからちょっと距離があるけど…いい所よ」 |
真 | 「うーん…楽しみだなあ」 |
小鳥 | 「車を持ってくるから、事務所の前で待ってて」 |
真 | 「分かりました、待ってますね」 |
……… |
そして小鳥の運転する車内… |
真 | 「そういえば小鳥さん、車を持ってたんですね」 |
小鳥 | 「緊急時にプロデューサーさんと社長だけってわけにはいかないのよ」 |
真 | 「あっ…それもそうか」 |
小鳥 | 「あまり利用されたくはないけど、そういう時はしょうがないもの」 |
真 | 「でもこの車、乗り心地が凄い良い気がするんですけど」 |
小鳥 | 「自分で使うのもあるけど、アイドルのみんなを疲れさせちゃダメでしょ」 |
真 | 「んー、これからは現場にはプロデューサーのじゃなくて、小鳥さんの車に乗せてもらおうかな」 |
小鳥 | 「それはダーメっ、でもたまになら乗せても構わないかな」 |
真 | 「やりぃーっ!」 |
小鳥 | 「そういえばお腹の具合はどうかしら?」 |
真 | 「うう…もうすっかりペコペコですよ」 |
小鳥 | 「あと5分くらいで着くわ。この次の信号の所だから」 |
真 | 「楽しみだなあ、どんなお店なんですか?」 |
小鳥 | 「それは着いてからのお楽しみよ、でも真ちゃんも気に入ると思うわ」 |
……… |
ここは市場に近い裏通りの食堂、朝の市を終えた人たちで多少混んでいる。 |
真 | 「ええっ!?これでこの値段ですかっ!?」 |
小鳥 | 「そうよ、市場の人のための食堂だから安いのは当たり前なのよ」 |
そう言う真の前には日替り朝定食、小鳥の前には朝魚定食が置かれていた。 |
真 | 「それじゃあさっそく、いっただっきまーすっ!」 |
小鳥 | 「いただきます」 |
真 | 「あむっ…もぐもぐ…んぐっ…んーっ、美味しいっ!」 |
小鳥 | 「かぷっ…むぐもぐもぐ…ごくんっ…うん、美味しいわね」 |
真 | 「これだけ美味しくてこの値段なんて、毎日来たいなあ」 |
小鳥 | 「そうね、これで遠くなければ…ね」 |
真 | 「んー、確かに遠いのはちょっとネックかもなあ」 |
小鳥 | 「私も朝早くなったときか徹夜仕事明けくらいしか、ここには来れないのよ」 |
真 | 「えっ?どうしてですか?」 |
小鳥 | 「ここが閉まっちゃうのが朝の9時なのよ。市場の人のための食堂だから」 |
真 | 「うわあ、それだとちょっと来るのも難しいや」 |
小鳥 | 「たまに来るくらいがちょうど良いのかもしれないわね」 |
真 | 「えっと…小鳥さん、今度からたまに連れて来てもらえません?」 |
小鳥 | 「そうねえ…でも、真ちゃんだけっていうのもどうなのかしら…」 |
真 | 「そうですよね…ボクだけっていうのはダメですよね…」 |
小鳥 | 「実は律子さんとかにも教えたことが無いのよ」 |
真 | 「もしかしてボクが初めてってことですか?」 |
小鳥 | 「そうなのよ。みんな朝早く来るってことがないでしょ、プロデューサーさんは別としてね」 |
真 | 「確かに…ボクだってこんなことが無かったら、こんな早くは来なかったしなあ」 |
小鳥 | 「フフフ、それじゃあ私と真ちゃんの秘密にするなら…いいかな」 |
真 | 「二人だけの秘密ですか?はいっ、そうしましょう!」 |
小鳥 | 「よし決まりね、じゃあ今日はお姉さんがおごっちゃう!」 |
真 | 「そんな、そんなの悪いです。ボクも払いますって」 |
小鳥 | 「いいのよ、たまには…ね。年長者の言葉は従っておくものよ」 |
真 | 「それなら…今日はごちそうになりますね」 |
……… |
そして会計にて… |
店主 | 「はい、日替り朝定に朝魚定で1260円だね」 |
小鳥 | 「それでは、これでお願いします」 |
店主 | 「はい、1500円…240円のお返しっと」 |
小鳥 | 「はい確かに、ごちそうさまでした」 |
真 | 「ごちそうさまでした、美味しかったです!」 |
店主 | 「またどう…ん?もしかしてあんた…」 |
真 | 「えっ、ボクですか?」 |
店主 | 「あの、アイドルの菊地真さんかと思ったけど違うかい?」 |
真 | 「は、はい…そうですけど…」 |
店主 | 「おおっ、こんな場末の食堂に来てくれるなんて…こっちも嬉しいねえ」 |
真 | 「いえ…そんなことは…」 |
店主 | 「あ、そうだ。あの…できればでいいんだが、サインを貰えないかねえ?」 |
真 | 「えっと…こういうのっていいんでしょうか?小鳥さん」 |
小鳥 | 「んー…そうだあの、お願いがあるんですけど」 |
店主 | 「ん?何だいね」 |
小鳥 | 「飾ってもいいですけど、記者さんとかが聞いても秘密にしておいてください」 |
店主 | 「おう、こちとらそういう商売だしな。今、色紙取って来っからちょっと待ったってな」 |
真 | 「えへへっ、ボクも少しは有名になっちゃったんだなあ」 |
小鳥 | 「フフフ、そうみたいね」 |
その後も二人はお忍びで幾度もここへと足を運んでいたらしい… |