ここはある日の録音スタジオ… |
千早・愛 | 『♪〜』 |
一人のスラッとした少女と元気そうな女の子が音合わせに励んでいた。 |
千早 | 「そうね…ちょっとこの辺がちょっと狂ってるわ」 |
愛 | 「ここ、凄く苦手なんですよー」 |
千早 | 「……………こんな感じよ」 |
愛 | 「……………ですか?」 |
千早 | 「もう少しそれで強く…した方がいいかもしれないわ」 |
愛 | 「分かりましたっ」 |
千早 | 「ふぅ…そろそろ休憩にする?」 |
愛 | 「うーん…そうですね、ちょっとだけ休みたいです」 |
千早 | 「それなら…」 |
腕時計を見る千早。 |
千早 | 「20分くらいは大丈夫ね、少し休憩しましょう」 |
愛 | 「はいっ」 |
ガチャっ バタンッ |
千早とその女の子はブースから外の調整室へと出た。 |
千早 | 「はい、日高さん。飲み物は私と一緒でいいかしら?」 |
愛 | 「はい。ありがとうございます、千早さん」 |
ぽふっ ぽふんっ |
千早と愛はソファへと座った。 |
千早 | 「今日中には仮の収録はできそうね」 |
愛 | 「千早さんに教えてもらったおかげで、だいぶこの歌が分かってきましたっ」 |
千早 | 「あとサビの部分をもう少し特訓したら、一回通しで録ってみましょう」 |
愛 | 「はいっ!」 |
千早 | 「でも今回は本当にゴメンなさい…こっちの事情で急に収録に呼ぶことになっちゃって…」 |
愛 | 「春香さん、身体の具合は大丈夫ですか?」 |
千早 | 「もうしばらく休養が必要だけどだいぶ良くなったわ」 |
愛 | 「先週お見舞いに行きましたけど、やっぱりCDのことを心配してました」 |
千早 | 「そうね…1曲目はまだ録り終わってたから良かったけれど、その矢先だったもの…」 |
愛 | 「でもどうして…あたしになったんですか?」 |
千早 | 「日高さん?」 |
愛 | 「あたしがこういう形で呼ばれるなんて思ってなかったんです」 |
千早 | 「それは…前に一緒に歌ってから、それからもずっと春香に近いなって思ってたの…」 |
愛 | 「あたしが春香さんと似てるってことですか?」 |
千早 | 「ん…」 |
千早は一つ頷いた。 |
千早 | 「思っていた以上にイメージが近かったわ」 |
愛 | 「そう言われると何だか少し恥ずかしいです」 |
千早 | 「今回春香が倒れてしまって、事務所の中で代役を見つけようとしてもなかなか見当たらなかったの…」 |
愛 | 「そうだったんですか?」 |
千早 | 「春香って元気さもだけど、それ以外に真っ直ぐさとか他の事も必要なの」 |
愛 | 「なるほど…」 |
千早 | 「そう考えたら、事務所の誰にもピンとは来なかったのよ」 |
愛 | 「………」 |
千早 | 「それでプロデューサーから他の事務所でも良いって言われたの」 |
愛 | 「それで、あたしになったんですか?」 |
千早 | 「ええ。この曲なら春香よりむしろ、日高さんとの方が合う気がしたわ」 |
愛 | 「千早さんの中での微妙な違いってことですか?」 |
千早 | 「そうなのかもしれないわね」 |
愛 | 「でも春香さんのためにも、もっと頑張らないと…ですっ」 |
千早 | 「ありがとう、日高さん」 |
愛 | 「どういたしましてです」 |
千早 | 「そろそろもう一回ブースに入る?」 |
愛 | 「そうですね、今日中に出来る限りやりましょう」 |
……… |
とりあえずの収録が終わり… |
ガチャっ バタンッ |
千早と愛はブースから外の調整室へと出てきた。 |
P | 「二人ともご苦労様」 |
千早 | 「プロデューサー、どうでしたか?」 |
P | 「俺はOKだと思うぞ、千早」 |
愛 | 「やっぱり緊張しましたっ」 |
P | 「日高さんも今回は急遽だったけど、とても良かったよ」 |
愛 | 「ありがとうございます、こんな機会滅多に無いですから自分の全力で頑張りました」 |
P | 「本当に春香の代わりだけじゃ勿体無いなって思ったよ。また今度考えるかもしれないなあ」 |
愛 | 「え、ええーっ、そ、そんな買いかぶりすぎですよぉ」 |
P | 「そんなこと無いって、日高さん。何せうちの千早が実力を認めたんだから」 |
愛 | 「あ、ありがとうございます」 |
千早 | 「プロデューサー、一度聴かせてもらいたいんですが…」 |
P | 「あ、そうだな。一度流すよ」 |
千早 | 「はい、お願いします」 |
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P | 「どうだ?二人とも」 |
愛 | 「もう少しだけ…ちょっと何だか足りない感じかなーって」 |
千早 | 「むしろ私の方がもう少し足りない気がします…」 |
P | 「俺は問題ないくらいだと思うけどな」 |
愛 | 「でも、ちょっとあたしの方が強くてこの曲のイメージにまだ合っていない気がします」 |
千早 | 「ううん、私の方がまだ伸びやかさが少し足りないわ」 |
P | 「それじゃあ二人とも納得してないようだし、もう一回録るか?今日はあと2時間大丈夫だぞ」 |
千早 | 「日高さんはどうかしら?」 |
愛 | 「千早さんはどうですか?」 |
千早 | 「私は大丈夫よ」 |
愛 | 「あたしもOKです」 |
P | 「じゃあもう1回やるか、二人ともすぐにできるか?」 |
千早・愛 | 「はい…」 「はいっ」 |
P | 「よし、ブースで準備をしてくれ」 |
ブースの中の二人… |
愛 | 「千早さん…」 |
千早 | 「どうしたの?日高さん」 |
愛 | 「春香さんのために…そして自分のために…頑張ります」 |
千早 | 「そうね…春香のためだけじゃダメ。日高さん自身のために頑張って欲しいわ」 |
愛 | 「はいっ!」 |
千早 | 「だけど変に気負わずに…」 |
ぎゅうっ |
千早は愛の身体を抱きしめた。 |
愛 | 「ち、千早さんっ!?」 |
千早 | 「頑張って…日高さん」 |
愛 | 「千早さん…あたし…やりますっ!」 |
2回目の収録は二人の気持ちが通じ合ったのか、休養中の春香も納得の曲だったとことである… |