Renegade Teardrop(裏切りの涙)

千早「何だか不穏な空気がするわ…」
千早は家への帰り道、人通りも殆ど無い場所で何かを感じ取ったようだ。
千早「誰かに…つけられているのかしら…」
少しずつ速くなる千早の足、しかしその足音も同じように速度を上げている。
千早「ひっ…!」
タタタタタタ
怖い…怖いが振り向くことはできないと、振り切るためについには走り始めた千早。
千早「追いかけて…来る…っ!」
ダダダダダダダ
だが後ろの足音もそれに負けじと追いかけて来る。そこで千早は意を決して…
千早「誰なの?!」
歩みを止めて怖さからまだ下を向きながら後ろを振り返った。
美希「…んっ!」
相手もその行動に驚いた様子だが、次に出た言葉は意外なものだった。
美希「やっぱり、千早さんだった!」
千早「え?私の名前をどうして…でも聞いたことはある声よね…」
顔を上げたその目の前にいたのは…
千早「やっぱり…美希だったのね」
美希「ミキがこんなところにいたら悪いの?」
千早「悪いなんて言ってないわ。でも何で私をつけて来たのよ」
美希「そんなのミキの勝手だもん。でもライバルは一人でも…先に減らしておいたほうがいいから…」
千早「えっ…」
美希「ねえ、ミキが右手に持ってるの、何だか知ってる?」
その美希の右手には…
千早「美希!何でそんな物騒な物!今すぐ棄てなさい!」
何やら銀色の鋭そうな物が一つ。
美希「そんな敵の言葉なんて聞くと思うの?」
じりじりと後ろに下がる千早。
千早「人殺しになるのよ、美希はそれでもいいの…?」
美希「ハニーを奪うためなら、ミキはどんな手段でも取るの…」
少しずつ美希の誘導されるがままに行き止まりになる場所へと追い詰められていく。
千早「そんなことしてプロデューサーが喜ぶとでも思ってるの…?」
美希「潰してでも奪い取れ、それが961プロの方針だから…」
千早「事務所の方針だからって…」
美希「まずは一番邪魔になる千早さんを、居なくしちゃうしかないもん…」
ドンっ
千早は行き止まりの壁へと追い詰められた。
千早「美希…もう一度言うわ…今すぐにこんなこと止めなさい…っ!」
美希「そんな風に言われて、ミキがやめると思ってるんだ…」
千早「お願いっ…」
目には涙を浮かべ、懇願している千早。
美希「千早さん…さよなら…」
ドンッ
美希は右手に持っていたものを千早の腹部に押し込んだ。
美希「ねえ…千早さん、今どんな気持ち…?」
千早「んっ…まさかかつての仲間にこんなこと…されるなんて…」
美希「千早さん、何言ってるの?」
千早「えっ…」
美希「ミキの持ってるの、本物だと思ってた?」
千早「そういえば…血なんて出てない…」
美希「じゃあこの前ミキが出た舞台を見てないんだ」
千早「それって確かサスペンスの…」
美希「これ、その時使った小道具のだもん」
すこんっ すこんっ
美希が刃の部分を押すと、その部分が引っ込んだ。よく見ると刃の部分も銀色とは言え光は反射してはいない。
美希「でも事務所から千早をつけてたのも、襲った理由も本当だよ」
千早「………」
千早はあえて言葉を使わなかった。
美希「え、ち、千早さん…?」
次の瞬間…
パンッ…
美希「…っ!」
それは美希の左頬が叩かれた音だった。
千早「どうして…どうしてこんなことしたの…!!」
千早の声が響き渡る。
美希「………」
千早「美希は確かに私のライバルよ…だけど…だけど…こんな風なことして欲しいなんて思ったことは無いわ!」
美希「………」
千早「どうしてこんなに真剣に怒ってるか分かる?」
美希「千早…さん」
千早「美希のこと…美希のこと、仲間だと思っているからよ…!」
美希「ちは…やさ…」
その千早の言葉に美希は…
美希「うわああああああん!!!」
堰を切ったように泣き出した。
美希「だって…だって…ミキはハニーのこと欲しいもん…」
千早「だったら、だったらこんなことしないで堂々と勝負して」
美希「でも…」
千早「こんなことした美希のことは嫌いよ。でも勝負してくれるなら…私は真剣に受けて立つわ」
美希「…うん…」
千早「だから、遊びでも二度とこんなことはしないで」
美希「ゴメン…なさい、千早…ぐすっ…さん」
千早「もう…」
ぎゅっ
千早は胸に包み込むように美希を抱きしめた。
美希「千早さん…暖かい…温かいよ…」
千早「美希…」
そこで美希はあることに気が付いた。
美希「千早さん…ちょっとだけ大きくなってるね」
千早「ええっ!?」
美希「だって…前に抱きしめてもらった時の硬さと…違うもん」
千早「そう…かしら?」
美希「うん…」
千早「そんなお世辞言っても…私は手を抜いたりしないから」
美希「そうだよね、でも…本当のことだよ」
千早「ありがとう…美希」
美希「今度のアイドルアルティメット予選、千早さんも上がってきてね」
千早「美希も予選落ちしたら承知しないから」
美希「大丈夫…だもん絶対に」
千早「ええ。一番高い場所で、勝負しましょう」
美希「…うん」
その時、美希の瞳から最後の雫が零れ落ちていったという…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
どもっ、飛神宮子です。
3ヶ月に1度の961SS。そしてローテと未執筆シリーズの関係で3ヶ月連続の美希SSとなりました。
自分の心に、やりたいことに素直に生きたい美希。それに立ち向かう立場の千早。
美希の流した涙、心の底に残っていた仲間という気持ち、それが流させたのでしょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2011・12・21WED
飛神宮子
短編小説に戻る