Recreational Rival(気晴らしのための好敵手)

ここはある日のレコーディングスタジオ…
『うーん…真、ちょっと休憩いれるかー?』
ブースの外でプロデューサーが何やら難しい顔をしていた。
「んー…時間って大丈夫なんですか?」
『今日は大丈夫だぞ。曲数も多いから1日取ってあるからな』
「じゃあちょっと入れさせてくださーい」
カチャッ バタンッ
真がヘッドホンを置いてブースの中から出てきた。
「どうした真、何か気が入ってないというか…なあ」
「よく分からないんですけど…何だか気分が上手く乗らなくて…」
「いつもよりリズム感というか声質というか、何か足りない感じだよな」
「自分でも何か違うって分かってるんですけど…」
「やっぱり少し気分を変えた方がいいな。どれくらい必要だ?」
「うーん、どれくらいまで大丈夫ですか?」
「とりあえず1時間…精々2時間だな。どっか出るのか?」
「ちょっと出てきます。何かそれで変わるかもしれないんで」
「ああ、気をつけるんだぞ。戻ってくるときは携帯に連絡をくれ」
「はーい」
真は部屋の外へと出た。と、その時…
「くあー!疲れたー!遅くても2時間で戻ってくるさー!」
隣の部屋から出てきた何やら聞きなれた声の女の子…
「あれ?もしかして…」
その声に気付いたのかその女の子も真の方へと振り向いた。
「ん…?あーっ!」
「やっぱりー!?」
「ど、どうして765プロの真がこんなところにいるんだよ!」
「どうしてってそれはこっちのセリフだよ!」
「まったく、真とこんなところで会うなんて…で、何してるんだ?」
「ここにいるなら決まってるじゃないか。響は?」
「自分もCDの収録さ」
「………」
「………」
「ま、そっか。ここに来てるのにそれ以外のことは無いだろうし」
「で、何してるんだ?」
「どうも気分が乗らなくって休憩取っただけだけど。響は?」
「自分もさー。社長から何回もダメ出し食らったんさー」
「お互い様ってところなのか」
「それで、これからどうするんだ?」
「どうしようかなあ…気分変えて来いって言われたしさ」
「自分もだけど…」
「………」
「………」
言葉が無くなる二人。
「とりあえずどっか行くか?」
「ボクが響と?」
「しょうがないだろ、ここで会っちゃったんだからさー」
「でもどこに行く?」
「そんなこと言われても…こういう時は気晴らしだな」
「気晴らしかあ…」
「………よし、行くぞ真」
「え?どこに?」
「付いてくれば分かるさ。だから早く」
「う、うん…」
………
バタンッ
「じゃあ1時間しかないからバンバン歌うぞ真」
「そうだね、もうこうなったら気晴らしに歌おっと」
そう、二人は近くのカラオケボックスへと来たのである。
「じゃあまずは…自分はこれで行くか。真は?」
「ちょっと待って…じゃあボクはこれにするかな」
「しっかしまさか真とこんなところに来る事になるとはなー」
「ボクだってそうだよ。あんなところで響と鉢合わせするなんて思わなかったよ」
「あ、そうだ。このカラオケって…得点機能あったっけ」
「えっと…うん、あるみたいだけど…勝負する?」
「どうせ遊びみたいなものだけど、少し勝負するか?」
「よし、受けて立とうじゃないか」
「じゃあ4本…いや、時間的に5本勝負で大丈夫だな。総得点が多いほうが勝ちな」
「オッケー、じゃあちょっと設定変えて…これで大丈夫なはず」
「じゃあ自分から、聞いて腰抜かすなよな」
「そんなこと言って、そっちこそね」
「へへーんだ。自分がそんな風になるわけないさー」
 
「はあ…全力で歌い切ったけど…どうかな」
画面には76点と表示された。
「あー、途中でミスしたのが響いたなあ…」
「これで5曲ずつだな…真に76点足して…」
「どうなった?」
「え?あ…」
「どうしたの?響」
「自分、計算間違ってないよな。真、見て」
「いいけど…本当だ。どうする?2曲目引き分けで2勝2敗だし…」
「最高得点も94点で同じなんだぞ…」
「じゃあ引き分けってことでいいかな?」
「そうだな。何かこうやって歌ったらすっきりしたさ」
「ボクもだよ。思い切りシャウトしたら気分が晴れたよ」
「…自分たちって敵同士なのにな」
「敵同士だったからじゃない?対抗心でさ」
「そっか…あ、真のっていつ発売だ?」
「えっと確か来月の…○日かな」
「自分と同じじゃないか、自分も確か○日だって」
「それは言われてる。ぶつけに行ったって言われたんだ」
「本番の勝負も負けないからな」
「こっちだって全力出して行くよ」
「でも…こうしている時間も何だか…悪くない気がするさ」
「うん…響とこうしてちゃんと話す機会も無かったからね」
「社長に怒られるかもしれないけど、またタイミングが合ったらどうだ?」
「うん…ボクもプロデューサーに何言われてもいいや、楽しかったしさ」
「じゃあお金払ってスタジオ戻るか真」
「そうだね、この勝負はまた次回にお預けってことでさ」
「そうだな。また今度な」
気分転換が済んだ二人は、その後それぞれ一発OKを繰り返したという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
響はこれで961当時のライバルは3人ともになりますね。
この二人は常に良い好敵手という形の二人。似たようで違うようでやっぱり似ている。
だからこそ、互い自身は認め合える…事務所の方針がただ悪かった…それだけかなと。
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2012・03・18SUN
飛神宮子
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