Recollective Place(想い出の場所)

ある日のとある駅前…
「あれ?ここじゃない…」
その駅の駅前に降り立ったプロデューサーと小鳥。特に何かあるわけではない駅ではある。
小鳥「え?でもプロデューサーさん、ここだって言ってましたよね」
「うーん、もしかして記憶違いだったのかな」
ここは山手線のとある駅から1駅前で乗り継いだ先の、ここも乗り換え駅でもある駅。
小鳥「でももう一つ心当たりがあるんでしょ?」
「ええ。ここから3駅先の駅なんですけど…」
小鳥「それなら行ってみた方がいいんじゃないかしら」
「そうですね、まずは行ってみましょうか」
小鳥「えっと、次の電車は…」
「確かさっきあった表示板ではもうすぐでしたよ」
小鳥「それなら急ぎましょう。まだ間に合いますよね?」
「はい、あと2分はあるんで」
小鳥「じゃ、急いだ方が良いわね。ほら、走りましょう」
ギュッ
小鳥はプロデューサーの手を握り、駅の階段を一緒に上り始めた。
………
ここはその駅のホーム。
小鳥「ふう…割と間に合っちゃったわね」
「はい…ここ始発とは言え折り返しですし早くしないと行っちゃいますからね」
小鳥「ふわあ…」
ここで一つ欠伸をする小鳥。
「大丈夫ですか?朝早かったですし」
実のところ時刻はまだ朝の6時前。
小鳥「いえ、大丈夫よ」
「でも…俺の想い出探しなのに、どうして小鳥さんも来ることにしたんです?」
小鳥「うーん、どうしてかしら…」
「えっ…」
小鳥「プロデューサーさんのこと、もっと知りたかったから…かしらね」
「小鳥さん…何だかそう言われると気恥ずかしいですよ」
小鳥「フフフ、そういうところが可愛いんだから」
「そう…ですか?」
小鳥「あ、ほら来ましたよ。これかしら?」
「はい。これのちょうど折り返しです」
小鳥「やっぱり朝だから余り混んでないですね」
「そりゃそうでしょう。まあ3駅くらいなのもありますけどね」
小鳥「なるほど…でも終点は中央線の駅ですよね」
「それもそうですけど、時間帯でしょう。たぶん特快に合わせるとまだ大丈夫ですし」
小鳥「そういうことですか…」
「ほら座りましょう、小鳥さん」
小鳥「そうねプロデューサーさん」
二人は仲好く隣同士でシートへと座った。
………
そしてその駅の北口…
「ここ…だったのか」
小鳥「だったのね?プロデューサーさん」
「この感じ、確かに間違いありません」
想い出の地を前にして、少し昔を懐かしむプロデューサー。
「でも少しだけ勘違いしてたんですよ」
小鳥「勘違い…ですか?」
「ええ。周りは確かにあっちの駅だったんです。でも駅自体はこっちでした」
小鳥「長い間来なかったから、頭の中で一つの景色になっちゃったのね」
「そうみたいです」
小鳥「昔のことって、たまにそうなりますから。私にも分かる気がするわ」
「でも良かったです。想い出を確かな物に出来て」
小鳥「フフフ、何だか本当に嬉しそうですね」
「はい。でももうこれはこれで終わりにしたいと思います」
小鳥「えっ…どうして?」
「だってこれは過去の想い出ですから。新しい想い出は…」
チュッ
プロデューサーは小鳥をそっと引き寄せて頬へと口付けた。
「小鳥さんと作りたいですから」
小鳥「もう…こんな公衆の面前で…」
「よし、これでもう分かりましたし事務所へ行きましょう」
小鳥「そうですね、千早ちゃんも待ってますし」
そう。今日は千早のイベントがある日でもあったのだ。
小鳥「千早ちゃん大丈夫かしら?」
「確かにここ最近忙しかったですからね。一応台本は渡してありますけど…」
小鳥「まあ行ってみて…ね。ダメだったら台本見ていいとは言ったんでしょ?」
「はい。それはもう仕方ありませんから」
小鳥「千早ちゃん、ああいうことでも真剣になっちゃうから…徹夜して覚えてきてるかもしれないわ」
「あ、それは無いと思いますよ」
小鳥「え?どうして?」
「2ステージあるんで、早めに休むようには言ってますから」
小鳥「なるほど…」
「よし、そろそろ行きますか。昼の部が13時からなんで準備も必要ですし」
小鳥「そうですね、行きましょ。あ…でもまだ朝6時ですけど、朝ご飯どうします?」
「それは戻ってから考えましょう。朝から開いている店にでも…ね」
小鳥「それなら私の知っている店にしましょ。まだプロデューサーさんには教えてない店があったわ」
「小鳥さんがそう言うならそうしましょうか」
小鳥「はい。あ、あと次の電車まで10分らしいですよ」
「本当だ。小鳥さんはカード大丈夫ですか?」
小鳥「ええ。まだ2000円は入ってるわ」
「意外とここから事務所まで遠いんで、けっこう電車賃掛かりますからね」
小鳥「ここまで来ると東京に戻るだけで500円とか行くんですよね」
「東京までだと540円、向こうまでだと620円…ですね。だからこそ小鳥さんに付きあってもらうのが忍びなくて…」
小鳥「いいんです。あなたとちょっと、想い出を共有してみたかったの」
「小鳥さん…」
小鳥「ほら、もうこんなことしている場合じゃないわよ」
「そうですね、行きましょうか」
二人はカードを改札に翳してJRのホームへと向かっていった。
………
ここは朝食のために小鳥が案内した店。
「…なるほど、こういう店でしたか」
小鳥「この時間じゃなくちゃダメなの。味はどうかしら?」
「美味しいです。この安さでこの味は出せませんよ」
小鳥「フフフ、プロデューサーさんもやっぱり同じこと言ったわね」
「へ?」
小鳥「前に真ちゃんを連れてきたことがあるんです。真ちゃんも全く同じこと言ったの」
「そうだったんですか」
小鳥「ほら、よく店を見れば分かるんじゃないかしら?」
「……ん?あのサインってもしかして…」
プロデューサーは数あるサインの中に、何やら見慣れた物を見つけた。
「納得しました。小鳥さん、大丈夫なんですよね?」
小鳥「大丈夫です。きちんと約束はとりつけてありますから」
「それなら良かった…ですけど程々にしてくださいね」
小鳥「分かってますよぉもう。そんな見境なくなんてできないのは分かってますから」
「あ、小鳥さん。ご飯粒付いちゃってますよ」
小鳥「え?どこですか?」
サッ パクっ
取るより先にプロデューサーの指は小鳥の頬へと伸び、そのまま自らの口へと動いていった。
「取れましたよ、小鳥さん」
小鳥「もう…こんなところで恥ずかしいじゃないですかあ」
すっかり真っ赤ではあったものの、そんな小鳥の顔は曇り一つない笑顔になっていた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき
どもっ、飛神宮子です。
さて、今回の前半は東京に行ってやったことをそのままSSにしました。
両方の実際の駅を言いますと、前者が萩山駅、後者が国分寺駅です。
実はこの景色こそこのHN「飛神宮子」の大元となったHN「琴瑞」の由来でもあるのですよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2010・05・13THU
飛神宮子
短編小説に戻る