P | 「ん?あれは…」 |
プロデューサーが夜の帰りに寄り道をしていると、公園に一人の女性が居た。 |
P | 「貴音…だよな?」 |
貴音 | 「…あなた様ですか」 |
P | 「こんな所で何をしてたんだ?事務所は逆じゃないのか?」 |
貴音 | 「月を…見てましたので」 |
P | 「月?」 |
貴音 | 「今宵の月は綺麗でしょう」 |
ふと空を見上げるプロデューサー。空には青白く光る月が浮かんでいた。 |
P | 「…そうだな。こんな風に空を見ることも最近は無かったな…」 |
貴音 | 「こうして月を眺めていると…心が浄化されてまいります」 |
P | 「それは分からなくもないな」 |
貴音 | 「ところであなた様は、何ゆえにこちらへ来られたのでしょう?」 |
P | 「まあちょっと寄り道がしたくなったからかな」 |
貴音 | 「それよりもあの二人のことを考えた方が宜しいのでは?」 |
P | 「いや、今はちょっと考えたくなくてね」 |
貴音 | 「それはいかがなされたのですか?」 |
P | 「最近どうも生意気になってきてね…ってこんなことを話してもしょうがないか」 |
貴音 | 「いえ…フフフ」 |
P | 「え?どうして…」 |
貴音 | 「どうしてでしょう…申し訳ありません」 |
P | 「いや、いいんだけどさ」 |
貴音 | 「でも…どうして私の許へ?私はあなたにとっては敵でしょう」 |
P | 「こういう時まで敵味方は関係無いと思うけどな」 |
貴音 | 「それは違うのでは?」 |
P | 「違わないさ、公私で言ったら今は私の方だろ?」 |
貴音 | 「それは確かにそうですが…」 |
P | 「ま、でもこんな所で立ち話も難だしさ…場所を変えないか?」 |
貴音 | 「どうしてでしょう?」 |
P | 「いくらこの時間とは言え、こんな所を記者に見られたら拙いじゃないか」 |
貴音 | 「…それもそうですわね」 |
P | 「それにな、もう一つ」 |
貴音 | 「何でしょう?」 |
P | 「いくら敵とは言え、こんな所で女の子一人になんかさせてられないさ」 |
貴音 | 「私の身に何か起こるとでも仰るのですか?」 |
P | 「俺としては何か起こってからじゃ遅いと思うけどな。まあこれはプロデューサーとしての持論だけど」 |
貴音 | 「そのようにあなた様が言うのならば…今は信じましょう」 |
P | 「とりあえずさ、今は時間はあるの?」 |
貴音 | 「今宵ならば特に問題は無きにありますが」 |
P | 「それなら…」 |
|
ザザーン… ザザーン… |
貴音とプロデューサーの二人はプロデューサーの車で海岸へと来ていた。 |
貴音 | 「…何ゆえに私をこのような場所へ?」 |
P | 「ん?いや、何となくだけどさ。純粋に空を見たかったからかな」 |
貴音 | 「それならばあの場所でも良かったのでは?」 |
P | 「そうかな?俺はそうは思わないな」 |
貴音 | 「それはどのような理由でしょう」 |
P | 「都会の空は、光に溢れすぎて綺麗じゃないからさ」 |
貴音 | 「…確かにそれは仰る通りかもしれません」 |
P | 「でも満天の星空を眺めるのも久しぶりかもしれないなあ」 |
貴音 | 「そうなのですか?」 |
P | 「それもさ、こんな綺麗な女性が隣に居る場所でなんてね」 |
貴音 | 「なっ…」 |
少しだけ顔が紅みを帯びてきた貴音。 |
貴音 | 「なぜそのようなことを刹那に述べられるのですか」 |
P | 「いや、正直な感想を述べたまでだけど」 |
貴音 | 「申し訳ありませぬ、慣れていない言葉でしたので取り乱してしまいました」 |
P | 「でも本当に綺麗だと思うけどな」 |
貴音 | 「それは月の光の力かと思いますわ」 |
P | 「そうなのかな」 |
貴音 | 「月の光は…天然の間接照明となりますから」 |
P | 「そっか…言われてみればそうなんだな」 |
貴音 | 「太陽の光が途方とも言われぬ距離を通り、月を照らし反射し、この地を照らしているのです」 |
P | 「その光を貴音の顔が反射しているわけだ」 |
貴音 | 「…そういうことになりますか」 |
P | 「今日の光はどことなく青白いかな…だから普段よりも綺麗に見えるわけだ」 |
貴音 | 「…どうしてでしょうか、あなた様に言われるのは悪い気はしません」 |
P | 「悪い気はしない…か」 |
貴音 | 「…はい」 |
P | 「あのさ、一つ聞きたいんだけどいい?」 |
貴音 | 「何でしょう?」 |
P | 「俺のことってどう思ってる?」 |
貴音 | 「どうと言いますと…」 |
P | 「いや、何となく聞きたかっただけさ」 |
貴音 | 「そうですわね…本当は961プロとしてこのようなことを思ってはならないのですが、嫌いではありません」 |
P | 「それなら良かった」 |
貴音 | 「それでなくては、あなた様についてここに参るなど…考えられないでしょう」 |
P | 「まあそうだよな、俺なんか特に目の敵にされているはずだし」 |
貴音 | 「今日こうして二人で居られた時間、それに嫌悪感を抱いたことは一時もありません」 |
P | 「そうなの…か」 |
貴音 | 「フフフ、何をそんなに難しい顔をされているのですか?」 |
P | 「何でもないよ…でもさ」 |
貴音 | 「でも…何でしょう?」 |
P | 「笑顔の方がいいなと思っただけ」 |
貴音 | 「そのように言われましても何もありませんからね」 |
P | 「いや、何も求めてないさ」 |
貴音 | 「そうですか…」 |
P | 「でも今日は…いい日だったな」 |
貴音 | 「私も今日は良い時間を過ごすことが出来た気がします」 |
P | 「またこうして逢えることはあるのかな?」 |
貴音 | 「どうでしょうか、このような月がまた出ている日ならば遭遇できましょう」 |
P | 「分かった…また逢える運命にありたいからさ」 |
貴音 | 「こちらこそ…」 |
P | 「よし、じゃあ送っていくから車に乗ってくれる?」 |
貴音 | 「分かりました。今日は本当にありがとうございました」 |
P | 「こちらこそ。今日のことは黒井社長の方には内緒にね」 |
貴音 | 「勿論ですわ、そちらの方もくれぐれも他の方々には…」 |
P | 「分かってる、俺だって社長に何言われるか分からないし」 |
貴音 | 「フフフ…そうですわね」 |
それからの貴音の表情は、以前と比べるとどことなく柔らかくなっていたと言う… |