ここはとある日の撮影スタジオ… |
伊織 | 「あら、こんにちは絵理」 |
絵理 | 「よろしく…お願いします?伊織さん」 |
伊織 | 「あのねえ…そうじゃないでしょもう」 |
絵理 | 「え…?」 |
伊織 | 「絵理って、自分の方が年上だって自覚無いのね?」 |
絵理 | 「そう…だけど、でもどうすれば?」 |
伊織 | 「もっと堂々としてなさいよ」 |
絵理 | 「でも先輩ですから?」 |
伊織 | 「まあ確かにそういうのもあるけど、それはそれじゃない」 |
絵理 | 「分かりました、伊織さん」 |
伊織 | 「でも変ね…今日は確か撮影は一人って聞いたわよ」 |
絵理 | 「あ、それはわたし?」 |
伊織 | 「え?どういうことよ?」 |
絵理 | 「今日の映像加工は私がすることになってるので…」 |
伊織 | 「…はい?」 |
絵理 | 「こういうこと?」 |
伊織 | 「プロデューサー、説明してちょうだい」 |
P | 「ああ、説明してなかったな。今日撮影する映像は、水谷さんに加工してもらうことになったんだ」 |
こくん |
絵理は一つ頷いた。 |
伊織 | 「はあ?どうしてなのよ」 |
P | 「知らなかったのか?アイドルながら、この子の映像加工技術はプロさながらなんだ」 |
伊織 | 「そう…そういうことね」 |
P | 「それで実験的にやってみるのも面白いんじゃないかって話になってな」 |
伊織 | 「それでどうして私なのかしら?」 |
P | 「伊織が加工するのに良さそうな内容だったからさ」 |
伊織 | 「分かったわよ。でもやるんだったらしっかりやりなさいよ、絵理」 |
絵理 | 「…はい」 |
P | 「じゃあ伊織、今日の撮影プランなんだけどな…」 |
|
P | 「…という感じなんだがどうだ?」 |
伊織 | 「衣装は準備できてるんでしょ?」 |
P | 「ああ。CG加工用のも合わせてな」 |
伊織 | 「それならそれでいいわ。絵理、貴方の意見は?」 |
P | 「色々な方向で撮影していただければそれで…」 |
伊織 | 「プロデューサー、歌ありの撮りは何回するのかしら?」 |
P | 「2回だな。それで済むようにカメラ配置の予定だからさ」 |
伊織 | 「2回ね。リハはもう準備できてるの?」 |
P | 「ちょっと確認してくるから待っててくれ」 |
バタンッ |
プロデューサーが出たのを見計らって… |
伊織 | 「アンタ、若干納得してなかったでしょ?」 |
絵理 | 「はい…でもどうして?」 |
伊織 | 「表情の曇り方でそれくらい分かるわよ。もっときちんと言わなきゃダメじゃない」 |
絵理 | 「すみません…」 |
伊織 | 「それでどうして欲しいのよ、言いなさい」 |
絵理 | 「あの…………」 |
伊織 | 「そうねえ…いいじゃない、やってあげるわよ」 |
絵理 | 「ありがとうございます…」 |
そこで伊織は何か閃いたようだ。 |
伊織 | 「絵理、一つ聞いていいかしら?」 |
絵理 | 「な…何ですか?」 |
伊織 | 「私のこと、怖がってるでしょう」 |
絵理 | 「………」 |
こくんっ |
絵理は一つ頷いた。 |
伊織 | 「…はあ、図星ね。そんなに私がそういう風に見えるのかしら?」 |
絵理 | 「…そうじゃない?」 |
伊織 | 「ねえ、ちょっとこっちに来なさい」 |
絵理 | 「はい…」 |
ぽふっ |
絵理をソファーの隣へと座らせた伊織。そんな絵理を伊織は… |
ぎゅうっ |
絵理 | 「…えっ…?!」 |
胸へと引き込んだ。 |
伊織 | 「どうかしら?」 |
絵理 | 「………?!?!」 |
突然のことに目を白黒させている。 |
伊織 | 「私、絵理が思っているほどの女の子じゃないのよ」 |
絵理 | 「…伊織さん?」 |
伊織 | 「心許さなければこんなことしないから、フフフ」 |
絵理 | 「…温かいです」 |
伊織 | 「期待…してるわよ、映像の加工」 |
絵理 | 「はい…わたしの全力を尽くせば?」 |
伊織 | 「だから今のうちに、必要なことは言って欲しいんだけど」 |
絵理 | 「それなら………は?」 |
伊織 | 「あら、それは面白いじゃない。取り入れてみてもいいわね」 |
絵理 | 「あの、あとできればですが………も?」 |
伊織 | 「それくらいならいいと思うわよ」 |
絵理 | 「これで充分…?」 |
伊織 | 「あとは絵理の腕次第ね…そういえば、あなたの作品ってどんな感じなの?」 |
絵理 | 「今ありますけど…観る?」 |
伊織 | 「一度観ておいた方がこっちの参考にもなるから、お願いできるかしら?」 |
絵理 | 「はい…」 |
絵理は名残惜しそうに伊織の胸から離れ、鞄からノートパソコンを取り出した。 |
絵理 | 「少し待って…」 |
また隣に座ってPCを起動し、過去に作った映像を見せる絵理。 |
伊織 | 「これ…本当に絵理なの?」 |
こくんっ |
返事の代わりに一つ頷いた。 |
伊織 | 「この出来…これなら全て任せられるわね」 |
絵理 | 「わたし…頑張ります」 |
伊織 | 「私も先輩として、あなたの技術に負けない動きを見せるわよ」 |
絵理 | 「ダンスと演技、アイドルとして勉強します?」 |
伊織 | 「そうね、絵理の今後のためにも参考にして。絵理、あらためてよろしく頼むわね」 |
絵理 | 「伊織さん、こちらこそお願いします…あっ…」 |
伊織 | 「どうしたのよ」 |
絵理 | 「もう少しだけ伊織さんとさっきみたいに…?」 |
伊織 | 「…いいわよ、まだ来ないだろうからその間だけね」 |
プロデューサーが戻ってくるまでの束の間。二人だけの時がその部屋には流れていた… |