The Kiss Patch up Our(修正する口付け)

ここはある日の765プロ事務所…
「えーっ!ボ、ボクにドラマのオファーですか!?」
「ああ。まあちょっと落ち着いて座ってくれ」
「す、すいません。そんなの来ると思ってなかったんで」
「でもなあ…こういう役って真は嫌だろうなって思ってるけどな…」
「え?どんな役なんですか?」
「とりあえずこの書類を読んでくれ」
「分かりました」
プロデューサーから渡された書類を熟読する真。
「どうだ?こういうのあんまり嫌だろ?」
「…出演者に涼が居た時点で、だいたい分かってましたよ」
「雪歩や春香が前に共演しただろ?ディレクターがシリーズ化したいらしくてな」
「あのヴァンパイアの雪歩も初々しい春香も、意外と当たり役でしたよね」
「だけど今回の真の役はちょっとなあ…」
「自分の性別を少し思い直す役…ですからね」
「どうする?嫌なら断るからさ。俺は無理してまでやってもらいたくない」
「んー…でも、涼もボクも同じような悩み抱えてきてますからね」
「実体験でもこういうことあるのか?」
「プロデューサー、あれだけボクのこと王子様で売り出しておいて、その言葉は無いんじゃないですか」
「…そういうことか。確かにそうだよな、真の場合はそういうことが多かったし」
「ちょっと待ってくださいね」
真は携帯電話を取り出して電話を掛け始めた。
Trrrrr… Trrrrr…
………
ここは876プロ事務所。
「あれ?電話だ」
とある一人の少女のような少年に電話が掛かってきたようだ。
Pi♪
「もしもーし」
『もしもし、涼?』
「あ、こんにちは真さん」
『ちょっと聞きたいんだけどさ、もう涼の方にはドラマの話って行ってる?』
「え?あ、はい。また凄い設定ですよね…」
『うん。それで、涼の方は受けることにした?』
「何か僕のことを題材にされているようで、むず痒い感じで…でも、来たからには体当たりでやろうかなって思ってます」
『そうか…うん、ありがとう。これで悩みも吹っ切れたからさ』
「え?どういうことですか?」
『ちょっと踏ん切りがつかなくって。涼がそんなにやる気だったら、ボクもやらなくちゃって』
「そういうことだったんですか。分かりました、それじゃあ一緒に頑張りましょう」
『そうだね。それじゃあ今度は打ち合わせか現場かな?』
「そうですね。今度は真さんのファンに恨まれるのかなあ…」
『アハハっ、まあそれはそれでね。じゃ、ありがと』
「はい。ではまた今度会う機会に」
『了解。楽しみにしてるよ』
Pi♪
「はあ…また敵を増やしちゃうのかなあ…」
涼は少し苦笑した。
………
場所は戻って765プロ。
「今掛けたのってもしかして、秋月さんか?」
「受けるかちょっと迷ったんで、相手になる本人に直接聞こうかなって」
「それで聞いてた言葉だと、受けるんだな?」
「はいっ。やらせてください」
「分かった。じゃあちょっと連絡してくるから待ってて」
………
私の名前は秋月悠。女の子っぽいとはよく言われるけど一応男の子。
悠(涼)「このアクセ、いいなあ。ねえどう思う?」
話し相手は女の子の方がやっぱり多い。おもちゃにされることもあるけど。男だって実感するのは着替えとトイレくらいかな。
悠(涼)「このお店今度一緒に行こっか。いつがいい?」
あの事件が起こるまで、私はそんな感じで過ごしていた…
 
ボクの名前は菊地瞬。親の関係で男の子っぽく育てられたけど一応は女子。
瞬(真)「こっちは持ってるけどこっちは高いから2つは持ってないな」
話し相手は男子の方が多い。女だって実感するのは着替えとトイレくらい。
瞬(真)「え?これ持ってるの?今度貸してよ。こっち貸すからさ」
あの事件が起こるまで、私はそんな感じで過ごしていた…
 
ある日のボクの帰り道、家に向かっていると路地の方から声が聞こえたんだ。
悠(涼)「か、返してよぉ…」
不良「んだよ、これが男が持つ財布かよ!でも中身は詰まってそうだな」
悠(涼)「それには今度友達と買い物行く時のお金が入ってるんだってぇ…」
瞬(真)「ん?アイツは…うちのクラスの秋月じゃないか…しょうがないな」
ボクはその現場へと行くことにした。実は…ちょっとね。
瞬(真)「そこのお前、何してるんだよ!」
不良「何だお前、お前には関係ねーんだ…よ!」
ドンっ
その不良はボクのことを突き飛ばしてきたんだ。これでボクのスイッチがONになった。
瞬(真)「突き飛ばしたね?…ってことはこれで正当防衛が成立する…ねっ!」
ドガンっ
言葉を返しながら不良の鳩尾に正拳突きを一発。空手やってて良かったなって。
不良「…ぐっ!…」
瞬(真)「さっさとその財布置いて、どっか行ってしまえ!」
不良「す、済みませんでしたー!」
その不良はひきつった顔で鳩尾を押さえながら去っていった。
瞬(真)「はい財布、大丈夫か?秋月」
悠(涼)「菊地さん…す、凄いね。あんな不良を一発で追い払うなんて…」
瞬(真)「これくらい何とでもないさ」
悠(涼)「サラッと言えるってなかなかいないよ」
瞬(真)「でも本当に秋月はひ弱だな。男らしくないっていうかさ」
悠(涼)「だって…女の子っぽいって言われるし、弱々しいのは自覚してるけど…」
瞬(真)「だけど羨ましいよ」
悠(涼)「えっ…?」
瞬(真)「そういう性格って言うかさ。ボクも女の子らしくなりたかったさ」
悠(涼)「それだったら私も憧れるな…」
瞬(真)「え?」
悠(涼)「もっと私も、男子として強くなった方が良かったのかなって…」
瞬(真)「それならさ、ボクが秋月のこと鍛えてあげようか?」
悠(涼)「え、えっと…そんな…いいの?」
瞬(真)「但し、一つだけ条件があるけどな」
悠(涼)「条件って…?」
瞬(真)「ボクのこと…そのさ…女の子にしてよ。秋月を男の子にする代わりにさ」
悠(涼)「それくらいなら…私にもできるかな?菊地さんって…素材はいいと思うから」
瞬(真)「そ、そうなのか?自分だとよく分からないけど」
悠(涼)「あ、あれ?でも…どうして私が?女の子ならいっぱいいるよ?」
瞬(真)「実はな、秋月のこと…」
チュウっ
その刹那に、瞬の唇は悠の唇へと重なり合わさっていた。
悠(涼)「き、菊地さんっ!?」
瞬(真)「前から気になってた。自分に持ってないものを正反対の秋月が持ってたからね」
悠(涼)「でも私も…菊地さんのこと、ちょっと想ってた」
瞬(真)「たまに来る視線みたいなのはそれだったのかな…」
悠(涼)「憧れの人に…自然と行ってたのかも」
瞬(真)「よし、じゃあ明日からボクが秋月のこと鍛えてあげるから」
悠(涼)「うん…それなら私も明日から菊地さんのこと少しずつ女の子にするね」
………
監督「カーット!」
監督の声が響いた。
スタッフ「菊地さん、秋月さん休憩でーす」
「ふう…とりあえず今日の撮影はあと1カットだね」
「はあ…涼の…男の人の唇って…こんなに気持ち良いんだ…」
「ま、真さん!それは言わないでよぉ…」
「自分からキスするなんてまだドキドキが止まらないなあ…」
監督「いやあ、二人とも迫真の演技だったね」
「ありがとうございます。あ、あの不良役の人大丈夫でしたか?」
監督「大丈夫だったそうだ。かなり痛いって言ってたけどな」
「すみません、上手く加減出来なくて…」
監督「いいってことよ。その分だけ良い画が撮れたからさ」
「はあ…今度は真さんファンまで敵に回っちゃうのかなあ…」
監督「秋月くん、男役の不幸だと思って気にするな。男ならドンと構えて」
「はい…でも雪歩さんだけじゃなくて、星井さんにまで『後で覚悟しておいて』って言われたんですよ」
「え?雪歩に美希?あの二人ならボクから一言、言っておくからさ」
「お願いします、真さん…」
真は涼の感触が載ったのを思い出すように、唇を少しの間押さえていたという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
4本同時公開3本目。涼との短編ドラマ3本目です。
さて3本目は真逆の悩みを抱える真の登場となりました。
いや、本当はこの先に「自分の前でだけ出して」っていうのがあったんですけど、紙面(?)の都合上で割愛しました(汗)
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2011・03・20SUN
飛神宮子
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