ここはある日の765プロ事務所… |
真 | 「えーっ!ボ、ボクにドラマのオファーですか!?」 |
P | 「ああ。まあちょっと落ち着いて座ってくれ」 |
真 | 「す、すいません。そんなの来ると思ってなかったんで」 |
P | 「でもなあ…こういう役って真は嫌だろうなって思ってるけどな…」 |
真 | 「え?どんな役なんですか?」 |
P | 「とりあえずこの書類を読んでくれ」 |
真 | 「分かりました」 |
プロデューサーから渡された書類を熟読する真。 |
P | 「どうだ?こういうのあんまり嫌だろ?」 |
真 | 「…出演者に涼が居た時点で、だいたい分かってましたよ」 |
P | 「雪歩や春香が前に共演しただろ?ディレクターがシリーズ化したいらしくてな」 |
真 | 「あのヴァンパイアの雪歩も初々しい春香も、意外と当たり役でしたよね」 |
P | 「だけど今回の真の役はちょっとなあ…」 |
真 | 「自分の性別を少し思い直す役…ですからね」 |
P | 「どうする?嫌なら断るからさ。俺は無理してまでやってもらいたくない」 |
真 | 「んー…でも、涼もボクも同じような悩み抱えてきてますからね」 |
P | 「実体験でもこういうことあるのか?」 |
真 | 「プロデューサー、あれだけボクのこと王子様で売り出しておいて、その言葉は無いんじゃないですか」 |
P | 「…そういうことか。確かにそうだよな、真の場合はそういうことが多かったし」 |
真 | 「ちょっと待ってくださいね」 |
真は携帯電話を取り出して電話を掛け始めた。 |
Trrrrr… Trrrrr… |
……… |
ここは876プロ事務所。 |
涼 | 「あれ?電話だ」 |
とある一人の少女のような少年に電話が掛かってきたようだ。 |
Pi♪ |
涼 | 「もしもーし」 |
真 | 『もしもし、涼?』 |
涼 | 「あ、こんにちは真さん」 |
真 | 『ちょっと聞きたいんだけどさ、もう涼の方にはドラマの話って行ってる?』 |
涼 | 「え?あ、はい。また凄い設定ですよね…」 |
真 | 『うん。それで、涼の方は受けることにした?』 |
涼 | 「何か僕のことを題材にされているようで、むず痒い感じで…でも、来たからには体当たりでやろうかなって思ってます」 |
真 | 『そうか…うん、ありがとう。これで悩みも吹っ切れたからさ』 |
涼 | 「え?どういうことですか?」 |
真 | 『ちょっと踏ん切りがつかなくって。涼がそんなにやる気だったら、ボクもやらなくちゃって』 |
涼 | 「そういうことだったんですか。分かりました、それじゃあ一緒に頑張りましょう」 |
真 | 『そうだね。それじゃあ今度は打ち合わせか現場かな?』 |
涼 | 「そうですね。今度は真さんのファンに恨まれるのかなあ…」 |
真 | 『アハハっ、まあそれはそれでね。じゃ、ありがと』 |
涼 | 「はい。ではまた今度会う機会に」 |
真 | 『了解。楽しみにしてるよ』 |
Pi♪ |
涼 | 「はあ…また敵を増やしちゃうのかなあ…」 |
涼は少し苦笑した。 |
……… |
場所は戻って765プロ。 |
P | 「今掛けたのってもしかして、秋月さんか?」 |
真 | 「受けるかちょっと迷ったんで、相手になる本人に直接聞こうかなって」 |
P | 「それで聞いてた言葉だと、受けるんだな?」 |
真 | 「はいっ。やらせてください」 |
P | 「分かった。じゃあちょっと連絡してくるから待ってて」 |
……… |
私の名前は秋月悠。女の子っぽいとはよく言われるけど一応男の子。 |
悠(涼) | 「このアクセ、いいなあ。ねえどう思う?」 |
話し相手は女の子の方がやっぱり多い。おもちゃにされることもあるけど。男だって実感するのは着替えとトイレくらいかな。 |
悠(涼) | 「このお店今度一緒に行こっか。いつがいい?」 |
あの事件が起こるまで、私はそんな感じで過ごしていた… |
|
ボクの名前は菊地瞬。親の関係で男の子っぽく育てられたけど一応は女子。 |
瞬(真) | 「こっちは持ってるけどこっちは高いから2つは持ってないな」 |
話し相手は男子の方が多い。女だって実感するのは着替えとトイレくらい。 |
瞬(真) | 「え?これ持ってるの?今度貸してよ。こっち貸すからさ」 |
あの事件が起こるまで、私はそんな感じで過ごしていた… |
|
ある日のボクの帰り道、家に向かっていると路地の方から声が聞こえたんだ。 |
悠(涼) | 「か、返してよぉ…」 |
不良 | 「んだよ、これが男が持つ財布かよ!でも中身は詰まってそうだな」 |
悠(涼) | 「それには今度友達と買い物行く時のお金が入ってるんだってぇ…」 |
瞬(真) | 「ん?アイツは…うちのクラスの秋月じゃないか…しょうがないな」 |
ボクはその現場へと行くことにした。実は…ちょっとね。 |
瞬(真) | 「そこのお前、何してるんだよ!」 |
不良 | 「何だお前、お前には関係ねーんだ…よ!」 |
ドンっ |
その不良はボクのことを突き飛ばしてきたんだ。これでボクのスイッチがONになった。 |
瞬(真) | 「突き飛ばしたね?…ってことはこれで正当防衛が成立する…ねっ!」 |
ドガンっ |
言葉を返しながら不良の鳩尾に正拳突きを一発。空手やってて良かったなって。 |
不良 | 「…ぐっ!…」 |
瞬(真) | 「さっさとその財布置いて、どっか行ってしまえ!」 |
不良 | 「す、済みませんでしたー!」 |
その不良はひきつった顔で鳩尾を押さえながら去っていった。 |
瞬(真) | 「はい財布、大丈夫か?秋月」 |
悠(涼) | 「菊地さん…す、凄いね。あんな不良を一発で追い払うなんて…」 |
瞬(真) | 「これくらい何とでもないさ」 |
悠(涼) | 「サラッと言えるってなかなかいないよ」 |
瞬(真) | 「でも本当に秋月はひ弱だな。男らしくないっていうかさ」 |
悠(涼) | 「だって…女の子っぽいって言われるし、弱々しいのは自覚してるけど…」 |
瞬(真) | 「だけど羨ましいよ」 |
悠(涼) | 「えっ…?」 |
瞬(真) | 「そういう性格って言うかさ。ボクも女の子らしくなりたかったさ」 |
悠(涼) | 「それだったら私も憧れるな…」 |
瞬(真) | 「え?」 |
悠(涼) | 「もっと私も、男子として強くなった方が良かったのかなって…」 |
瞬(真) | 「それならさ、ボクが秋月のこと鍛えてあげようか?」 |
悠(涼) | 「え、えっと…そんな…いいの?」 |
瞬(真) | 「但し、一つだけ条件があるけどな」 |
悠(涼) | 「条件って…?」 |
瞬(真) | 「ボクのこと…そのさ…女の子にしてよ。秋月を男の子にする代わりにさ」 |
悠(涼) | 「それくらいなら…私にもできるかな?菊地さんって…素材はいいと思うから」 |
瞬(真) | 「そ、そうなのか?自分だとよく分からないけど」 |
悠(涼) | 「あ、あれ?でも…どうして私が?女の子ならいっぱいいるよ?」 |
瞬(真) | 「実はな、秋月のこと…」 |
チュウっ |
その刹那に、瞬の唇は悠の唇へと重なり合わさっていた。 |
悠(涼) | 「き、菊地さんっ!?」 |
瞬(真) | 「前から気になってた。自分に持ってないものを正反対の秋月が持ってたからね」 |
悠(涼) | 「でも私も…菊地さんのこと、ちょっと想ってた」 |
瞬(真) | 「たまに来る視線みたいなのはそれだったのかな…」 |
悠(涼) | 「憧れの人に…自然と行ってたのかも」 |
瞬(真) | 「よし、じゃあ明日からボクが秋月のこと鍛えてあげるから」 |
悠(涼) | 「うん…それなら私も明日から菊地さんのこと少しずつ女の子にするね」 |
……… |
監督 | 「カーット!」 |
監督の声が響いた。 |
スタッフ | 「菊地さん、秋月さん休憩でーす」 |
涼 | 「ふう…とりあえず今日の撮影はあと1カットだね」 |
真 | 「はあ…涼の…男の人の唇って…こんなに気持ち良いんだ…」 |
涼 | 「ま、真さん!それは言わないでよぉ…」 |
真 | 「自分からキスするなんてまだドキドキが止まらないなあ…」 |
監督 | 「いやあ、二人とも迫真の演技だったね」 |
真 | 「ありがとうございます。あ、あの不良役の人大丈夫でしたか?」 |
監督 | 「大丈夫だったそうだ。かなり痛いって言ってたけどな」 |
真 | 「すみません、上手く加減出来なくて…」 |
監督 | 「いいってことよ。その分だけ良い画が撮れたからさ」 |
涼 | 「はあ…今度は真さんファンまで敵に回っちゃうのかなあ…」 |
監督 | 「秋月くん、男役の不幸だと思って気にするな。男ならドンと構えて」 |
涼 | 「はい…でも雪歩さんだけじゃなくて、星井さんにまで『後で覚悟しておいて』って言われたんですよ」 |
真 | 「え?雪歩に美希?あの二人ならボクから一言、言っておくからさ」 |
涼 | 「お願いします、真さん…」 |
真は涼の感触が載ったのを思い出すように、唇を少しの間押さえていたという… |