My Own Warmth(私だけの温もり)

ここはある日の事務所…
やよい「律子さーん、レッスン場の掃除終わりましたー」
律子「ありがとうやよい、でも悪いわね」
やよい「いいんです。私、掃除大好きですから」
律子「本当にやよいって良い子よね。トップアイドルになってもこうしてやってくれるんだもの」
やよい「そんな…私がトップアイドルになれたのは律子さんの力があってこそですから」
律子「そんなことないわ。やよいの力があってこその秋のま〜ちよ」
やよい「そ、そうですか?でも律子さんと一緒じゃなかったら今の私は無かったかなーって」
律子「私もやよいと一緒だったからこうしてやってこれたのかもしれないわ」
やよい「でも昔は本当に仕事が無くて、掃除する時間も有り余ってたくらいです」
律子「そうよね…私は事務所の仕事もあったから良かったけど、やよいはそうもいかなかったから」
やよい「それが今は都会にこーんな大きなビルだなんて本当にびっくりです」
律子「でも事務所の規模自体はほとんど変わってないのよ」
やよい「これもみんなプロデューサーのおかげなんですよね」
律子「そうなのよ。どこからこんな手腕が出てきたのかは分からないのが不思議よね…」
やよい「プロデューサーって今日はどこに行ってるんですか?」
律子「えっと…確か雪歩達に付いてるんじゃなかったかしら」
と、ホワイトボードを見やる律子。
律子「…そうね、今日は雪月花と一緒だわ。やよい、何か用事でもあった?」
やよい「無いんですけど、ちょっとレッスンがしたくて」
律子「あ、新曲のカップリングよね?」
やよい「はいっ」
律子「私もそれならしたいところだけど…」
やよい「律子さんもですか?」
律子「ええ。じゃあせっかく掃除してもらったけどここのレッスン場使ってやる?」
やよい「はいっ!」
………
『〜♪』
二人の歌声がレッスン場に響き渡る。
律子「やよい、大丈夫そうじゃない。どこか心配なの?」
やよい「大きな声になるとどうしても声が明るくなっちゃってダメなんです」
律子「そっか…この曲はそんなに明るい曲じゃないものね」
やよい「だから律子さんが綺麗な声で歌っているのに、上手くコーラスができなくて…」
律子「でもね、やよいは一つ勘違いしていることがあるの」
やよい「な、何ですか?」
律子「私はこの曲をやよいらしく歌って欲しいの。いつものやよいと違ったら変に思われちゃうじゃない」
やよい「確かにそうです…そうですけど、それでも今の歌い方は違うなあって思うんです」
律子「そっか…(やよいも悩んでるのね…)」
やよい「律子さんはどうしたらいいと思いますか?」
律子「そうね…あ、やよい。少し低くして歌える?」
やよい「どれくらいですか」
律子「ンー♪…これくらいよ」
やよい「ラー♪…ラー♪…はい、大丈夫だと思います」
律子「それならカラオケのテンポを落とすから、ゆっくり歌う代わりに優しい感じに歌ってみて」
やよい「わ、分かりました」
 
『〜♪』
さっきより少し低い声で二人の歌声が響き渡った。
律子「…どう?」
やよい「少し分かった気がします。心を入れて優しく歌えばいいんですね」
律子「やよいがそう思ったのなら、そうなんじゃないかしら」
やよい「私の声ってどうしても明るくなっちゃうから、気を付けないと…かな」
律子「ねえ、やよい」
やよい「何ですか?律子さん」
律子「私の歌声もちゃんと聴いてもらっていい?」
やよい「はい、いいですけど…どうしたんですか?私、律子さんは大丈夫だと思います」
律子「やよいにはそう聴こえるかもしれないけど、私も不安なの」
やよい「そうだったんですか!?」
律子「そうなの。だからちょっと聞いてみて」
やよい「分かりました」
 
律子「♪〜」
律子の歌声が響き渡った。
律子「…どうかしら?やよい」
やよい「何か分かっちゃった気がします」
律子「やっぱり分かった?」
やよい「ここらへんが不安になってたと思ったんですけど…違いますか?」
律子「そうなの。やよいが思った通りそこなのよ」
やよい「良かったあ。間違っていたらどうしようかと思ってました」
律子「さすがね。私に違和感があるところをズバリ当てちゃうなんて」
やよい「そこだけ何か変になってる感じがしたんです。いつもの律子さんの歌声じゃないなって」
律子「私だってまだ全部自信があるわけじゃないから…ね」
やよい「でも、律子さんは飲み込みも速くて羨ましいです」
律子「そんなことないわよ。やよいだって最近はどんな曲でも速くこなしちゃうじゃない」
やよい「それは律子さんと…」
ギュッ
そう言いながらやよいは律子に抱きついた。
やよい「律子さんと一緒だからだと思います」
律子「…私が?」
やよい「律子さんと一緒だから、私は自信を持って歌えるんです」
律子「それなら…」
ギュッ
律子もやよいのことを抱きしめ返した。
律子「私だってやよいと一緒だから、一緒に頑張ろうって思えるの」
やよい「律子さん…」
律子「やよい…」
チュッ
二人の唇は自然とそうなるかのように重なり合っていた。
やよい「律子さん…これからもずっと…」
律子「ええ。プロデューサーとやよいと私、三人で…ね」
やよい「でも、今はもう少しだけこのまま二人で…いいですか?」
律子「いいわよ。私ももう少しだけこのままやよいの温もりと薫りを感じたかったから…」
やよい「何だかそう言われると恥ずかしいです…けど、私も律子さんの温かさが気持ち良くて…」
律子「フフフ…確かにそう言われると少し恥ずかしいかもしれないわ」
やよい「だけど、本当のことですから。この薫りも…大好きです」
律子「そうよね。やよいは嘘をつくのが苦手だもの」
やよい「エヘヘ…はいっ」
律子「でももう少しこうしたら、もうちょっと一緒にレッスンね」
やよい「分かってまーす」
だけどしばらくはこの温もりを…そう感じ合っていた二人なのであった…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
やよりつ。今回はかなり甘いSSです。
それぞれが目指している女の子の一部分、それがお互いにあるんじゃないかなと。
お互いがそれぞれを補って、無くてはならない存在…それがこの二人なのでしょう。
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2010・11・28SUN
飛神宮子
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