I ought to Love You(愛すべきひとよ)

伊織19歳の春…
伊織「何キョロキョロしてるのよ、もう」
「いや、いつだって緊張はするさ。こんなところ滅多に来るもんじゃないからさ」
ここは伊織の家の庭である。
伊織「もう、頼りないんだから…」
「それはそうとどうして今日は俺をここに呼んだんだ?」
伊織「それはちょっと後で話すわ」
「まあオフだったから良かったけどな」
伊織「あら、仕事入ってたの?」
「そんなの伊織のためなら何とかするさ。ま、元から今週は明日の昼だけだ」
伊織「そう、それなら良かったわ」
そう言いながら紅茶を一口飲む伊織。
伊織「うん、いい薫り…今日のはムスカデね…」
「そうなのか?」
伊織「もう、アンタももっと勉強しなさいよ」
「そんなこと言ったってだな、俺は一般庶民だぞ」
伊織「そんなこと…ないじゃない」
「え?」
伊織「アンタは私をここまで育ててくれた…プロデューサーでしょ」
「それはそうだけど、それとそれと…」
そう言おうとしたプロデューサーの唇を伊織は指で塞いだ。
伊織「そうじゃないの。それでも私に見合う男で居て欲しいのよ」
「そう言われると…努力するさ」
伊織「でも私たちももう長いわね…」
「ああ、そうだな。もう5年…いや、それ以上か」
伊織「中学も終わって、高校も終わって、それでも一番近くにいたのはアンタだったわ」
「ずっと一緒だもんな…」
伊織「別に他の子プロデュースしても良かったんでしょ?」
「そうだったんだけどな、伊織から離れたくないと思い続けたらそのまま続いちゃってな」
伊織「それにしても、よく私に付いてきたわね」
「まあそういう意味では、ここまで伊織に鍛えられてきたんだろうな」
伊織「私は鍛えた覚えなんて無いわよ」
「伊織に付いていたら自然とそうなったさ」
伊織「もう…あんな酷いこともしたのに…それでもめげることなくて私と一緒にいてくれて…」
「まああのくらいでめげていたら、プロデューサーなんて務まらないさ」
伊織「そう…」
「でも伊織こそどうなんだ?」
伊織「私?」
「アイドルここまで続けてきてさ」
伊織「そうね…この世界に入れてもらったのは親にけしかけてだったけれど…」
「それは社長にだったか聞いたな」
伊織「それでもそこからは実力で行ったつもりよ」
「ああ、それは一番近くにいた俺もそう思う」
伊織「でもアンタがいなければ、それも発揮できなかったわ」
「そうか?」
伊織「そうよ…原石だって、加工してもらわなくちゃダメじゃない」
「そういうことか…」
伊織「アンタのプロデュースがあったからこそ、私は自分の魅力を発揮できたの」
「…ああ」
伊織「今までも、そしてこれからもまだ続けてくれるわね?」
「もちろんさ。伊織がやめるって言うまで絶対続けるさ」
伊織「ありがと…」
「ああ…どういたしまして…」
伊織「でも、やめた後は離れ離れなの?」
「何だよ伊織…」
伊織「私はやめた後でも一緒にいて欲しいわ」
「え、それって…」
伊織「だからこれからも終わった後もずっと一緒にいたいって言ってるの!」
「えっ!?」
伊織「私は今まで色々と手に入れたわ。このアイドルの地位も、数々の名誉も、たくさんのファンも…」
「ああ…そうだな」
伊織「それはみんなプロデューサーと二人三脚で歩んできたから…」
「拙いプロデュースだったかもしれないけどな」
伊織「でもそれでも私はアンタのこと…その…好きだから何でもこなせた気がするわ」
「伊織…」
伊織「私、自分で手に入れた物はいっぱい…ううん、まだ手に入れていない物が一つだけ…あるの」
「手に入れていない物…?」
ここで伊織は一呼吸置いて…
伊織「プロデューサー…ううん、○○って苗字、私に貰わせて」
「えっ…」
伊織「今年の誕生日、それを迎えたら良いって…パパも言ってくれたわ」
「えっと…」
伊織「もう男ならはっきりしてよ、どうなのよ」
「いや、突然だったしその…俺で本当に良いのか?」
伊織「だって…」
ガタッ
伊織は椅子から立ち上がってプロデューサーの後ろに行き…
ギュっ
椅子に座っているプロデューサーを後ろからそっと抱きしめた。
伊織「一番好きな人、そんなのアンタ以外いない。もう、自分の感情も抑えられないわ」
「こんな俺でよかったらさ…」
ひょいっ
プロデューサーは体を捻って伊織を持ち上げて…
ぽふっ
膝の上に座らせた。
伊織「な、何よ…」
プロデューサーは無言で…
チュッ
そっとその伊織の唇へと自らの唇を重ねた。
「伊織の夫にしてくれよ」
伊織「いいのね?それ相応の覚悟が必要よ」
「いいさ、一番愛していることは自信がある」
伊織「私の家に入ってもらうことになれば、それなりに勉強もしてもらうわ」
「それくらいは…伊織のためさ、乗り越えてみせる」
伊織「分かったわ、今度パパとかにもちゃんと挨拶よ」
「ああ…」
伊織「あの、プロデューサー」
「ん?」
伊織「もう一回…その…して…」
「ああ…」
誓いの口付け、伊織の顔には小さく涙が浮かんでいたという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
4ヶ月連続のあなたへの想い、そしてこれでシリーズ最後の伊織です。
伊織だけは唯一の逆パターン、伊織からの告白になりました。
実はこのシリーズ、半分以上が曲のタイトルです。あと1本だけは実はとある演劇のタイトルの改変です。
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2011・12・10SAT
飛神宮子
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