寒い北国の冬の日のことだった… |
バタンッ |
突然にプロデューサーの乗っていたワゴンのドアが開く… |
P | 「だ…誰だ…!?」 |
その手にはキラリと光る何かが… |
千早 | 「泣ぐ子はいねがぁ?!でーじな女子を泣がす子はいねがぁ?!」 |
P | 「ひいっ!た、助けてくれ!」 |
プロデューサーは完全に腰を抜かしている。 |
千早 | 「年端もいがねえ女子に、セクハラする子はいねがぁ?!」 |
カッ |
その目が一瞬光った…かのように見えた。 |
P | 「うっ!」 |
バタンッ |
その迫力にどうやらプロデューサーは気を失ったようだ。 |
千早 | 「どうでしょう?プロデューサー。あれ?プロデューサー?」 |
P | 「うーん…」 |
すっかり目を回している。 |
千早 | 「えっと…ちょっと驚かせ過ぎちゃったみたいね…」 |
ゆさゆさ ゆさゆさ |
包丁…のような物を置いてプロデューサーの身体を揺らす…どうやら千早のようだ。 |
さて、何があったのかを少し紐解いてみることにしよう。 |
……… |
場所は変わって、ここはある日の事務所。 |
P | 「秋田かあ…今の時期は寒いだろうなあ」 |
小鳥 | 「どうしたんです?何かツアーですか?」 |
P | 「あ、小鳥さん。いえ、この前千早があのテーマソング歌ったでしょう?」 |
小鳥 | 「テーマソングって…ああ、あれですね」 |
P | 「それでこんな企画が向こうの方から来たんですよ」 |
小鳥 | 「あら、いいじゃないですか。プロデューサーさんは寒さは慣れている方でしょう?」 |
P | 「いや、アイドルにあんまり寒い所はどうかなって思って」 |
小鳥 | 「でも、雪まつりには行かせたでしょう?」 |
P | 「まあそうですけど。でも千早の場合、その辺も気を使わないといけなくて」 |
小鳥 | 「なるほど…」 |
P | 「あと、この企画内容どう思います?」 |
書類を小鳥に見せるプロデューサー。 |
小鳥 | 「…ええっ?!うーん…どうでしょうかねえ」 |
P | 「でしょ?千早が楽しんでくれますかね?」 |
小鳥 | 「難しいところでしょう」 |
P | 「彼女の場合、正直に言えばやってくれるタイプですけど」 |
小鳥 | 「まあ、一度やってみたらいかがですか?」 |
P | 「そうですね、やってみますか」 |
|
P | 「どうだ?行ってみるか?」 |
千早 | 「この企画で…ですか?」 |
P | 「ああ。千早が嫌ならお断りするつもりだ」 |
千早 | 「曲を歌った縁もありますし、無碍にお断りはしたくありませんが」 |
P | 「寒い場所だけどどうだ?」 |
千早 | 「確かに…会場を見た限りでは歌う場所はかなり寒い場所かと」 |
P | 「千早って結構そういう所を気にするだろ?」 |
千早 | 「プロデューサーはどう思うんですか?」 |
P | 「こればかりは千早次第だな。ちなみに仕事の予定はまったく無いからな。千早は?」 |
千早 | 「私もこの日程なら今のところはありません」 |
P | 「それなら本当に千早の気持ち次第になるな」 |
千早 | 「…体調管理等はしっかりしてもらえますか?」 |
P | 「それくらいどうってことないさ。やれって言うのならやるぞ」 |
千早 | 「ならばやりましょう。よろしく伝えてください」 |
P | 「うん、こちらこそ頼むぞ。先方にはそう伝えておくから」 |
千早 | 「それでこのレッスンの方はどうなりますか?」 |
P | 「この1週前に音楽番組の収録があるから、そっちと並行して少しずつだな」 |
千早 | 「分かりました。ではお願いします」 |
……… |
時は流れ流れて当日、ここはステージ脇… |
P | 「おつかれさま、千早」 |
千早 | 「おつかれさまでした、プロデューサー」 |
P | 「どうだった?寒かったけど大丈夫だったか?」 |
千早 | 「大丈夫です。とても楽しく歌わせていただきました」 |
P | 「寒いからとりあえず早く控室に戻るぞ」 |
千早 | 「分かりました、行きましょう」 |
|
そして控室… |
P | 「はい、とりあえず温かいのな」 |
千早 | 「ありがとうございます」 |
P | 「少し緊張していただろ?千早」 |
千早 | 「…分かりましたか?」 |
P | 「ああ。寒さがあるとは言え、ちょっといつもより張りが無かった感じだったからさ」 |
千早 | 「さすがに、横であんな踊りがされているとは思わなくて…」 |
P | 「なるほど。リハーサルまで分からなかったもんな」 |
千早 | 「いくら本物ではないと分かっていてもさすがに…」 |
P | 「あ、そうだ。ステージ中にこれ、お土産にもらったぞ」 |
千早 | 「これは…面となまはげの残りの装備品ですか」 |
P | 「今身に付けているのも貰っていっていいってさ」 |
そう、千早はなまはげの衣装を着て歌っていたのである。 |
千早 | 「ありがとうございます。確かにこれだけでは不釣り合いですから」 |
P | 「そうだな」 |
そこに… |
Trrrrr… |
プロデューサーは電話の相手を確認すると… |
P | 「はいもしもし…千早、ちょっと電話があるから先に車に戻ってる」 |
千早 | 「プロデューサー、荷物は?」 |
P | 「ステージの間に整理して車に積んでおいたぞ。あとは着替えとそれだけだから」 |
千早 | 「分かりました。電話が終わり次第、私の携帯電話に連絡を下さい」 |
P | 「ああ」 |
プロデューサーは急いでその場から立ち去って、車へと向かった。 |
控室に一人になった千早。 |
千早 | 「フフフ…」 |
お土産を見て千早は何やら思いついたようだ。 |
千早 | 「少しくらいなら…プロデューサーを驚かせてもいいわよね?」 |
……… |
そしてあの状況になったのである。 |
千早 | 「もう…でも、こんなところがプロデューサーらしいところ…ね」 |
まだプロデューサーは伸びたままである。 |
千早 | 「でもこのままだと帰れないし…」 |
何やらまた思いついた千早。 |
千早 | 「せっかくのチャンスだし…誰も見てないわよね?これで起きて…」 |
プロデューサーの唇へと自らの唇を近付けていく。 |
チュッ |
唇が合わさったその瞬間… |
P | 「ん…んんっ…」 |
バッ |
その声にプロデューサーからすぐ身を離す千早。 |
P | 「千早か…」 |
千早 | 「プロデューサー、ただいま戻りました」 |
P | 「お帰り…全く俺は何をしていたんだ?」 |
千早 | 「分かりませんが、戻ってきたらプロデューサーが伸びていたみたいです」 |
P | 「そうか…疲れてたのかな」 |
千早 | 「たぶんそうかもしれません、最近忙しかったですからね」 |
P | 「よし、千早も…ってその格好で戻ってきたのか?」 |
千早 | 「ええ、せっかくですから。宿に戻ったら着替えます」 |
P | 「了解。じゃあとりあえずは宿に戻ろうな」 |
千早 | 「はい」 |
P | 「ああ、それとな」 |
千早 | 「はい?」 |
P | 「唇、ごちそうさま」 |
千早 | 「…プ、プロデューサー!?」 |
千早はその言葉に顔を真っ赤にするしかなかったという… |