ここはある日のテレビ局… |
貴音 | 「月が…」 |
貴音は屋上で空を見上げていた。 |
貴音 | 「…何奴?」 |
貴音は後ろを振り向いた。 |
絵理 | 「…765プロの…四条さん…?」 |
貴音 | 「…貴女は…876プロの絵理ですか…」 |
絵理 | 「どうしてここに…?」 |
貴音 | 「収録まで時間がありましたので、少し夜空を見ようかと」 |
絵理 | 「夜空を…?」 |
貴音 | 「ええ…今宵は月がこんなにも綺麗ですから…」 |
貴音が見上げた空には上弦の月が浮かんでいた。 |
絵理 | 「確かに…綺麗…」 |
絵理もその空を見上げた。 |
貴音 | 「貴女はこちらに何を…?」 |
絵理 | 「わたしも…収録まで時間があったから…?」 |
貴音 | 「そうですか…でも今の時期はまだ寒いですが…」 |
絵理 | 「楽屋にいる気分でもなかったから…」 |
貴音 | 「今日の収録ということは…同じ番組でしょうか?」 |
絵理 | 「たぶん…そう…?○○○って番組です…」 |
貴音 | 「その番組ならわたくしも…今日はご一緒ですか」 |
絵理 | 「そうなんですか…?」 |
貴音 | 「ええ…今日は静かで情熱的な歌特集ということで呼ばれました…」 |
絵理 | 「わたし…どうして…?」 |
貴音 | 「貴女の事務所では…そうですね…貴女が一番適任でしょう」 |
絵理 | 「そんなこと…どうでしょうか」 |
貴音 | 「おそらくは期待されている…ということでしょう」 |
絵理 | 「そう言われると…少し緊張…?」 |
貴音 | 「きっと…貴女らしく歌えば良いのでしょう。それが一番です…」 |
絵理 | 「分かりました…わたしらしくやってみます…」 |
貴音 | 「しかし…」 |
絵理 | 「えっ…」 |
急に絵理の方に振り向いた貴音、それに驚く絵理。 |
貴音 | 「貴女も肌が白くて綺麗ですね…」 |
絵理 | 「そ、そう…?」 |
貴音 | 「この肌の色は…雪歩殿と似ておられますね…」 |
絵理 | 「前に雪歩さんにも…言われた…?」 |
貴音 | 「そうですか…雪歩殿も肌がお白いですが…貴女も同じくらいです」 |
絵理 | 「ありがとうございます…」 |
貴音 | 「その白い肌、月の光に反射してとても綺麗ですよ…フフフ」 |
絵理 | 「え、えっと…はい」 |
貴音 | 「どうされたのです?」 |
絵理 | 「あ、あの…これであまり褒められたことがないから…」 |
貴音 | 「そこまで白ければ、逆にきっとアピールする武器になりましょう」 |
絵理 | 「一度雪歩さんとCNで一緒になった時に使ってもらったのはそれが切欠だったからかな…」 |
貴音 | 「ええ、きっと…」 |
絵理 | 「でも、四条さんも肌と…この髪、綺麗です…」 |
貴音 | 「ありがとうございます…」 |
絵理 | 「真っ白とも銀色とも思えて…それに月の光が反射して…とても綺麗…」 |
貴音 | 「そうでしょうか」 |
絵理 | 「はい…」 |
貴音 | 「ありがとうございます…そう言われると…喜ばしいです」 |
絵理 | 「四条さん羨ましいなって…」 |
貴音 | 「羨ましい…?」 |
絵理 | 「はい…わたし、確か1歳しか違わないのに身体のプロポーションも良くて…」 |
貴音 | 「それは…でもコンプレックスでもあるんです」 |
絵理 | 「そうなんですか…?」 |
貴音 | 「特に…この…」 |
貴音は自らのある部分を指した。 |
絵理 | 「ここ…?」 |
貴音 | 「ここが大きくて…それが武器でもあり…コンプレックスでも…」 |
絵理 | 「それでも無い私に比べたら…」 |
貴音 | 「今となっては武器として認識をあらためてはいますが…昔は恥ずかしくて…」 |
絵理 | 「そう…ですか…」 |
貴音 | 「わたくしは逆にあなたみたいな華奢な方が羨ましく思いますが」 |
絵理 | 「無いものねだり…ですね」 |
貴音 | 「ええ、そうですね」 |
ひゅうんっ |
そこに一筋の風が駆けていった。 |
貴音 | 「さて、そろそろリハーサルの時間でしょうか」 |
絵理 | 「たぶん…そう…?」 |
貴音 | 「緊張…してますね、絵理さん」 |
絵理 | 「えっ…どうして…」 |
貴音 | 「表情が先ほどと変わっておいでですよ」 |
絵理 | 「いつも多くの人前に出るときはどうしても…」 |
貴音 | 「緊張は慣れないと解れませんから…今回でテレビは何回目です?」 |
絵理 | 「まだ2桁の頭くらい…?」 |
貴音 | 「まだまだこれからというところでしょう」 |
絵理 | 「はい…」 |
貴音 | 「でもそれなら、プロデューサーに勇気付けてもらうしか…」 |
絵理 | 「わたしのマネージャー…どうなのかな…」 |
貴音 | 「どうされたのです?」 |
絵理 | 「そういうタイプの人じゃない…?」 |
貴音 | 「なるほど…ではわたくしが代わりに今、貴女を勇気付けて差し上げましょう」 |
絵理 | 「えっ…」 |
貴音 | 「こちらに顔を向けていただけますか?」 |
絵理 | 「はい…」 |
チュッ |
貴音はその唇へと、口付けをした。 |
絵理 | 「えっ…?!」 |
俄かに紅潮していく絵理の頬。 |
貴音 | 「今日の貴女にはこれ以上恥ずかしいことは起こりませんから…」 |
絵理 | 「四条さん…」 |
貴音 | 「恥ずかしいと感じたら、これを思い出しなさい」 |
絵理 | 「………」 |
貴音 | 「きっとこれ以上に恥ずかしいことをしてしまったんだから…という気持ちになりましょう」 |
絵理 | 「ありがとう…ございます…」 |
貴音 | 「さあ、行きましょう。今日のわたくしたちのステージへ」 |
絵理 | 「はい…」 |
リハーサル前のスタジオ、まだその絵理の頬には紅潮した痕が残っていたという… |