Melody a Deux(二人だけの旋律)

ここはとある地方都市のコンサートホール…
千早「会場の皆さん、今日は…ありがとうございましたー」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……
鳴りやまぬ拍手の中、千早は指揮者と共に下手〈しもて〉へと捌けていった。
指揮者「如月さんお疲れさま、凄く良かったよ」
千早「今日はこんな素晴らしい場所で歌うことが出来て嬉しかったです、本当にありがとうございました」
指揮者「お礼を言うのはこちらさ。コンサートに素晴らしい歌姫が綺麗な花を添えてくれたからな」
千早「そんな…私なんてまだその域には達してはいないかと思います」
指揮者「そんなことないさ。しかし○○もこの時期にいい子を担当していたもんだ」
そこに…
「本日はうちの如月をありがとうございました…って言うことも無いか」
指揮者の旧友であったプロデューサーがやってきた。
指揮者「おう、如月さん本当に良い歌声だな。惚れ惚れしたぞ」
「歌に関してはうちで一番のアイドルだからな」
千早「プロデューサー、今日はどうでしたか?」
「休憩前までは客席で、あとはここで聴いてたぞ。1曲目の方は緊張していただろ?」
千早「やはり分かりましたか?確かに、ライブとお客さんも違いましたから」
指揮者「あれで緊張していたのかい、とてもそうは見えなかったけどねえ」
千早「皆さん真剣に私の歌に耳を傾けて戴けたので、その分こちらも自分の全力を出したくて…」
「まあほとんどはこの街の人だし、演奏者の親類も多かっただろうからね」
千早「ただ前の方にはいつも遠方から来られるファンの方が何人かいましたので、それで色々な意味で少し安心したのはあります」
指揮者「あの真ん中の2列くらいは、如月さんのファンの人たちだったのか」
「こういう地方都市だし迷惑もあまり掛けたくなかったから、告知もしなかったんだよ」
指揮者「その点はありがとうな。それであれは一番大きい控室に用意してあるから」
千早「あれとは何でしょうか?」
「用意しておいて貰ってゴメンな。この街のことはさすがに分かんないからさ」
指揮者「いいってことよ。如月さん、昨日が誕生日だったんだよね?一日遅れだけど、せっかくだからケーキを食べていって」
千早「えっ…いいのですか?」
指揮者「良い歌声を聴かせてもらったお礼も兼ねてだ。演奏者のみんなも集まってもらうから」
千早「ありがとうございます…」
………
ケーキも分けて食べ終わり…
指揮者「今日はこっちに泊まっていくんだろ?」
「せっかく来たから、一日こっちでゆっくり休もうかって思って」
指揮者「如月さんも、またテレビとかで良い歌声を期待しているから。」
千早「はい、本当に今回はありがとうございました。また何かあったら呼んでもらえたら嬉しいです」
指揮者「こちらこそ。じゃああと今日はもう、二人でごゆっくり」
千早「はい…」
指揮者「じゃあな。また向こうで会えたら飲もうな」
「ああ。そっちの次の曲も期待してるよ」
指揮者「ハハハ…頑張ってみるさ」
「よし、じゃあ本当に今日はうちの如月をありがとう」
指揮者「ああ。こっちこそまたこういう機会があったらその時はよろしくな」
二人を乗せた車が山の方の温泉地に向かって走り始めた。
「今回の仕事はどうだった?」
千早「どうだったと言いますと…」
「楽しかったとか面白かったとかさ」
千早「とても充実した時間…でした。後ろのオーケストラの方々やコーラスの方々、その前で歌える幸せを感じた気がします」
「でも今回は急な仕事でゴメンな」
千早「いえ…プロデューサーとその…」
にわかに千早の顔が赤くなった。
千早「一緒に一日時間も貰えましたから」
「そうか…うん」
千早「今日は先月の四条さんのようなこと…いいんですよね?」
「ああ。約束だからな」
千早「今日のステージがもし無事にやり遂げられなかったら、自分でも無しにするつもりでしたから」
「そうなのか?それは知らなかった」
千早「自分としてのけじめ、それから…ご褒美だと思ってましたから」
「なるほど、そういうところは千早らしいな」
千早「ちゃんとご褒美、貰えますか?」
「それは向こうでの千早次第だろう」
千早「音無さんや四条さんほどではありませんから…比べられるのは少し嫌です」
「千早には千早の良さがあるんだから、そんなこと言うなって」
千早「でも…」
「俺が千早のことを否定したことがあるか?」
千早「分かりました。温泉でちゃんと磨いてきますから」
「ああ、期待しているよ」
………
そして夕食も終えて、もう一風呂を浴びた後のこと…
千早「プロデューサー」
「どうした?千早」
千早「雪、綺麗ですね」
「さすがに雪も多い場所だもんな」
二人は窓の外の降る雪を見ていた。
千早「東京に居ると見る機会も多くないですから」
「そうだよな。ホワイトクリスマスなんてのも滅多に無いし」
千早「プロデューサーと二人きりで…こういう風に見ていられるなんて」
「でも綺麗だな…」
千早「はい…」
「いや、そうじゃなくて今の千早がさ」
千早「えっ…プ、プロデューサー!?」
「だって掛け値なしに綺麗だぞ、プロデューサーの俺が言うのも何だけどな」
千早「あ、ありがとうございます…」
「貴音とは違う綺麗さっていうのかな、それが今の千早にはあるから」
千早「フフフ、そうですか?」
「ご褒美…充分合格点あげられるぞ」
千早「はい、じゃあ今日は一緒に…」
「そうだな…」
チュッ
プロデューサーは千早へと口付けをした。
「これが合格の印だ」
千早「プロデューサー…」
「今日は千早のこと…もっと知りたいな」
千早「はい。だから今日はちゃんと隅々まで…知ってください。だって…」
ギュッ ポンっ
千早はプロデューサーの右手を引き寄せて、自分の胸へと持って行った。
千早「んっ…さっきのでもう…こんなにドキドキしているんです」
「そっか。よし、今日はそんな千早という楽器の音色を聞かせてもらうからな」
千早「はい…続きの音符は蒲団の中で聞いてもらおうと思います…」
二人は既にくっ付けられている蒲団へと向かい、その部屋の明かりをスタンドの光だけにした…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
2011年誕生日SSの2本目は千早。ちょっとだけ積極的になってもらいました。
自分なりのけじめを付けてから、きっと千早ならそうする気がします。
Happy Birthday!! Chihaya KISARAGI.
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2011・02・22TUE
飛神宮子
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