ここは876プロダクション… |
律子 | 「涼、連れて来たわよ」 |
律子がもう一人と一緒に765プロからやってきた。 |
涼 | 「ありがとう律子姉ちゃん…って僕のためじゃないけどね」 |
律子 | 「でも電話してきたのは涼でしょ?」 |
涼 | 「確かにそうだけど」 |
春香 | 「律子さん、何も私聞いてないんですけど…」 |
律子 | 「まあ待ちなさい春香。それで…その本人は?」 |
どうやらもう一人は春香のようだ。 |
涼 | 「今たぶん給湯室の方にいるから呼んでくるよ」 |
涼はその人を呼びに行ってしまった。 |
春香 | 「えっと…用事は私になんですよね?」 |
律子 | 「ええ。私は別件で用事があったから今日の付き添いも兼ねてなのよ」 |
春香 | 「でももったいぶらないで、用件を教えて欲しいんだけどなあ…」 |
律子 | 「ほら来たわよ、春香」 |
絵理 | 「こんにちは…春香さん」 |
春香 | 「え?あ、こんにちは絵理ちゃん」 |
春香に用事があった人とは絵理のことだった。 |
律子 | 「さて春香、今日はこの子にお菓子作りを仕込んで欲しいのよ」 |
春香 | 「え?え…ええっ!?い、いきなりっ!?」 |
絵理 | 「その…今度出るラジオ番組で…作らなくちゃいけなくて…」 |
律子 | 「そういうこと。うちでお菓子作りと言ったら春香しかいないじゃない」 |
春香 | 「そうですけどぉ…」 |
律子 | 「ここは、アイドルの先輩として一肌脱いで欲しいの」 |
絵理 | 「…お願いします…」 |
春香 | 「そこまで言われたなら、もうやるしかないじゃないですかぁ」 |
律子 | 「じゃ、あとは頼んだわよ。私は涼と石川社長の方に用事があるから帰る時に呼ぶわね」 |
春香 | 「え?ちょ、ちょっと待ってくださいー」 |
その言葉も律子の耳には入らずに、律子はどこかへと行ってしまった。 |
春香 | 「まあそんなこと言ってもしょうがないか」 |
絵理 | 「よろしくお願いします…」 |
春香 | 「それでどんなお菓子を作るの?」 |
絵理 | 「えっと…クッキーです…」 |
春香 | 「んー、でもクッキーって分量とかちゃんとすれば大丈夫な気がするけど…」 |
絵理 | 「それが…あんまり上手くできない?」 |
春香 | 「ちょっとしたコツさえ掴めば大丈夫だよ。これから一緒に…ってここで作れるのかな?」 |
絵理 | 「絶対に必要なのは…何?」 |
春香 | 「調理器具と…オーブンかな」 |
絵理 | 「オーブンレンジで大丈夫…?」 |
春香 | 「もしかして事務所にあるの?」 |
絵理 | 「それなら事務所にあるから…」 |
春香 | 「それさえあればあとは買えるし、まずは必要な物を確認して買いに行こっか」 |
絵理 | 「…はい…」 |
……… |
そしてその買い物中… |
春香 | 「でもラジオで作るって珍しいね」 |
絵理 | 「はい…企画で作っている場面を収録する…?」 |
春香 | 「それで誰かと対決するの?」 |
絵理 | 「アイドルで事務所対抗戦だって…」 |
春香 | 「事務所対抗戦…あれ?うちは誰が出るんだろう?」 |
絵理 | 「確か…星井さん?」 |
春香 | 「美希が出るんだ。大丈夫かなあ」 |
絵理 | 「料理があんまり得意そうじゃない人が出るって…」 |
春香 | 「どうりで私、何にも話を聞いてなかったんだ」 |
絵理 | 「こっちだと得意なのは涼さんだから…」 |
春香 | 「確かに趣味がそうだって聞いたことがある気がする」 |
絵理 | 「でも涼さんにお菓子だったら春香さんに聞いた方がいいって言われたから…」 |
春香 | 「んー、確かに作るのは好きだから」 |
絵理 | 「あっ、これは必要…?」 |
春香 | 「えっと…うん。あとはクッキングシートを買って終わりかな」 |
絵理 | 「クッキングシートはあっち…?」 |
春香 | 「本当だ、行こっ絵理ちゃん」 |
絵理 | 「はい…」 |
……… |
ここは戻って876プロの給湯室… |
春香 | 「ここまでやったのが基本的なのだから、後はアレンジしてみてね」 |
絵理 | 「ありがとうございます…」 |
春香 | 「でも、だいぶ普通に出来てた気がするけど…どこが間違ってたの?」 |
絵理 | 「オーブンの温度…?後は…何かの分量だと思う…」 |
春香 | 「それは何回もやっていれば大丈夫、自信を持って絵理ちゃん」 |
絵理 | 「はい…」 |
春香 | 「じゃあさっそく、いただきまーす」 |
ひょいっ パクっ |
春香は皿に盛られたクッキーを一枚、口へと運んだ。 |
春香 | 「うん、上出来上出来っと。絵理ちゃんも食べて食べて、出来たては美味しいよ」 |
絵理 | 「いただきます…」 |
ひょいっ サクっ |
絵理もクッキーを一枚食べ始めた。 |
絵理 | 「美味しい…これが自分で作れたんだ…」 |
春香 | 「自分で作ると何倍も美味しく感じるからかも」 |
絵理 | 「はい…もっとお料理、練習してみようかな…」 |
春香 | 「女の子として憶えておいて損は無いから」 |
絵理 | 「お料理ができる女の子って素敵です…?」 |
春香 | 「出来ないより出来た方が良いと思うなあ…相手を落とし易いのはやっぱり料理って言うし」 |
絵理 | 「…春香さんは落としたい相手がいる…?」 |
春香 | 「ええっ!?わ、私は…」 |
にわかに顔が紅潮していく春香。 |
春香 | 「い、居ないよ、絵理ちゃん」 |
絵理 | 「春香さん…顔が真っ赤…?」 |
春香 | 「こ、これは暑いから。うん、暑いからだから」 |
絵理 | 「今日は肌寒いくらいのはず…?」 |
春香 | 「ああもうっ、ほら、涼さん達にも食べてもらうんじゃなかった?」 |
春香は顔を逸らせて皿を持って給湯室のドアの方へと向かって行った。 |
絵理 | 「…フフっ、プロデューサーさんですよね…?」 |
春香 | 「ど、どうしてそれをっ!?」 |
絵理 | 「765プロの皆さん、口々に良い人だって言いますから…」 |
春香 | 「…うん、良い人かな。これだけは自信を持って言えるかも」 |
絵理 | 「私から見ても…そう思えます」 |
春香 | 「褒めてくれてありがと…かな」 |
春香のその顔はまだ少し赤みを帯びながらも、笑顔に変わっていた… |