Lip Color(唇の味)

ここは…
「はあ…何か嫌な予感がするよ…」
とある店の裏玄関に一人の少し少女っぽい少年の姿があった。
「…でもこんなところに居て時間に遅れたらこっ酷く怒られるし行くか」
その少年は意を決して呼び鈴を押した。
 
Ding Dong♪
律子「来たわね、はーい」
その家にいたのは一人の女性。
ガチャっ
「お邪魔しまーす」
律子「お遣いご苦労さま、荷物はそっちに置いておいてね涼」
「はーい」
持って来た荷物を指示された場所に置いた涼。
「ふう、暑かったー」
律子「こんな暑い日に持ってこさせて悪かったわ」
「まあ僕も取りに来る物があったけどさ」
律子「あれ本当に使うの?」
「クラスのみんなに言われた以上は、僕だってやりたくはないけどさ」
律子「まあいいわ、話はそっちで聞くわね」
………
ここは秋月家のリビング…
律子「はいこれ、うちの方でクリーニングは出しておいたわ」
「やっぱり姉ちゃん、話が分かるー」
律子「そういう風に言わないの。これプロデューサーに持って行った時恥ずかしかったんだから」
「え?事務所でやってくれたの?」
律子「こんなの個人的に出せるわけがないじゃない!」
「う…確かに」
律子「しっかしあのCMはよくもやったわねえ」
「あの衣装だって話は聞いてなかったんだよ。てっきり着ぐるみかなんかって思っててさ」
律子「うちの小鳥さんは最初から知ってたみたいよ」
「じゃ、じゃあもしかしてあれは社長が…」
律子「そうね、あの石川社長ならやりかねないわ」
「うわあ…もうこういう仕事は嫌だったのにさあ」
律子「でもあれが切欠で三人とも一段と有名になったじゃない」
「そうだけどさあ、あのライブは確かに良かったよ」
律子「あのライブからよね、うちの事務所の皆とのドラマが入ったのは」
「監督に気に入られちゃってるみたいでさあ」
律子「涼の演技が良かったからでしょう?」
「そうなのかな?」
律子「きっとそうよ、でも最初はうちの雪歩の相方として同年代の子を探してたって話よ」
「そうだったんだ…」
律子「それでどうなのよ?」
「え?」
律子「うちのみんなの唇の感触は」
「う…」
律子「もう何人かしらね、うちの子たちを手篭めにしちゃって…」
「そんな人聞きの悪いこと言わないでよ、律子姉ちゃん」
律子「それでどうなの…ってもう何人唇を奪ったのよ」
「それって奪われたのも入れて?」
律子「そうね…ってそういうのもいるの?」
「だって、向こうからしてきたのが演技でも殆どだよ」
律子「それはそうだけどねえ…」
「えーっと確か…雪歩さんに春香さん、真さんにやよいさん、真美ちゃんに音無さん…あと、美希さんと貴音さんもだったっけ」
律子「もううちの半分以上がアンタの唇の味を知っちゃってるのね…」
「い、いや、僕だって、必要に駆られてやってるだけで…」
律子「分かってるわ、でもそれがもし私だったら?」
「え?」
律子「もし私だったらできるの?」
「それはちょっと…どうなのかな?」
律子「そういうドラマの話とかは来てないけど、このままだとありえない話ではなくなってるわ」
「姉ちゃんはもう覚悟できてるの?」
律子「そうねえ…その時は諦めてやるしかないわよ」
「でも姉ちゃんとドラマとかってどんな話になるのかな?」
律子「どうかしら…私達は血縁があるから…」
「禁断の薫りが凄いするね」
律子「全く違う関係ってわけにもいかないでしょう?一応は似ているんだから」
「そうだよね…」
律子「でも本当にやりたい?」
「姉ちゃんはどうなの?」
律子「それは…涼次第よ。私は決まったらそれに従うわよ」
「うーん…」
律子「そう悩んでいる間は無理そうね」
「………」
律子「やるとなったらちゃんと腹を括りなさいよ」
「…うん」
律子「ところで、これどうやって持ち帰るの」
「あ、これに入れてくつもりだけど…」
律子「耳が曲がっちゃうわね…大丈夫かしら?」
「どうかなあ…何か袋ってない?」
律子「どうかしら…ちょっと探してくるわね」
 
律子「この袋が限界みたいね、これなら大丈夫でしょ?」
律子はどこかのデパートの紙袋を持って来た。
「うん、ありがと姉ちゃん」
律子「そういえばその学園祭っていつよ?」
「3週後の土日だけど?」
律子「3週後…ちょうど雪歩と真美の週ね、日曜日は今週は特別番組でお休みだし…」
「げ…まさか来る気?」
律子「フフフ、涼の勇姿をちゃんと見届けてあげるわ」
「ぎゃ、ぎゃおぉぉぉん!」
律子「日高さんと水谷さんも、一緒に連れて行けたら連れて行ってあげるから」
「いやぁぁぁぁぁ!!カンベンしてよ姉ちゃん」
律子「ま、そこまでは冗談だけれど、仕事が入らなければ行くことは行くわよ」
「う、うん」
律子「預かり賃代わりだと思いなさい」
「分かったよ、でもあんまり関わらないでね。姉ちゃんも有名人なんだからさ」
律子「その辺はちゃんと弁えるわ」
「じゃあありがとね、姉ちゃん」
そう言った涼の顔からは苦笑いとため息が零れていたという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
律子と涼、この二人は初めてですね。
まずは猛省…どうしても一線を越えられなかったです。
この二人にキスは…どう考えてもドラマ設定じゃないと難しいかな…
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2012・07・31TUE
飛神宮子
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