Live and Learn(経験で知る)

ここはとあるレコーディングスタジオ。
「おつかれさま、千早。はいこれ、いつものやつ」
千早「ありがとうございます、プロデューサー」
スタジオから出てきた千早に飲み物を手渡すプロデューサー。
「うーん、どうした?ちょっと物足りない感じがするぞ」
千早「やっぱり…プロデューサーもそう思うんですね?」
「自覚があったってことは、原因も分かってるのか?」
千早「はい…どうしてもこの歌詞のことが分からなくて、感情が入らないんです…」
「ああ…そういうことか。特にどの部分だ?」
千早「特にだとこの部分が…」
「…この部分か」
千早「どう思いますか?」
「つまり、経験が無いってことだよな」
千早「そういうことです…でもどうやって経験すればいいのでしょうか?」
「難しいな…千早にはそんな相手はいないのか?」
千早「居たらこんな会話しているわけありません」
「それはそうだよな。とは言っても、俺じゃどうすることもなあ」
千早「プロデューサー…」
「ん?」
千早「プロデューサーは、こういう経験をしたことはありますか?」
「まあ無いとは言えないけど、あるとも言いきれないな」
千早「それなら…プ、プロデューサー…お願いできませんか?」
「…お、俺が!?」
千早「ダメでしょうか?」
「いや、千早の相手が俺なんかでいいのか?」
千早「そんな…他に頼める人なんて居ませんから」
「だけどな、自分を大切にした方がいいぞ」
千早「えっ…プロデューサーは私では嫌ですか?」
「そんなことないけど…本当に俺でいいんだな?」
千早「はい。だってプロデューサーのこと、その…」
「分かったよ、うん。じゃあちょっと待っててくれ」
千早「分かりました」
 
数分後…プロデューサーが千早の許へと戻ってきた。
「千早、今日のレコーディングは止めにする」
千早「えっ…いいのですか?」
「ああ。この調子じゃ今日はいくらやっても無理だろうからな」
千早「そうですか…そんな、私のために…」
「いいんだよ。それがプロデューサーの務めなんだからな」
千早「ありがとうございます」
「それでレコーディングは3日後になったから」
千早「了解しました」
「それで千早は明日明後日と暇か?」
千早「自主レッスン以外は何も入っていないので大丈夫です」
「明日と明後日で経験…してみるか?」
千早「………本当ですか?」
「そのために次までの間をとったんだ。リフレッシュのためもあるけどな」
千早「分かりました。それならばお願いします」
「最後に聞くが、本当に俺でいいんだな?」
千早「プロデューサーだから、です」
「よし、分かった」
………
翌日…ここは事務所。
千早「おはようございます、プロデューサー」
「おはよう千早。準備は大丈夫なんだな?」
千早「はい。迷惑にならないように髪も束ねてまとめてきました」
ん?迷惑にならないように?
「それならいいさ。じゃ、車に乗ってくれ。2時間もすれば着くだろうから」
千早「分かりました。くれぐれも安全運転でお願いします」
「もちろんだ。アイドルに何か起こったら責任問題だからな」
 
「さて、来たわけだが…大丈夫か?千早」
千早「これも曲のためですから…はい」
「ダメそうだったら無理しないでな」
千早「せっかくこういう機会もなかなかありませんから、今日はよろしくお願いします」
「ああ。じゃあ…すみません大人1つに中高生1つで」
千早「プロデューサー、今日のお金は…」
「これは事務所持ちだ。社長に言ったら出してくれるって言ったからな」
千早「ありがとうございます。不出来な私のためだけに、そこまでされるなんて少し…」
「いいんだよ。俺だってたまにはこういうところも悪くないと思ってたしな」
千早「では中に入りましょう」
「そうだな」
 
ここは夕刻の観覧車の中。
「それにしても千早は随分と楽しんでたな」
千早「あのスピードはやはり他では体験できませんから」
「まさかあんなに連続で乗らされるとはな…腰が抜けかけたぞ」
千早「すみません…あまりにも楽しくてつい」
「いやいいんだけどさ、ちょっとは休憩が欲しかった」
プロデューサーは千早に付き合わされて、ジェットコースター系を乗らされまくったのだ。
千早「あ…ご、ごめんなさい。でも…今日はありがとうございました」
「どういたしまして。これであの曲のイメージは掴めた?」
千早「充分…いいえ、まだです」
「え?まだ乗るの?」
千早「そうじゃないんです。あの曲は遊園地でその…愛を深めるというのが…」
「と言うことは千早はまだ足りないってことか?」
千早「はい…」
「それで俺にあと何をして欲しいんだ?」
千早「その…プ、プロデューサーが悪くなかったらでいいんです…」
「ん?何か分からないけど…」
千早「あの…キ、キスをしてくれませんか…?」
「…え!?」
千早「この観覧車に乗ったのも、二人きりになりたかったからで…」
「つまり…覚悟の上でってことか」
千早「そういうこと…です」
「俺なんかの唇でいいのか?大事なキスだろ?」
千早「プロデューサー以外に私のファーストキスを渡す相手なんて…もう考えられません…」
「後悔…するなよ」
こくんっ
千早はただ一つ頷いた。
「こっち側に来て」
千早「はい…」
プロデューサーの隣に座り直した千早。
Chu…
そして交わされる大切な人との口付け…
 
翌々日…
「一発OKだったな、さすがは千早だよ」
千早「ありがとうございます。これもその…プロデューサーのおかげです」
「そんなことないさ、千早の努力があってのことだ」
千早「あの…また、行きませんか?」
「いや、もう遠慮させて貰う」
千早「そんな…」
「ほら、挨拶したら帰るぞ」
千早「待ってくださいプロデューサー!もう…」
よく見ると二人の同じ指には、同じような指環が光っていたという…
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あとがき
ども、飛神宮子です。
久々にまともにプロデューサーが出てくる話となりました。
そして千早も久々の登板。完璧を目指したいからこそ…ですね。
千早もやっぱり一人の少女(おんなのこ)ですからね。
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2009・12・21MON
飛神宮子
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