9月のある日… |
小鳥 | 「148cmということは、うちの事務所だとやよいちゃんくらいかしら」 |
若葉 | 「そのやよいさんって…」 |
小鳥 | 「14歳よ、若葉ちゃん」 |
若葉 | 「うう…やっぱり〜…」 |
小鳥と若葉が群馬のとある街でとある場所へと車を走らせていた。 |
小鳥 | 「でもその歳で似合うのは貴重よ、だから…」 |
若葉 | 「だけどもう少し大人なアイドルで売りたいんです〜」 |
小鳥 | 「それは…それこそプロデューサーの手腕なんだけど…」 |
若葉 | 「プロデューサーさん、そういう仕事取ってきてくれないんです」 |
小鳥 | 「そうなのね、うーん…」 |
若葉 | 「この前なんて、小学生の子たちとのユニットの仕事持ってきてるんですよ〜」 |
小鳥 | 「そうなのね。それだと…諦めるしかないかもしれないわ」 |
若葉 | 「うー…」 |
小鳥 | 「あとは頑張ってプロデューサーさんに大人のお姉さんを見せ付けるしかないわね」 |
若葉 | 「でもなかなか振り向いてくれないんです〜」 |
小鳥 | 「そういう時はね、一度…」 |
ここで小鳥は若葉の耳へとそっと囁いた。 |
若葉 | 「!?!?」 |
その言葉に思わず顔を赤らめる若葉。 |
若葉 | 「無理無理無理無理ですよ、そんなの〜…」 |
小鳥 | 「そう、その心よ」 |
若葉 | 「え?」 |
小鳥 | 「大人だから恥ずかしがるの。子供で無邪気とかだったらそうはいかないの」 |
若葉 | 「そういうもの…ですか?」 |
小鳥 | 「ええ。例えばプロデューサーと二人だけでのお仕事とか…無いかしら?」 |
若葉 | 「取ってきて欲しい…ですね〜」 |
小鳥 | 「一度思い切ってやっちゃうの。それくらいしないと、きっと考えてくれないかもしれないわ」 |
若葉 | 「…はい。一度なら私にだってそれくらい」 |
小鳥 | 「その時にちゃんと恥ずかしがるのも大事。それで怒られてもいいの、その怒られ方が大事よ」 |
若葉 | 「そうなんですか?」 |
小鳥 | 「子供を諭すような怒られ方だったら脈が無いからもう諦めた方がいいわ」 |
若葉 | 「つまりその逆だったら…」 |
小鳥 | 「ええ、きっと何か見出してくれるわよ」 |
若葉 | 「ふふっ、やってみますね〜」 |
小鳥 | 「ファイト…ってこの話はカットでお願いしますね、スタッフさん」 |
スタッフ | 『さすがに放送できませんからカットですよ、音無さん』 |
小鳥 | 「それでお願いします。さて編集点…っと……………………ところで今はどこに向かっているんですか?」 |
若葉 | 「あ、今はですね〜………」 |
……… |
その夜、ここは若葉の部屋。 |
小鳥 | 「あのハムは美味しかったわね」 |
若葉 | 「はい〜、普段食べている物が作られていく過程は見ていて楽しくって〜」 |
小鳥 | 「でも若葉ちゃんのお肉も、良かったわよ」 |
若葉 | 「もう、小鳥さんあんなにマジマジと見るなんて〜…」 |
小鳥 | 「でも素材は悪くないと思うの。確かに子供っぽい見た目だけれども、内に秘めている物は子供じゃないわ」 |
若葉 | 「そう言われると何だか悪くは思えないです〜」 |
小鳥 | 「髪の毛が長いからというのもあるかもしれないけど、どちらかといえば子供趣味の服が好きでしょ?」 |
若葉 | 「それは…あまり大人っぽいのは似合わないから仕方ないんです」 |
小鳥 | 「それがダメなのよ」 |
若葉 | 「やっぱり…」 |
小鳥 | 「そうやっていると徐々に自分の意識までそっちに持っていかれてしまうわ」 |
若葉 | 「うう〜…」 |
小鳥 | 「そういう服は思い切ってやめて、同じフリルでも大人っぽいフリルにするのがきっと良いわ」 |
若葉 | 「フリルは好きなのでどこかに取り入れたいですけど〜」 |
小鳥 | 「じゃあ思い切って…下着から攻めてみましょ」 |
若葉 | 「ええ〜っ!」 |
小鳥 | 「服のフリルはゴシックだったりロリータ趣味だったりだけど、下着のフリルはいい感じに大人を出してくれるわ」 |
若葉 | 「なるほど…そうなんですね〜」 |
小鳥 | 「それと…何かやっぱり参考になるものが欲しいわね…」 |
若葉 | 「それなら…」 |
若葉はスマホを操作し始めた。 |
若葉 | 「この写真みたいな感じですか〜?」 |
若葉はローゼスゴシックの衣装を着た写真を見せた。 |
小鳥 | 「これ…充分できている気がするのに…これでプロデューサーさんは何て?」 |
若葉 | 「声を無くしてました〜」 |
小鳥 | 「それはつまり、若葉ちゃんに大人の魅力を見ている証拠よ」 |
若葉 | 「でもそれからはぱったりそういう仕事が来なくって」 |
小鳥 | 「事務所の方針みたいなのもあるかもしれないわ」 |
若葉 | 「もう一回こういう衣装の仕事…してみたいです」 |
小鳥 | 「そういえば…」 |
若葉 | 「はい?」 |
小鳥 | 「あのグラビアの話、そっちの事務所には行ってないのかしら」 |
若葉 | 「グラビアですか?」 |
小鳥 | 「確かこの前、雑誌のグラビアがあるから事務所から一人って見た気がするの」 |
若葉 | 「そうなんですか〜」 |
小鳥 | 「コンセプトからしたら、若葉ちゃんっぽい気がするのよね」 |
若葉 | 「え?」 |
小鳥 | 「うちにはいないからってお断りしたんだけど…」 |
若葉 | 「それってどういうものですか?」 |
小鳥 | 「確か、子供っぽい娘の大変身っていうので…」 |
若葉 | 「え?あ…あ〜っ!もしかしてあの話って本当に!?」 |
小鳥 | 「どうしたの?」 |
若葉 | 「前にプロデューサーさんから今度グラビア撮影があるから準備していてって」 |
小鳥 | 「書類とかはその時貰わなかったの?」 |
若葉 | 「話だけしか聞いてなくて、書類は後で貰う予定にしていて…」 |
小鳥 | 「きっとあの人だったら、やってくれるわ」 |
若葉 | 「そのスタッフの人を知っているんですか〜?」 |
小鳥 | 「これでも長年事務をやっているもの。その辺には詳しいの」 |
若葉 | 「厳しいんですか?」 |
小鳥 | 「詳しいことは現場を見ていないから分からないけど、コンセプトに合うまで指導が厳しいらしいわよ」 |
若葉 | 「でもそれに合うようにやれるようになったら…」 |
小鳥 | 「これはもしかしたら、若葉ちゃんの魅力にもう気付いているのかもしれないわ」 |
若葉 | 「それならいいですけど〜…」 |
小鳥 | 「もう、自信を持って」 |
若葉 | 「はい〜頑張ってみます」 |
小鳥 | 「小さくても心はやっぱり大人さんね」 |
若葉 | 「もう、小さいって言わないでください〜」 |
小鳥 | 「フフフ、そうね」 |
小鳥の微笑みはとても温かく若葉へと伝わったという… |
HAPPY BIRTHDAY!! Kotori OTONASHI.