2月のある日… |
あやめ | 「ようやく着きました、千早殿」 |
千早 | 「ここが浜口さんの地元ですか」 |
あやめ | 「はい。あやめの生まれ故郷はこちらになります」 |
千早 | 「三重の中でもかなり山沿いになりますね」 |
あやめ | 「隣はもう滋賀や京都、奈良にも接しております」 |
千早 | 「三重と聞いたときは、海の方かと思っていましたのでちょっと驚きです」 |
あやめ | 「確かに海岸部は長い県ですが、こちらの方もいいものですよ」 |
千早 | 「はい…」 |
あやめ | 「では参りましょう、ご案内します」 |
千早はあやめに案内されて付いていった。 |
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ここはとある牛肉料理の専門店… |
千早 | 「牛肉ね…うちだと焼肉が好きな子がいるわ」 |
あやめ | 「そうなんですか?」 |
千早 | 「ええ。萩原さん知ってるかしら?」 |
あやめ | 「萩原さんって…え?あのショートの髪の人っ!?」 |
千早 | 「そうよ。意外といえば意外よね」 |
あやめ | 「はい、ニンともカンとも…」 |
千早 | 「萩原さん、ああ見えて体力はある人なの」 |
あやめ | 「とっ、とてもそうは見えませんが」 |
千早 | 「あの細そうな腕で穴を何mも掘るなんて…フフっ、想像できないわよね」 |
あやめ | 「なるほど…それほどの体力の持ち主であるとは…」 |
千早 | 「アイドルは体力勝負というところもあるから」 |
あやめ | 「参考になります。あ、来たみたいですっ」 |
お店の人が持ってきたのは何やら鉄鍋。 |
あやめ | 「えっ…ということは今日のお昼ご飯は…すき焼きですか?ここではあやめも久方ぶりです」 |
千早 | 「あまり出来合いの物しか見たことが無いから、こうやって作ってもらうのを見るのは久しぶりかもしれないわ」 |
あやめ | 「では店員さん、お願いしますっ」 |
店員 | 『はい』 |
店員が下のコンロへと火を付けて、二人の目の前で調理が始まった。 |
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その日の夜… |
あやめ | 「夜も更けてまいりましたね」 |
千早 | 「ええ…浜口さんと巡る伊賀の旅、楽しかったわ」 |
あやめ | 「あの…あやめの家の食事は口には合いましたかっ?」 |
千早 | 「とても温かい、家庭の味がしました」 |
あやめ | 「良かったぁ…」 |
二人がどういう状況かというと… |
あやめ | 「あ…千早さん、寒くはないですか?」 |
千早 | 「はい…床に布団で寝るのも久しぶりかしら。今日は一日ありがとう浜口さん」 |
あやめ | 「千早さん、替えの服小さくないですか?着てきた服はちゃんと洗濯しますからっ」 |
千早 | 「そんな、悪いのは私の方なのに」 |
……… |
その日の午後のこと… |
千早 | 「この作品は…」 |
千早は壁に飾ってあった書道の作品を指してあやめへと聞いた。 |
あやめ | 「それですか?それはあやめが昔書いたものです」 |
千早 | 「浜口さん、書道もされるのですか?」 |
あやめ | 「はい。おじいちゃんが書道家で昔から教わってました」 |
千早 | 「それなら納得だわ」 |
あやめ | 「おじいちゃんには色々と教わりました。あやめのアイドルとしての方向性も決めてもらったのかもしれません」 |
千早 | 「方向性…何かしら?」 |
あやめ | 「あやめが目標としているのはトップ忍ドルですからっ」 |
千早 | 「アイドルじゃなくて…忍ドル?」 |
あやめ | 「忍者アイドルですっ。あやめはおじいちゃん子だったので、おじいちゃんと一緒にいる時間も長かったんです」 |
千早 | 「おじいちゃん子だからってどうして?」 |
あやめ | 「おじいちゃんと一緒に時代劇を見ることが多くて、忍者への憧れも強くなって修行することにしたんです」 |
千早 | 「だからアイドルじゃなくて忍ドルを目指しているのね」 |
あやめ | 「おじいちゃんと一緒に作る夢と思っていますっ」 |
千早 | 「分かったわ、それにしても本当に達筆ね」 |
あやめ | 「ありがとうございます。うーん、時間は…まだ夕ご飯まで時間はありそうですね」 |
千早 | 「時間は…ありますね」 |
あやめ | 「それならちょっと準備するのでそっちの部屋で待っていてください」 |
千早 | 「えっ?」 |
あやめ | 「書道用具とかを準備してきますっ」 |
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書道用具を千早の待つ部屋へと持ってきたあやめ。 |
サラサラサラサラ |
千早 | 「浜口さんは書道をするときは和服に着替えるのね」 |
あやめ | 「いえ、気合を入れる時だけです。普段は私服で書いたりもします」 |
千早 | 「流れるような筆捌き、これは長年の証拠かしら」 |
あやめ | 「そう言われると照れてしまいます」 |
千早 | 「今でも練習はしているの?」 |
あやめ | 「えーと、多少はやっております。それに今の事務所の月目標とかも毎月書かされてます」 |
千早 | 「あの大きな紙に書くときはどういう気分なものかしら?」 |
あやめ | 「書く言葉は決まってるんですけど、字のバランスとか色々考えないとですから」 |
千早 | 「みんなに見られる物よね」 |
あやめ | 「だから失敗は極力できないですし、アレは毎月気合入りまくりますよっ」 |
千早 | 「フフっそうなのね」 |
あやめ | 「終わった後は毎回気持ち良い気分にはなれますがっ…よしっ」 |
千早 | 「そういえば浜口さんの他には、書道をするアイドルはいるのかしら」 |
あやめ | 「えっと聞いたことだけはあるんですけど、956プロに松尾さんっていう方がおられるらしいです」 |
千早 | 「そうなのね。他の事務所も多くてまだ知らないそんな子もいるの」 |
あやめ | 「はい…っと、千早さんも一筆どうですか?」 |
千早 | 「え、私も?」 |
あやめ | 「はい。どうぞこちらへ」 |
千早 | 「あ…えっと…」 |
千早が立ち上がろうとした瞬間… |
千早 | 「ふわあっ!?」 |
あやめ | 「ち、千早さんっ!?」 |
足が痺れていてそのまま転んでしまう千早、その先には |
べしゃっ |
さっきあやめが書いた紙や硯が… |
……… |
あやめ | 「明日帰る頃にはたぶん大丈夫だと思います」 |
千早 | 「ごめんなさい、悪いのはこっちの方なのに…」 |
あやめ | 「汚れてしまったのはあやめが持ってきた墨のせいですから…」 |
千早 | 「でも浜口さんの字、本当にきれいで浜口さんの人柄が出ていたわ」 |
あやめ | 「そう言われると嬉しいですっ」 |
千早 | 「浜口さんは本当に想いが、気持ちが入るアイドル…なのね」 |
あやめ | 「そうなのでしょうか…」 |
千早 | 「ええ…これからもまっすぐ進んでいけば目指すところに行けるわ、きっと」 |
あやめ | 「はいっ…!」 |
あやめの決意の返事、隣の布団で横になって見つめていた千早は微笑みを返していたという… |
HAPPY BIRTHDAY!! Chihaya KISARAGI.