One must Go Abroad to Hear of Home.(灯台下暗し)

ここはある日の事務所…
「誰か居てくれればいいんだけどなあ…」
事務所のドアの前で立ち尽くしている女の子が一人…
「まあいいや、とりあえず中に入ろうっと」
ガチャっ
「おっはようございますっ!」
その女の子は元気な声で事務所へと入っていった。
やよい「あ、真さんおはようございまーす」
「やよい、おはよう。あれ?やよいだけ?」
やよい「はい。ちょっと留守番を頼まれてたんです」
「そっか。そういえばプロデューサーは?」
やよい「もうすぐ戻ってくると思います」
「うーん、急いでるのになあ…」
やよい「どうしたんですか?」
「今日ボクのラジオがあるのは知ってるよね?」
やよい「はい。今日は真さんと亜美の…あれ?でも亜美って今日来れないですよね」
そこに…
ガチャ
プロデューサーが帰ってきた。
「お、来たか真。おはよう」
「おはようございます!ど、どうするんですかそれで…」
「そんなこと言ってもな…今日一人でやってもらうしかないだろ?」
「そんなぁ…ボクだってまだそんなの無理ですって!」
やよい「あの、どうしたんですか?」
「やよい、留守番ありがとうな。いや、ちょっとな」
「ボクは律子みたいに一人で出来るほど頭良いわけでも無いんですから」
「だからって…真は誰か連絡してくれたのか?」
「それが…雪歩も春香もあずささんも…あと何人か連絡しましたけどダメだって…」
「しょうがないよな、急な話だし…876プロは…ああ!そういえば今日向こうは3人でライブか…」
「何人かはそれに行くからダメって言われちゃって…」
「小鳥さんは必ずここに来るけど無理だろうな…律子は亜美と真美に付けちゃってるし」
「あとは、うーん…」
「先週のうちに決めておかなかった俺も悪かったんだよな…」
「どうしたらいいですかね…」
やよい「あ、あのー…プロデューサー、真さん」
どこかジト目で二人を見ているやよい。
「どうした?やよい」
「どうしたの?やよい」
一瞬キョトンとした二人。ただプロデューサーはすぐに気が付いたようで…
「あ…俺たち何でやよいのことを選択肢から抜いてたんだ」
「え?あー!そっか。やよいはボクよりラジオ歴長かったんだっけ…」
やよい「そう言うならいいですっ。真さん、一人で頑張ってきてください」
やよいは帰ろうとあさっての方向へと踵を返した。
「やよいゴメンっ!」
やよい「………」
「完全にボクが悪かったよ。本当ならすぐにお願いするべきだったのに…」
やよい「………」
「俺も謝る。本来なら留守番頼む前に頼むべきだったのに、やよいには無理だって思い込んでたんだ…」
やよい「………」
「やよい、怒ってるよな?それならいくらでも俺を怒ってくれて構わないから」
振り返ったやよいの反応は、少し意外な物だった。
やよい「…んっ…うっ…」
「えっ…」
ぎゅうっ
やよいはそのまま顔を隠すようにプロデューサーへと抱きついた。
やよい「ぐすっ…んっ…」
「や、やよい…」
やよい「私だって…うう…私だってちゃんとできるのに…どうして…ひっく…私のことを見てくれなかったんですかっ…」
「本当に…ゴメンな…」
ポンポンっ
プロデューサーはやよいの頭を包み込んで、背中を優しく叩いてあげた。
「俺もプロデューサー失格だな。アイドルの心を傷付けてしまってさ…」
「プロデューサー、ボクも同罪ですよ。やよいのこと考えてなかったなんて…」
「やよい、今から俺のこと気が済むまで殴るなり叩くなり好きにやってくれ」
やよい「えっ…プロデューサー…」
「それで罪滅ぼしになるか分からないけどさ、行き場の無い気持ちを受け止めるのも俺の役目だ」
やよい「ぷ、プロデューサー、一つ…いいですか?」
「ああ、何だ?やよい」
やよい「少しだけ…しゃがんで下さい」
「しゃがめばいいんだな?」
プロデューサーは少し体勢が低くなった。
やよい「プロデューサー、目を瞑っていてください。良いって言うまで開けないでくださいね」
「了解」
むにゅっ むにゅっ
「んっ…」
やよいはプロデューサーの両頬を摘んだ。
やよい「悪い子にはお仕置きですっ。せーの…たってたってよっこよっこ」
プロデューサーの頬がやよいの指で動かされていく。
やよい「まーる描いて…」
チュッ
「へ?!」
プロデューサーはその不意打ちに思わず目を見開いた。目の前にはやよいの顔があった。
やよい「えへへー、もうこれで気が済みました」
「やよい…大胆だね」
「これはさすがに読めなかったな…やよいも女の子だもんな」
そのやよいの顔からは怒り顔が消え、少し赤い顔に変わっていた。
「やよい、ボクには?」
やよい「うーん…あ、そうだ!真さんにはラジオ中でいいですか?」
「それってどういう…」
やよい「えっとですね……………ですっ!」
「ええっ!?!?ぼ、ボクがそれは無理だよぉ!」
やよい「それなら私、やっぱり帰…」
「ああっ、もう!…や、やるからっ…一人でやる自信はまだ無いんだよぉ…」
やよい「じゃあキマリですっ。プロデューサー、もう打ち合わせに行かないとじゃないですか?」
「あ、そうだな。よし、じゃあ二人とも車に乗ってくれ」
「トホホ…亜美がいないからとはいえ、全部あのコーナーやることになっちゃうのかぁ…」
真は少し苦笑いを浮かべていた。
………
そして…
「菊地真と」
やよい「高槻やよいの」
真・やよい『空のなないろ!』
♪〜
二人のタイトルコールで今週も番組が始まった。
「時刻は2時です。ラジオの前の皆さんこんにちは!今週はボク、菊地真と…」
やよい「高槻やよいがお送りしまーす!」
「先週に予告した通り、亜美は今日はお休みです。今頃はたぶん飛行機の中かな?」
やよい「今日から律子さんと真美と一緒に北海道でしたよね、プレゼンター…でしたっけ?」
「うん。それで今日はピンチヒッターとして、やよいと一緒にラジオをお届けすることになりました。さて、今日のテーマは…」
やよい「四月なので『あなたの始めたいこと』ですっ。生放送ですので今からでもお便り間に合いますよー」
「FAXは〜〜〜〜、メールは〜〜〜〜〜。携帯からも大丈夫です。お便りが読まれた方には番組特製ステッカーをプレゼントしています」
やよい「先週律子さんが言ってましたけど、四月から新しいステッカーになりましたっ」
「そうなんだよね。このデザイン、なかなか可愛いよね」
やよい「どんなデザインかは貰ってからのお楽しみですよ〜」
「うん。それでは今週も4時までの2時間、ラジオの波が私達とリスナーの…」
やよい「七色の架け橋になりますように…」
 
CMが明けて…
「さて、今週のコーナーなんですが…亜美がいないので亜美関係のコーナーは全部お休みです」
やよい「私がいますけど、私のコーナーは来週にちゃんとやりますから、今週は送らないでくださいね」
「というわけで、今日はボクのコーナーオンリーでお送りします」
やよい「リスナーの皆さん、チャンスですからいっぱいいっぱい送ってくださーい!」
「え…や、やよい…」
やよい「今日は真さんの可愛いボイスもかっこいいボイスもいっぱいいーっぱいお届けしちゃいまーす」
「今日はもう覚悟決めてるからいいけど…うう…」
やよい「真さん、普通のお便り行きましょう」
「え、あ、そうだね…」
その日の放送終了後、真の顔は精根尽き果てた上に真っ赤に染まっていたという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
真とやよい、何気にこのサイトでは初です。
やよいだって、自分が出来ることを全否定されているようにされたら悔しいですよね。
特に今回のことは自分が先輩であることですから…ね。
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2012・04・25WED
飛神宮子
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