雪歩 | 「えっ…わ、私がですか?」 |
P | 「うん、確かにほら。こういう書類も届いてるしさ」 |
プロデューサーは、選考結果が書かれた書類を雪歩へと差し出した。 |
雪歩 | 「そ、そんな賞がもらえるなんて…」 |
P | 「いや、雪歩の力だと思うぞ。この歳で貰える賞なんかじゃないからな」 |
雪歩 | 「私はただ…緑茶が美味しいから、それをみんなに広めようと思ってただけですよぉ」 |
P | 「それがなんだよな、賞を貰った理由がさ」 |
雪歩 | 「誰がこ、この賞に私を推薦したんですか!?」 |
P | 「えっと…この前、雪歩が緑茶に関する本を出版した出版社の人だな」 |
雪歩 | 「そんなあ…うう…」 |
P | 「でもこれは名誉なことなんだから、これは喜ばないと」 |
雪歩 | 「そうですね…と、とりあえず…ど、どうしたらいいんでしょうか」 |
P | 「そうだな、まずは落ち着いたらどうだ?」 |
雪歩 | 「は、はい…」 |
P | 「ほら、これでも飲んでさ」 |
と、プロデューサーは雪歩へとお茶を差し出した。 |
雪歩 | 「コクッ…コクッ…はあ…落ち着きました」 |
P | 「まずは、落ち着いてくれて良かったよ」 |
雪歩 | 「これは越後の村上茶ですね、ふう…甘くて美味しいです」 |
P | 「よく分かったな。この前、美希が旅番組行った時に買って来たのなんだけど」 |
雪歩 | 「だって…全国のお茶はこの舌が憶えてますから…」 |
チロっと舌を出す雪歩。 |
P | 「凄いな…本当に感心するよ」 |
雪歩 | 「でもこれはちょっと淹れ方が悪いです…私、このお茶淹れ直してきます。茶葉は給湯室ですね?」 |
P | 「ああ、そうだけど…」 |
|
10分後… |
雪歩 | 「プロデューサー、これを飲んでみてください」 |
P | 「ありがとう、雪歩…ゴクッ…本当にこれ、さっきと同じお茶なのか?」 |
雪歩 | 「はい、ちょっと淹れ方にコツがあるんです」 |
P | 「しかし本当に美味いな、俺の淹れ方じゃ雪歩は満足しないわけだ」 |
雪歩 | 「え?え…違うんですぅ…さっきのお茶も美味しかったですぅ」 |
P | 「でも淹れ直したってことはそういうことなんじゃないの?」 |
雪歩 | 「そうじゃなくて…ただ私の好きな淹れ方じゃなかったんですぅ」 |
P | 「そういうことだったのか、なるほどね」 |
雪歩 | 「でも…本当にあれっていいお茶ですね」 |
P | 「まあな。地元の人に聞いて買ったからな、雪歩のためにさ」 |
雪歩 | 「そんな、私のためだなんて…」 |
P | 「アイドルのためにそこまでするのが、裏方である俺の役目なんだよ」 |
雪歩 | 「でも…」 |
P | 「ん?でも?」 |
雪歩 | 「私のためだけにそんな…」 |
P | 「そんなに自分を卑下するなよ、俺がやりたいことをやっただけなんだから」 |
雪歩 | 「プロデューサー…ありがとうございます…」 |
P | 「よし、ゴクッゴクッ…んくっ…と、それならもう一杯貰える?」 |
雪歩 | 「はいっ、心を篭めて淹れてきます」 |
雪歩はその言葉にようやく笑顔になって応えた。 |
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そして二人分の二杯目のお茶を持ってきた雪歩。 |
雪歩 | 「そういえば地元の人に聞いたんですよね?このお茶って」 |
P | 「うん、そうだけど…」 |
雪歩 | 「あの…今度教えてくれませんか?」 |
P | 「ああ、それくらいは構わないけど…地方発送はやってなかったような」 |
雪歩 | 「そんなあ、このお茶美味しいのに…」 |
P | 「うーん、そう言われてもなあ、俺にはどうしようもないし」 |
雪歩 | 「家にも欲しいなあ…これ貰って帰ってもいいですか?」 |
P | 「それは構わないよ、俺の半私物だしさ」 |
雪歩 | 「ありがとうございます、頂いちゃいますね」 |
P | 「うん。あ、それじゃあ新しいお茶、買ってこないとじゃないかな」 |
雪歩 | 「え?もうこれしか無かったんですかぁ?」 |
P | 「確かそうだったはず。小鳥さんが買ってなければだけど…その小鳥さんは不在だし…」 |
雪歩 | 「うう…それじゃあ貰うの悪いですぅ…」 |
P | 「いや、いいんだよ。もともとは雪歩用に取っておいたやつだから」 |
と、そこに… |
Trrrrr… Trrrrr… |
P | 「はい、いつもお世話になっております。765プロダクションです」 |
小鳥 | 『もしもし、音無です。あ、プロデューサーさんですか?』 |
P | 「あ、小鳥さんですか。今買出し中ですよね?」 |
小鳥 | 『はい。コーヒー豆とクリープと砂糖、あとはお茶菓子で良かったんですよね?』 |
P | 「あとすみませんがお茶をお願いできませんか?」 |
小鳥 | 『え?お茶って…今朝ありませんでしたっけ?』 |
P | 「それがその…あのお茶雪歩のためのやつを、あのこの前のお客さんの時に無くて開けただけなんで…」 |
小鳥 | 『なるほど、分かりました。あのいつものでいいんですよね?』 |
P | 「はい、いつものやつで…あ、でも小鳥さんが良いと思ったのでも良いですよ」 |
小鳥 | 『分かりました。それでは、それを買ったら戻りますね』 |
P | 「はい、気をつけて戻ってきてくださいね」 |
カチャッ |
雪歩 | 「小鳥さんからですか?」 |
P | 「ああ、買ってきてくれるってさ」 |
雪歩 | 「良かったあ、これで持って帰れます」 |
P | 「そうだな、でも使いかけで本当にいいのか?」 |
雪歩 | 「はい。これだけ美味しいお茶ですから」 |
P | 「それならいいんだけどさ、もしだったらもう一回行って買ってくるぞ」 |
雪歩 | 「でも…アイドルがプロデューサーにそんな、手間をかけさせちゃダメですよぉ…」 |
P | 「別に俺としてはそんなことないけどな」 |
雪歩 | 「もう、本当にこれでいいんです…だって…」 |
P | 「だって?」 |
雪歩 | 「だって、プロデューサーが考えて買ってきてくれた物だから…」 |
P | 「………」 |
雪歩 | 「だから…だからこそこれでいいんです」 |
P | 「…雪歩…ありがとうな。そう言ってもらえるとプロデューサー冥利に尽きるよ」 |
雪歩 | 「あっ…プロデューサー、もう一杯飲みませんか?」 |
P | 「いいのか?持ち帰る分減っちゃうだろ?」 |
雪歩 | 「せっかくのプロデューサーのですから、もう一杯心を篭めて淹れてきたいんです」 |
P | 「…分かった、雪歩がそこまで言うなら…淹れてもらおうかな」 |
雪歩 | 「はい、プロデューサー。淹れてきますから、湯飲みをまたこっちにもらえますか?」 |
P | 「うん。はい、お願いね」 |
雪歩はお茶の葉と湯飲みを嬉しそうに持ちながら給湯室へと向かっていった… |
……… |
さてさて雪歩がもらった賞とは、実は… |
『続いては、平成XX年度○-CHAパイオニア賞、文化・芸術賞の萩原雪歩さんです』 |
だそうですよ。 |