ここはある日の765プロ事務所。 |
キョロキョロ キョロキョロ |
何やら事務所の中を見渡す眼が二つ… |
涼 | 「まだ来てないな、はあ…また律子姉ちゃんに怒られるって思うと憂鬱だよ」 |
どうやらこの事務所の人ではないようだ。 |
涼 | 「とりあえずこんなところで待っててもしょうがないか」 |
涼が中に入ろうとした、ちょうどその時だった。 |
律子? | 「何してるのよもう…そこにいると邪魔だから早く入りなさい涼」 |
涼 | 「ひいっ!律子姉ちゃんっ!」 |
と、ゆっくりと後ろを向く涼。 |
涼 | 「…あれ?」 |
亜美 | 「おはよ。どしたの?おねーちゃん」 |
涼 | 「おはよう亜美ちゃん。ねえ、今ここに律子姉ちゃんいなかった?」 |
亜美 | 「え?亜美は知んないよ」 |
涼 | 「おかしいなあ…確かに律子姉ちゃんの声だったんだけど」 |
亜美 | 「とにかく中に入ってよー、早く暖まりたいー」 |
涼 | 「あ、ゴメンゴメン」 |
事務所の中に入った二人。 |
亜美 | 「やっぱ暖かいー…あ、兄ちゃんまたソファーで寝てるしー」 |
涼 | 「疲れてるみたいだから寝かしておこうよ」 |
律子? | 「…もう、どうしてこうだらしないのかしらねえ」 |
涼 | 「え?律子姉ちゃん、どこどこ?」 |
亜美 | 「またどったの?おねーちゃん」 |
涼 | 「だって今、律子姉ちゃんの声が…」 |
亜美 | 「空耳じゃないの?亜美には何にも聞こえなかったよ」 |
涼 | 「変だなあ…」 |
律子? | 「さっきから何一人で騒いでるのよ」 |
そこで涼は何か気がついたようだ。 |
涼 | 「あのさあ亜美ちゃん、分かっちゃったんだけど…」 |
亜美 | 「えっ…?」 |
涼 | 「亜美ちゃんってモノマネ得意なんだったね」 |
亜美 | 「…えーっと、何のことかなあ?」 |
明らかに涼から目を反らせ始めた亜美。涼はそんな亜美の頬をつまんで… |
涼 | 「さっきからの律子姉ちゃんの声は、その口から出てたのかなぁ?」 |
ぐにー |
男の娘であるがゆえに思った以上に引っ張る力が強い。 |
亜美 | 「うあー!いひゃいいひゃいっ!」 |
涼 | 「どうなのかな?亜美ちゃん」 |
ぐにー |
どうやら謝るまで止める気も無いようだ。 |
亜美 | 「ごめんなひゃい!ごめんなひゃい!亜美がやりまひたー!」 |
涼 | 「そうだよね。だって亜美ちゃんが来てから、律子姉ちゃんの声してたから」 |
ぱっ |
ようやく涼の手から解放されたようだ。 |
亜美 | 「うう…痛いよー」 |
涼 | 「ゴメンね、でも私を騙したんだからこれくらいの罰は受けてもらわないとね」 |
亜美 | 「だって、事務所の入り口で妙にビクビクしてたんだもん」 |
涼 | 「それは…」 |
亜美 | 「だからもしかしたら律っちゃんに呼ばれてたんじゃないかなって」 |
涼 | 「確かに…そうだけどさあ。ところで本物の律子姉ちゃん知らない?」 |
亜美 | 「ほら、あそこに予定書いてあるよー」 |
涼 | 「本当だ…って、えーっ!?」 |
涼がホワイトボードに目をやると、律子とやよいの予定が翌日まで同じように埋まっていた。 |
涼 | 「今日って言ったのに、何だよもう」 |
亜美 | 「そんなこと言ってもしょうがないじゃん」 |
涼 | 「そうだけどさあ…でも暇になっちゃったよ」 |
亜美 | 「そうなの?」 |
涼 | 「だって今日はもう事務所には行かないって連絡入れたんだ」 |
亜美 | 「じゃあこっちでレッスンしてく?」 |
涼 | 「うーん…いいのかな?」 |
亜美 | 「ちょっち待ってね」 |
亜美はプロデューサーが寝ているソファーへと近付き… |
ゆさゆさゆさ |
プロデューサーを揺り起した。 |
P | 「もう朝か…ふわ〜あっと…ん?誰だ?」 |
亜美 | 「兄ちゃんおはよ、もうこんな時間だよ」 |
P | 「あれ?亜美か。今日はオフのはずだぞ、どうしたんだ?」 |
亜美 | 「だって真美が風邪ひいて暇なんだもん」 |
P | 「だからってここに来ることはないだろ?」 |
亜美 | 「でももう次の曲のプロモ撮りっしょ?ちょっと確認しようと思ってねー」 |
P | 「確かに亜美達だけ遅れ気味だからな…」 |
亜美 | 「だからレッスンしてー」 |
P | 「ま、亜美がそこまで言うことはなかなか無いからな。いいぞ、今日はレッスンしてやる。だけどここのでな」 |
亜美 | 「あんがとー。おねーちゃん、いいってー」 |
P | 「え?ちょっと待て亜美、どういうことだ?」 |
亜美 | 「おねーちゃん暇なんだってさー」 |
涼 | 「こ、こんにちは…」 |
P | 「あ、キミが律子の従弟っていう…」 |
涼 | 「はい、秋月涼です。律子姉ちゃんがいつもお世話になってます」 |
P | 「こちらこそ。律子にはいつも助けてもらってるさ」 |
涼 | 「今日はこんなことになってすみません」 |
P | 「いいさ、知らない人ってわけでもないし。1人増えたところで変わらないからな」 |
亜美 | 「じゃあいいんだね?」 |
P | 「ああ。今が9時だから…何時からにしたいんだ?」 |
亜美 | 「兄ちゃんは事務所の仕事あるんでしょ?」 |
P | 「まあな。そのためにま〜ち以外はオフにしたくらいだからさ」 |
涼 | 「そんな、私のために時間を割かなくてもいいですよぉ」 |
P | 「いやいや、ここはいいってことさ。876プロの子のダンスっていうのも一度は見てみたかったしさ」 |
亜美 | 「そーだよ、亜美も見てみたいなー」 |
涼 | 「亜美ちゃんまで…でも、この格好じゃできないから…」 |
亜美 | 「それなら…おねーちゃんってスリーサイズは?」 |
涼 | 「えっと………だけど?」 |
P | 「それなら律子の貸そうか…って、そういえば律子から何か預かってた気が…」 |
と、ソファーから起き上がって机の脇を見やるプロデューサー。 |
P | 「これ律子から預かってたぞ」 |
涼 | 「え?何ですかこれ」 |
中には… |
涼 | 「これって…どうして私のジャージがここに?」 |
P | 「ああ、手紙も貰ってる。『うちの涼に厳しい指導を頼みます』ってさ」 |
涼 | 「もしかして私、ハメられた?」 |
亜美 | 「じゃあ、兄ちゃんは来るのも知ってたってこと?」 |
P | 「もちろん。まあ寝てたのは疲れてたのもあるんだけどな」 |
亜美 | 「そっか、そうだったんだ…って亜美も知ってたんだけどね」 |
P | 「こっちのレッスンは、向こうより厳しいかもしれないけど覚悟するように」 |
涼 | 「…ぎゃおおおん!律子姉ちゃーん!」 |
涼の叫び声が765プロに響き渡ったのは言うまでもなかった… |