ここはある日の事務所… |
小鳥 | 「改まってお話って何かしら?」 |
貴音 | 「一つ急なお願いがありまして…」 |
小鳥 | 「ええ、どうしたの?貴音ちゃん」 |
応接用のソファーで話をしているのは貴音と… |
貴音 | 「小鳥嬢、大変急で申し訳ないのですが」 |
小鳥である。 |
小鳥 | 「そんなに急な話なの?」 |
貴音 | 「そうなのです。あの…今日から長くて一週間ほど、泊めていただくことはできませんか?」 |
小鳥 | 「泊め…ええっ!?本当に急な話なのね」 |
貴音 | 「はい、実は…今日から最大で一週間、自宅や近隣も含めて周辺が大規模に工事されるとのことで…」 |
小鳥 | 「え?でもそれって事前に分かってなかったの?」 |
貴音 | 「それがわたくし、昨日まで長期のロケで知らなかったのです…」 |
小鳥 | 「そうなの…でもそれなら事務所でホテルを取ってもいいわよ?」 |
貴音 | 「そんなことをして事務所のほうへ負担はかけたくは無いのです…」 |
小鳥 | 「うーん、そうねえ…今日は夜にあの店で歌わなくちゃだから…それからでいい?」 |
貴音 | 「わたくしはそれで構いません」 |
小鳥 | 「それなら仕方ないわね…でも、どうして私に?」 |
貴音 | 「小鳥嬢など事務所の者なら家の者も問題ないと言われまして…」 |
小鳥 | 「それで私のところに来たと。あ、たまにプロデューサーさんが来るかもしれないけどいいかしら?」 |
貴音 | 「来るのですか?」 |
小鳥 | 「それは…私のその…ね、貴音ちゃん」 |
貴音 | 「重々承知しています、わかりました」 |
小鳥 | 「じゃあ荷物は?」 |
貴音 | 「こちらに…」 |
小鳥 | 「え?」 |
貴音の横にあるスーツケース2台。それを見て小鳥は唖然とした。 |
小鳥 | 「これ、一週間分?」 |
貴音 | 「はい…」 |
小鳥 | 「何が入ってるの?」 |
貴音 | 「こちらは服や必要な衣装などです」 |
パカッ |
片方のスーツケースを開けると中から服やら道具やらが出てきた。 |
カチャッ |
小鳥 | 「それでこっちは?」 |
貴音 | 「その…一週間お世話になるということで迷惑はなるべく最小限にしようと…」 |
パカッ |
そのもう一つのスーツケースの中には… |
小鳥 | 「これ一週間で食べるの!?」 |
そう、中には食料品がたっぷりと入っていた。 |
貴音 | 「小鳥嬢にはあまり負担は掛けられませんので」 |
小鳥 | 「そんなの気にしなくても構わなかったのに…」 |
貴音 | 「しかし、わたくしの食べっぷりは幾度かご覧になったことがありましょう?」 |
小鳥 | 「確かに…テレビとかでは色んな所で見てるけど…」 |
貴音 | 「ですから、さすがに食糧事情は悪化させたくはないですので」 |
小鳥 | 「そうね、それなら有難く受け取っておくわね」 |
貴音 | 「はい…」 |
小鳥 | 「じゃあその荷物を一旦私の家に置いてから…あ、鍵はどうしようかしら」 |
貴音 | 「それならわたくしもお店に行きましょう」 |
小鳥 | 「そう?今日の夜は一緒にお店に付いてきてもらえる?」 |
貴音 | 「分かりました。その後に小鳥嬢の家に向かうと」 |
小鳥 | 「そういうことね。あ、そうだ。もしだったら一緒にお店に立ってみる?」 |
貴音 | 「わ、わたくしがですか?」 |
小鳥 | 「貴音ちゃんなら歌も上手いし、出てもたぶん問題ないわよ」 |
貴音 | 「しかし…わたくしなんかが出ては迷惑では?」 |
小鳥 | 「お店の人には私からちゃんと言うから大丈夫よ…ね」 |
貴音 | 「それならば…衣装はいかがしましょうか…」 |
小鳥 | 「そうね…」 |
……… |
お店でのステージが終わり控え室… |
小鳥 | 「お疲れ様、貴音ちゃん」 |
貴音 | 「ご苦労様でした、小鳥嬢」 |
小鳥 | 「どうだった?この前は向こう側にいたけれど、今回はこっち側で」 |
貴音 | 「そうですね…何といいましょうか、いつもの立つ場所とは違う雰囲気と言いましょうか」 |
小鳥 | 「こういう少しアダルトな場所…確かに私でなければあずささんくらいかしらね」 |
貴音 | 「しかしなぜ小鳥嬢がこのような場所で歌っておられるのですか?」 |
小鳥 | 「んー…昔から歌うのが好きだったの」 |
貴音 | 「それならばアイドルを目指しても良かったのでは?」 |
小鳥 | 「まあ、女性には色々な過去があってね。時代っていうのもあったわ…」 |
貴音 | 「そうですか…」 |
小鳥 | 「今はもうあなたたちを見守って後ろを支えてあげるのが仕事だもの」 |
貴音 | 「プロデューサーもそう言っておられました」 |
小鳥 | 「自分はこうしてたまに歌えればそれで充分なの」 |
貴音 | 「事務所でもたまに鼻歌などを聴いても上手いと思いますが、過去の経験ということでよろしいのですね」 |
小鳥 | 「そういうことにしておいてもらえると嬉しいわ。じゃあ私の家に向かいましょう」 |
貴音 | 「そうですね…では…」 |
そこに… |
コンコン |
何やらノック音。 |
小鳥 | 「誰かしら?はーい」 |
P | 「あ、俺です。入っても大丈夫ですか?」 |
小鳥 | 「え?プロデューサーさん?あ、鍵は開いてますから入って」 |
ガチャっ |
プロデューサーが中へと入ってきた。 |
小鳥 | 「プロデューサーさん、今日はここに来る予定は無かったでしょ?」 |
P | 「いや、今日はステージの日だって聞いたから来たんですよ」 |
小鳥 | 「そんな…今日は静岡でお仕事じゃなかったんですか?」 |
P | 「終わらせて千早と美希を送ったら良い時間になってたんで」 |
小鳥 | 「そうですか、でも長い運転疲れてるでしょう?」 |
P | 「そんなことないですよ、あれ?その貴音の横の荷物は…」 |
貴音 | 「貴方様、そのですね…」 |
貴音はプロデューサーにも事情を説明した。 |
P | 「そうか…それで小鳥さんの家にか。じゃあ荷物運んであげるから、俺の車に載せてくれ」 |
貴音 | 「良いのですか?貴方様」 |
P | 「これくらいなら構わないさ。小鳥さんと貴音を置いたら俺は直帰だな」 |
小鳥 | 「そんな、疲れているでしょ?うちで泊まってっていいのに」 |
P | 「でも貴音がいるし…」 |
貴音 | 「それは構いません。先ほどそのことについては了承しましたので」 |
小鳥 | 「ほら、貴音ちゃんもそう言ってるんですから」 |
P | 「んー…まあ今日は泊めてもらうことにします」 |
小鳥 | 「でもプロデューサーさん、私の家ではしばらくお預け…ですから」 |
プロデューサーと小鳥のやり取りに、貴音は大人の関係の雰囲気を感じていた… |