ここはある日の765プロ事務所… |
涼 | 「はあ…これでまた、敵作るんだろうなあ…」 |
そこには、台本を見ながら半分諦めモードで人を待っている少年がいた。 |
涼 | 「今度は…美希さんかあ」 |
そこには『スペシャルドラマ』の文字があった。 |
涼 | 「僕、本当はアイドルなのに…最近なんかこういうことやらされてばっかりだよ…」 |
小鳥 | 「涼くん、美希ちゃんはもうすぐ来るって話よ」 |
涼 | 「あ、音無さんありがとうございます」 |
小鳥 | 「これで涼くんは何本目になるの?」 |
涼 | 「えっと…最初が雪歩さんで、春香さん、真さんで…4本目ですね」 |
小鳥 | 「あら、もうそんなになっちゃうのね。これでうちの事務所の子とキスしちゃうのも4回目なのね」 |
涼 | 「え、あ、その…」 |
小鳥 | 「あら?どうしたの?」 |
涼 | 「あ、何でもないですよ」 |
小鳥 | 「妖しいわね…フフフ、白状して。何人を手篭めにしちゃったの?」 |
涼 | 「て、手篭めなんて人聞き悪いじゃないですかぁ」 |
小鳥 | 「でもその動揺の仕方からして、キスした人はもう少し多いみたいね」 |
涼 | 「あ、あの…秘密にしておいてくださいよ。あと、やよいさんと真美ちゃんも…」 |
小鳥 | 「フフフ、若いっていいわね」 |
涼 | 「もう、音無さんからかわないでくださいって」 |
そこに… |
美希 | 「ねえ、何話てるの?小鳥と…涼ちゃん?」 |
小鳥 | 「あら、おはよう美希ちゃん」 |
涼 | 「おはようございます、星井さん」 |
美希 | 「あれ?今日って何かあったっけ…」 |
小鳥 | 「美希ちゃん、今日は涼くんとドラマの練習したいって言ってたんじゃなかったの?」 |
美希 | 「あー、そうなの。それじゃあ行くの」 |
涼 | 「え…どこに?」 |
美希 | 「んーと…小鳥、ボイスレッスンの部屋って空いてる?」 |
小鳥 | 「さっき千早ちゃんが鍵返しに来たからもう空いてるわよ」 |
美希 | 「じゃあそこに行こっ、涼ちゃん」 |
涼 | 「え、あ、うん」 |
その美希の勢いに、涼はただただ押されるだけだった… |
……… |
僕は春日匡、高校1年生。今日はわけあって出かけている。それも何も… |
匡(涼) | 「そ、そんなにくっつかれると…僕、恥ずかしいって…」 |
瑞樹(美希) | 「もう、ダーリンったらウブさんなんだからっ」 |
ツンッ |
額を突く瑞樹。 |
匡 | 「しょ、しょうがないだろ。こんなに近付かれるとそのさ…」 |
瑞樹 | 「何のこと?」 |
匡 | 「わ、分かってやってるんだろ?瑞樹」 |
この横にいるのが斜向かいに住んでる幼馴染の日野瑞樹。気の弱い僕は2つ年下の瑞樹に何かと付き合わされるわけで…。 |
瑞樹 | 「だって、からかいがいがあるんだもん」 |
匡 | 「恥ずかしいったらありゃしないのに…」 |
瑞樹 | 「ねえ、匡くん。今日はどこ行く?」 |
匡 | 「どこって…それは瑞樹が決めてたんだろ?」 |
瑞樹 | 「えーっ?あーっ!そうだったね」 |
ま、満更でもないんだけどさ。 |
匡 | 「それでどこに行くの?でもあんまり予算はないんだぞ」 |
瑞樹 | 「んー…ヒ・ミ・ツっ」 |
匡 | 「それじゃあ分からないだ…っ!」 |
瑞樹 | 「匡くんっ、大丈夫っ!?」 |
匡 | 「……っ…はあっ…はあっ…」 |
僕と瑞樹には一つ、通じ合う大事な秘密があるんだ…。 |
瑞樹 | 「匡くんっ…こっち!こっちに来てっ!」 |
匡 | 「………はあっ…くっ!…はあっ…」 |
僕は息も絶え絶えに路地裏へと入っていった。 |
瑞樹 | 「匡くんっ…」 |
チュウッ |
匡 | 「はあっ…はあっ…ありがとう…瑞樹…」 |
これが僕と瑞樹の秘密。突発的な発作、治すにはこいつの口付けしか無いんだ。でも… |
瑞樹 | 「私だってそうなっちゃうもん、仕方ないよ」 |
匡 | 「そうだね…」 |
そう、僕だけじゃなくて瑞樹も。お互いの何かがシンクロしてるって、誰か偉い先生に言われたんだよ。 |
瑞樹 | 「もう…大丈夫?」 |
匡 | 「うん、よし行こっか」 |
瑞樹 | 「うんっ」 |
……… |
一通り台詞合わせを終えて… |
涼 | 「ふう…本当に本番でもこんなにくっ付くん…だよね?」 |
美希 | 「そうだよ。どしたの?涼ちゃん」 |
涼 | 「いや、やっぱり恥ずかしいっていうか…」 |
美希 | 「涼ちゃん、ミキのここばっか気にしてるんだもん」 |
涼 | 「そ、そりゃあ気になるよ。そこまで引っ付いて来られたらさあ」 |
美希 | 「そんなのドラマだから関係ないって思わなくっちゃでしょ?」 |
涼 | 「まあそうなんだけどね」 |
美希 | 「でも雪歩や真クン、春香にはあんなことまでしてたよね」 |
涼 | 「あれだって結構恥ずかしかったんだよ」 |
美希 | 「その割に喜んでたって後で聞いたよ」 |
涼 | 「うっ…」 |
美希 | 「涼ちゃんもやっぱり男の人なんだね」 |
涼 | 「それはそうだよ…前は女の子としてアイドルさせられてたけど」 |
美希 | 「女の子に混じってやるってどうだったの?」 |
涼 | 「最初は大変だったなあ…仲間内にも隠してたっていうのもあるけど、色々気を付けてたよ」 |
美希 | 「ふーん、例えば?」 |
涼 | 「その…男って我慢できない時ってあるからさ」 |
美希 | 「そっか、ミキがハニーをからかってる時も同じかな」 |
涼 | 「星井さんってやっぱりそういう人だったんだね…」 |
美希 | 「あはっ、だって楽しいんだもん。でも、涼ちゃんは凄いよ」 |
涼 | 「凄い?」 |
美希 | 「だって、それでもやり通して再デビューしたんだよね」 |
涼 | 「約束だったから、必死で辛いことも乗り越えたよ」 |
美希 | 「ミキはまだそこまでは達してないかなって…自分のためにってまだ出来てないかなって…」 |
涼 | 「星井さん…」 |
美希 | 「だからこのドラマの話が来た時にね、このドラマで自分の殻をまた破ってみようかなって思ってたんだよ」 |
涼 | 「そうだったんだ…星井さんがそこまで真剣なら…僕も全力でやるよ」 |
美希 | 「うん…絶対に成功させて、新しいミキを見て欲しいな」 |
涼 | 「じゃあもう一回だけ練習やる?」 |
涼のその言葉に、美希は無言で一つ頷いた… |