Hidden Effort(影の努力)

ある休日のこと…
春香「あれ?あれ?」
一人の頭にリボンを二つ付けた少女が何やらキョロキョロしていた。
春香「確かこの辺だって…えっと住所は…」
何やら手元のメモを確認し始めたその少女、そこに…
「ん?…ってそこにいるのは…」
もう一人、ポニーテールの少女が…散歩の途中のようだ。
春香「え?私のこと?」
「やっぱり765プロの春香か」
春香「あ、961プロの響ちゃんだったんだ」
「何だ?こんなとこで何か探してたみたいだけど」
春香「う、うん…この店なんだけど分かる?」
「んー?えっと…ああ、あの店だな」
春香「響ちゃん、知ってるんだ」
「知ってるも何も、自分も今日行くところさ」
春香「そうなんだぁ、じゃあ響ちゃんも今日の見に行くんだ」
「…まあな、ちょっとだけだぞ」
春香「それで…今は散歩中?」
「うん。まあ散歩とトレーニングを兼ねてだけどな」
ワンワンっ
春香「そっか、それでこの店ってどこらへんになるの?」
「ああ、んーまあ、ちょっと奥の方にあるからなあ…仕方ない、案内するさ」
春香「いいの?響ちゃん、散歩中だよね?」
「でももう帰りの途中だからな。ここで20分くらい待っててくれれば、いぬ美置いて案内するぞ」
春香「んー…うん、じゃあちょっと待ってるね」
 
20分後…
「春香ー、待たせたなー」
春香「響ちゃんお帰り…ってどうしたの?その荷物」
響は何やら両手に荷物を抱えていた。
「何って…まあいいだろ?そこに持ってかなきゃいけないのがあったんだよ」
春香「そ、そうなんだ…少し持とう?」
「う…敵に借りは作りたくないけど…ま、そう言ってくれるならこれお願いするぞ」
春香「うん…っしょっと!」
………
20分くらい歩いた所にそのライブハウスはあった。
「ここだぞ。ここであってるよな?」
春香「響ちゃんありがとう、確かに名前も…うん、間違いないかな」
「そんじゃ、荷物ありがとな。自分は先に入るから、またな春香」
春香「え?あ、うん…」
響は荷物を持って、足早にそのライブハウスへと入って行った。
春香「でもプロデューサーさんも勉強してこいって…やっぱり私のパフォーマンスまだまだなんだ…」
どうやらこの前の春香のミニライブでのパフォーマンスが、プロデューサーの目には偉くお気に召さなかったようだ。
春香「まだ開場まで時間があるから…ちょっと軽くお腹に入れてから戻って来よっと」
春香は一旦そのライブハウスから離れた。
 
40分ほどして春香が戻ってくると…
春香「うわぁ…結構人多くなってきてる…」
春香の目にはライブハウスの入り口前の2・30人程の行列があった。
春香「…ってことはそろそろ並んでおかないとかな…」
春香もその行列へと並んだ。
春香「えっと今日の出演バンドは…って見ても分かんないよね」
チケットで確認したものの、分かるはずもないアーティストが並んでいる。
春香「このバンドがプロデューサーさんのお気に入りって言ったけど…参考になればいいなあ」
………
チケットを出して、ワンドリンクの料金を払って中へと入った春香。
春香「この雰囲気、何だか久しぶりだあ」
そのドリンクを飲みながら開演を待つ。
春香「そういえば、響ちゃんはどうしたんだろう?」
周りをキョロキョロと探してみるもその姿は無い。
春香「んー…でも一人ってちょっと不安かも…」
その時、スピーカーから何やら声が聞こえた。
スタッフ『…マイクOK。スピーカーOK。えー、当ライブハウス支配人の○○です。ライブを始める前にお客様に注意事項を申し上げます』
どうやら今日のライブの入場が終わったようだ。
スタッフ『最後にお客様のお呼び出しを申し上げます。会場にお越しの天海春香さま、お連れ様がお呼びですのでステージの方にお越しください』
春香「…えっ!?」
思わぬところから自分の名前を告げられ、戸惑いを隠しきれない春香。
春香「…もしかして、響ちゃんかな?他に知ってる人なんていないし…」
少し困惑しながらも、ステージの方へと向かって行った。
春香「あ、あの…天海春香です」
スタッフ『君かい、ちょっと出演者から呼んでくれと言われてね。ステージ裏の楽屋まで付いてきてもらえるかな?』
春香「は、はいっ」
 
楽屋に着くとそこにいたのは…
春香「やっぱり出演者って…響ちゃんだったんだ」
「そうだぞ。何だ、知らなかったのか?」
春香「だって、響ちゃんの名前どこにも無かったから」
「…ったく、分からないのか?ここに『my ringing』ってあるじゃないか」
春香「え?えっと…私の響き…あーっ、そうだったんだ!」
「全く…春香はカンが悪いったらありゃしないな」
春香「むー…」
「ほら、その衣装に早く着替えてさ」
春香「えっ?」
そこには1着の衣装がハンガーラックに掛けてあった。どうやら961プロの事務所から持ってきたようだ。
「今日だけは特別だぞ。春香の曲も何曲かセットリストに入れたからな」
春香「響ちゃん…」
「歌わないとは言わせないぞ」
春香「で…でも、いいの?」
「ほら、ステージ順3番目だから早く着替えろ。出番に間に合わないぞ」
春香「う、うん…これって961プロの響ちゃんの?」
「そうだぞ。確か…自分と春香ってほとんど変わらないよな?」
春香「あ、ホントだ。ちゃんと着られるしピッタリだ…」
それはまるで春香に誂えられたかのようにピッタリだった。そこで一言釘を刺すように話し始めた響。
「…あのな、春香。自分は完璧とか言ってるけど、こういうところで技術を磨いたりしてるからなんだ。765プロじゃこんなことしないだろ?」
春香「プロデューサーさん、こういうお仕事はほとんど持ってこないから…」
「ファンであるお客が近い分、反応が如実に出るからな。ちょっとのミスが命取りさ」
春香「こういうのたくさんやってるんだ…だから響ちゃんの実力って凄いんだね」
「最初はキツかったんだぞ。ダメな反応が全て自分に跳ね返ってくるからな。でも自分の実力が見られる良い機会なんだ」
春香「そっかあ…私はそういうのって経験が足りないのかも」
「それにこれは事務所としては宣伝もしてない、口コミだけでの勝負の世界さ。悪い評判も良い評判も、口コミは速いんだぞ」
春香「これじゃあ私、響ちゃんなんかに勝てるわけが無いよぉ…」
「今となってはここからのファンも少なからずいるんだ。だからこそ春香に負ける気なんてこれっぽっちも無いからな」
春香「でも…うん。いつか必ず、私は響ちゃんに追い付いてみせるから!」
「せいぜい頑張ればいいさ…春香」
コンコン
スタッフ『そろそろステージ裏にお願いしまーす』
「はいさーい、行くぞ春香!」
春香「うんっ、響ちゃん!」
今のお互いの顔、それは敵ながら互いを少しだけでも認め合う笑顔になっていた…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
3か月に1度の961SS。今回は響にご登場願いました。
いくら961プロとしてのブーストがあったとしても、やっぱり影で努力はしていたと思うのですよ。
あ、なぜ衣装が誂えたように合ってたかですか?2の響と無印の春香を比べてください、それで分かると思います。
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2011・06・11SAT
飛神宮子
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