Verbal Dynamis(言葉のチカラ)

ここはライブ会場の舞台袖…
やよい「………」
二つ次の出番を待つ律子とやよい。しかしやよいは言葉が少ない。
律子「やよい、どうしたのよ」
やよい「うう…少し緊張しちゃってるみたいですー」
律子「そんな、いつもやってることじゃない」
やよい「でも今回のツアーって全体的にファンが多くって凄い感じがします」
律子「事務所全員での全国ツアーだものね。これだけの人数は全員でライブをやった冬以来かしら」
やよい「それに今回はツアーだから…初めて私たちを見るって人もきっといますよね」
律子「私たちだけのファンってわけでもないから…確かにやよいの言うとおりよ」
やよい「だから、んーと…えっと…」
律子「ああ、何となく分かったわ。失敗は見せたくないってこと?」
やよい「はいっ。だから緊張しちゃってるんです」
律子「そんな緊張しないで、ここはやよいらしくやればいいのよ」
やよい「えっ…」
律子「私たち『秋のま〜ち』の今まで積み重ねた物があるじゃない。それを全て出せばいいの」
やよい「律子さん…」
律子「失敗を恐れていちゃダメ。そう思うと余計に失敗しちゃうって気がするわ」
やよい「…はいっ!分かりました!」
律子「でも、ここのファンも熱狂ぶりが半端ない感じよね」
やよい「1曲目の全員での曲の時からみんな大盛り上がりでした」
律子「このライブが折り返しになるけど、やよいは大丈夫?」
やよい「はいっ!倒れるのはこの次のライブが終わってからにしますっ!」
律子「私たちは最後でお休みだものね。次はリーダーだから何倍も頑張るわよ」
やよい「そうですね、今回ももちろん全力投球で行きましょー」
律子「やよいは次のライブの流れはもうプロデューサーから聞いた?」
やよい「えっと…進行はざーっとですけどプロデューサーに教えてもらいました」
律子「もう1週間前だから、明日一緒に頭に叩き込みましょ」
やよい「律子さん、先生お願いしまーす」
律子「ちょっと待って…ステージから何か聴こえるわ…」
律子とやよいが舞台袖にさらに近づくと…
律子「全く…あとで亜美達にはお灸を据えておかないと…」
やよい「ううー…来週の私たちに無茶ぶりされてますー」
ステージ上でMCをしているのが亜美と真美、そして雪月花の二人である雪歩と貴音。
律子「これはちょっと予定外だけど…私たち次の曲だから行くわよ、やよい」
やよい「律子さん、いいんですか!?」
律子「いいの。一発ガツンと言わないと…これ以上ヒートアップされたらさすがに困るわよ」
やよい「分かりましたっ」
律子「でもその前にプロデューサーは…あ、いた。プロデューサー!」
「え?あ、律子…どうした?」
同じく舞台袖に居たプロデューサーはその声にビクッとした。
律子「どうしたもこうしたも無いですよ。あのMCどうにかさせてください!」
「そんな、どうやって止めろって…」
律子「じゃあ…私たち次の曲なんで止めに行っていいですね?」
「え?」
律子「いいですね?」
怒り半分の目をプロデューサーに向けた律子。やよいも既に笑顔が消えて同じような目をしていた。
「…ちょっと待ってくれ…」
無線を取りだしたプロデューサー。
「照明、右舞台袖ピンスポ追加できますか?」
スタッフ『………』
「了解、10秒後にお願いします。音響、5番マイク・6番マイクすぐにON願います」
スタッフ『………』
「はい、お願いします。よし、俺が行っても仕方ないから10秒後にな」
律子「フフフ、ありがとうございます」
やよい「ありがとうございますっ!プロデューサー」
律子「行くわよっ!やよいっ!」
やよい「はいっ!律子さん」
律子「…っと、その前に…いつものね」
やよい「お願いしますっ。せーの…」
律子・やよい『ハイターッチ!』
パシンっ
二人の合わさった右手から良い音が発せられた。
律子・やよい『イエイっ!』
律子「よしっ、乗り込むわよ!」
やよい「行きましょー!」
………
亜美「次のライブって律っちゃんとやよいっちがリーダーだよね」
真美「そだねー、うちのナンバー1アイドルの二人だよ!」
貴音「あの方々には追い付こうにも難しいです…」
雪歩「やよいちゃんも律子さんも、もう雲の上の存在って感じがするなあ…」
亜美「だから次の○○でのライブパフォーマンス、凄いものが見られるよねきっと」
真美「うんうん。だってランクSのスーパーアイドルだもん」
雪歩「次のライブって私たちがお休みですよね、貴音さん」
貴音「そうですね…ぜひそのパフォーマンスを見たいところでしたが…」
亜美「プライベートで見に来ればいいじゃん。社長も二人の分くらい出してくれるっしょ」
真美「そーだよ、ゆきぴょんもお姫ちんも来なよー」
雪歩「でも私たちはその日がテレビ番組の収録日だから…うう、本当に残念です」
貴音「そうですわね…大事な収録ですから…」
亜美「でもさー、来週の○○のお客さんは運が良いよねー」
貴音「そうですわね…歌だけではなく踊りも一流のお二人ですから…」
真美「真美達も来週に向けて扱かれるんだろうね」
雪歩「大変だね、亜美ちゃんと真美ちゃんも頑張ってね」
そこに…
パッ
舞台袖右側にピンスポットライトが注がれた。
律子「あんたたちー!」
亜美「わわっ!律っちゃんにやよいっち!で、出番はまだっしょ!?」
4人は驚きを隠せない様子だ。
やよい「亜美ちゃん達がそんなこと言ってたから出てきちゃったんです!」
真美「真美達事実を言っただけじゃん」
律子「もう、散々煽るだけ煽ってどうするのよ!」
雪歩「うう…すみませんですぅ…穴掘って埋まって…」
貴音「雪歩、舞台上でスコップを使ってはなりませぬ!」
会場からはこれも仕込みのコントかと思われたのか爆笑が起こっていた。
律子「はいはーい、次の曲は私とやよいの歌になります。でもその前に、やよい…」
やよい「はい律子さん…せーの!」
律子・やよい『もういい加減にしなさーい(してくださーい)!!!』
一緒に叫ぶ律子とやよい。そのセリフに4人は一目散に逆の舞台袖へと行ってしまった。
律子「お騒がせしてすみません。気を取り直して、次の曲でーす」
やよい「聞いてください、My Best Friendですっ!」
その後の亜美と真美には律子とやよいによる、次のライブに向けた地獄のレッスンが待っていたというのは別の話である…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
ライブっぽいSSに何とか仕上がりました。実際このコンビで名古屋で歌った歌はありませんでしたが…
それにしても20日ほど経ちましたが、名古屋は良いところでしたよ。
もう少し時間があったらゆっくりしたかったなあ…と。
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2011・07・28THU
飛神宮子
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