Dream a Deux(二人だけの夢)

ここはとあるドラマの撮影現場…
律子「分かったわ!そう犯人は…」
場面が切り替わり容疑者が集まるリビング…
律子「犯人、分かりました。この中に一人だけ、この被害者の死因に使う物を入手出来た人がいます…」
カメラに写りこむ容疑者の四人…
律子「小柳さん、あなたね」
役者「なぜこの私なのかね?高校生探偵さん」
律子「被害者の死因、水死でカムフラージュしたのは見事ね。でも本当の死因は窒息だってさっき鑑識の方から聞いたわ」
役者「それでどうした?」
律子「首を絞めた時の紐、さっき近くの藪で見つかったわ」
役者「私がその紐の持ち主だって…証拠でもあるのかい?」
律子「では指紋を…いいえ、この紐はただの紐じゃない…凧揚げ…それも凧合戦用の綱よ」
役者「ほう…それが何か?それが証拠なら全員がありえるだろう?」
律子「ところであなたの苗字、新潟の方の特有の読み方ですよね?」
役者「…くっ…そ、それは…」
律子「そちらの凧関係の方に知り合いがいるという裏は取りました。これでも違いますか?…おやなぎさん」
役者「俺だって…こんな場所で…こんな場所で親の仇に逢わなければ…」
律子「後の話は警察の方に話してください…」
………
監督「カーット!おつかれさまでしたー!」
ようやく撮影が全て終わったようだ。
律子「ふう…終わったわ…」
監督「おつかれさま秋月さん、今回の仕事を受けてもらえると聞いた時には嬉しかったよ」
律子「監督さんありがとうございました。いえ、たまには私も昔を思い出して、こういうのも良いかなって思いましたので」
監督「でも今の本職はプロデューサーなんだよねぇ」
律子「はい。まだまだ発展途上のユニットではありますけど、楽しくやらせていただいています」
監督「今度はそっちの子も使ってみたいね」
律子「いつでもお願いします、3人ともそれまでに私がバッチリと鍛えあげておきますから」
監督「お、頼もしいねぇ…ん?何だ?」
何やら現場の向こうの方で大きな箱を持っている人がスタッフと話していた。
律子「え?あれ…?どうして…」
監督「ん?秋月さんの知り合いかい?」
律子「プロデューサー…」
監督「え?プロデューサーって…秋月さんのプロデューサーか…」
律子は監督に一礼する間もなくその方向へと走り出した。
 
律子「プロデューサー!ど、どうしてここに…」
「貴音とあずささんのスケジュールを何とか前倒して終わらせて、今日の昼一で車をこっちに走らせたんだ」
律子「でも…」
「誕生日に一人になんかさせられないからな。貴音とあずささんもお願いを聞いてくれた」
律子「そんな…私のために…」
「律子は…俺にとってはアイドルなんだからな。そう自分を卑下するな」
律子「プロデューサー…」
ぎゅうっ
プロデューサーに力を籠めて抱き付いた律子。
律子「バカっ…淋しかったんだから…」
「律子…」
律子「でも…ありがと…来てくれて」
「いいってことさ。ほら、みんなでこれ食べよう」
律子「えっ…わ、私のために!?」
「頼んではおいたんだ。ダメだったらこっちのスタッフに、取りに行ってもらうつもりだったからな」
律子「もう…これは経費で落ちませんからね…」
「いいんだよ。じゃあスタッフにお願いしたから、向こうで食べような」
律子「ええ…」
………
スタッフやキャストにお祝いしてもらって、ここは宿への道の車の中…
「それにしても良い現場だったんだな」
律子「はい。スタッフの方々にもキャストの皆さんにも良くしてもらえました」
「またこういう仕事したい?」
律子「んー…でも今は竜宮小町の3人を育てるのが本筋だし…」
「ま、それは任せるよ。スケジュール管理は律子自身に任せてるしな」
律子「そうね。でも…やよいには悪いことしちゃったわね…」
律子がプロデュース業兼任になることなり、やよいと二人のユニット活動が半分以下に減ってしまったのだ。
「まあやよいもそこのところは何とか納得してもらったけどさ」
律子「プロデューサー…やよいのことちゃんと見ておいてね」
「そうだな。やよいが兼ねてるこっちのユニットも何とか軌道に乗りそうだし」
律子「良かった…いずれこっちが安定してきたら、やよいのことこっちで受け持ちたいの」
「ああ。やっぱり俺はやよいと律子が、自分が育てた中で一番だと思ってるからな」
律子「私のこと、それまでやよいの心の中に入っていてくれればいいんだけど…」
「大丈夫さ。律子がやよいのこと思い続ければ、やよいにだってその気持ちは届くはずだ」
律子「うん…」
「よし…って明日の打ち合わせは大丈夫か?」
律子「ええ…だからプロデューサー、ううん、ダーリン…今日は癒して欲しいの」
「それはいいけど…その格好でか?」
律子「プロデューサー…着替えるにきまってるじゃない!」
律子は衣装のまま着替えを荷物にしたので、今は役柄だった制服のままだ。
「それって貰っていいって言われたのか?」
律子「私に誂えて作ったものだからと、戴いていいって言われました」
「しかし律子の制服姿ってのも懐かしいもんだな」
律子「そうね…もう卒業してから3カ月近いもの。それからはスーツが多かったし」
「久しぶりに見ると新鮮だなって、でもまだその制服は現役並みに似合ってる」
律子「…何か照れるわ…でも、ありがと」
「あ、そうだ。明日は打ち合わせだけだけど…終わったらどうする?」
律子「プロデューサーはどうなの?」
「俺は土曜までは空けた。律子とこうして二人きりって…無かったからさ」
律子「それなら…明日は打ち合わせまでは軽く近場で観光して、終わってから本格的に観光しましょう」
「そうだな…」
律子「今日はそのために今までの撮影分も含めて…ダーリンに…癒してもらうわ」
「ん?何か意味深な言い方だな」
律子「ダーリン…やよいと伊織、あと亜美にも話は聞いたわ」
どことなく真剣な目をプロデューサーに向けた律子。
「え?」
律子「こんな遠くの仕事を誕生日近辺に入れていた理由を…ね」
「もしかしてさ、もうみんなに話が回ってるのか?」
律子「たぶんみんな知ってるわ。だからあずささんも貴音もOKしたんじゃないかしら」
「いや、律子が望んでないならいいんだぞ」
律子「そんなこと…」
チュッ
律子はプロデューサーの頬へとそっとキスをした。
律子「あるわけないじゃない。大好きな…大切なプロデューサー…なんだから…」
「分かった」
律子「だって今回の撮影が乗り切れたのは…これを待ち望んでいたから…」
「そ、そうか…」
律子「ね、ねえダーリン…」
「何だ?」
律子「ダーリンが望むなら、その…この格好で…どう?」
「えっ…いいのか?」
律子「今日までしか使わない物…私の演技じゃないこの格好での姿を、大切な人に見せたいから…」
「それなら…うん。律子の全てを委ねてくれ、全てを癒してみせるから…な」
律子「ダーリンにしかできないこと…して…」
信号で停まった車、そして…
チュゥゥッ チュッチュッチュゥゥゥッ
青に変わるまで、二人の向かい合った顔からは水音を含んだ深き口付けの音が紡ぎだされていた。
そして宿に着いても夜から朝までその音、いやそれ以上の音が止むことは無かったという…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
誕生日SSシリーズ後半戦のトップバッター、律子です。
プロデューサーの都合が急に難しくなって…でもだからそこ一層の嬉しさ、一人で何でも抱え込んじゃう子ですからね。
Happy Birthday!! Ritsuko AKIZUKI.
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2011・06・21TUE
飛神宮子
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