朝夕は涼しくなってきたものの、まだまだ昼間は残暑厳しい頃のこと… |
やよい | 「おはようございまーすっ!」 |
事務所に飛び込んできた元気な少女が一人。 |
小鳥 | 「おはようやよいちゃん。あらあら、そんなに朝から汗かいちゃって」 |
やよい | 「えへへ、走ってきちゃいました。小鳥さん、何かお掃除とか無いですか?」 |
小鳥 | 「そうね、まだみんなも来てないから…」 |
やよい | 「え?もしかしてプロデューサーもまだですか?」 |
小鳥 | 「そうよ。今日は朝一の仕事を現地でしてから来るって言ってたわね」 |
やよい | 「うー…それなら来るのはもっと後でも良かったのかなあ」 |
小鳥 | 「どうしたの?」 |
やよい | 「今日は衣装合わせだって言われて楽しみに来たんです」 |
小鳥 | 「なるほどね、でもそんなに汗かいちゃ着れないわよ」 |
やよい | 「あうぅ…どうしたらいいんでしょうか?」 |
小鳥 | 「そうね…あ、確か…」 |
時はまだ日曜の朝の8時台の半ば… |
……… |
やよい | 「朝からやってるところもあるんですね、初めて知りました」 |
小鳥 | 「ここは日曜日だけ朝風呂をやってるの」 |
ここは事務所の隣の区にある銭湯。 |
やよい | 「でも…本当にいいんですか?私、ちゃんと払いたいです」 |
小鳥 | 「いいの、やよいちゃん。折角のこういう機会なんだから」 |
やよい | 「うう…何だか本当に悪いです…」 |
小鳥 | 「やよいちゃん、こういう時はお姉さんに従っておくものよ」 |
やよい | 「分かりました、ありがとうございます」 |
小鳥 | 「よしよしっと」 |
小鳥がそんなやよいの方を見てみると、少し落ち込んでいる表情が見えた。 |
小鳥 | 「あら?どうしたの?」 |
やよい | 「小鳥さん、凄くスタイルがいいなあって…」 |
小鳥 | 「えっ…そ、そうかしら?」 |
やよい | 「私なんか、中学生なのに亜美達にも負けちゃってるから…」 |
小鳥 | 「そうね…でも、やよいちゃんならまだまだ成長するわよ」 |
やよい | 「そうですか?でも…」 |
小鳥 | 「中学生や高校生はまだまだ成長期なの、だから気にしなくていいの」 |
やよい | 「私でも本当に小鳥さんみたいになれますか?」 |
小鳥 | 「どのくらい成長するかは人それぞれだけど…きっと大丈夫、自信を持って」 |
やよい | 「はいっ」 |
小鳥 | 「あ、もしかして気にしてるのって…律子さんとのユニットだから?」 |
やよい | 「それもちょっとあるかも…律子さんに比べたら私、見劣りしちゃいますから」 |
小鳥 | 「やよいちゃん」 |
やよい | 「な、何ですか?小鳥さん」 |
小鳥 | 「やよいちゃんは自分が嫌い?」 |
やよい | 「そんなことないです。今の自分は大好きです、スタイル以外のことはだけど…」 |
小鳥 | 「それならいいの。自分が大好きなら、その自分を磨いていけばいいんじゃないかしら」 |
やよい | 「自分を…ゴシゴシ洗うんですか?」 |
小鳥 | 「そうじゃなくて、自分のことを高めていくってこと」 |
やよい | 「うーん、私に出来るかなあ?」 |
小鳥 | 「大丈夫、今のやよいちゃんなら出来るわ」 |
やよい | 「何だか小鳥さんにそう言われて、少し自信が付いてきました」 |
小鳥 | 「よしよし。そうすれば、自ずと結果は付いてくるわよ」 |
やよい | 「小鳥さんっ!」 |
じゃぷっ ぎゅうっ |
やよいは浴槽の中で小鳥へと抱きついた。 |
小鳥 | 「やよいちゃんったら…」 |
やよい | 「小鳥さん、小鳥さんのこと大好きです」 |
小鳥 | 「ありがと、やよいちゃん。ようし、そろそろ上がって身体洗わない?」 |
やよい | 「そうですね、でも気持ち良かったです」 |
小鳥 | 「そうね。でもこういう朝風呂も、たまにだからいいのかもしれないわね」 |
|
やよい | 「小鳥さん、背中流しますね」 |
小鳥 | 「いいの?やよいちゃん」 |
やよい | 「はい、なかなかこういう機会もないですから」 |
小鳥 | 「それならお願いするわね」 |
ごしゅっごしゅっごしゅっ |
やよい | 「小鳥さん、強さは大丈夫ですか?」 |
小鳥 | 「ちょうどいいわ。あ、そこそこ…そこもう少しお願いできる?」 |
やよい | 「ここですね、分かりましたー」 |
ごしゅごしゅごしゅっ |
小鳥 | 「ありがとうやよいちゃん、それくらいでいいわ。それじゃあやよいちゃんも洗ってあげるわね」 |
やよい | 「いいですよ、自分でやりますから」 |
小鳥 | 「いいのいいの、お姉さんがやってあげるって言うんだからいいの」 |
やよい | 「それなら…お願いします」 |
ごしごしごしごし |
やよい | 「やっぱりやってもらうのって気持ちいいですね」 |
小鳥 | 「そうでしょ?家ではやってもらうの?」 |
やよい | 「はいー、弟たちと一緒に入るんでその時はやってもらったりします」 |
小鳥 | 「やっぱり家族が多いと、そういうのが出来ていいわね」 |
やよい | 「あ、もう大丈夫です。ありがとうございました」 |
小鳥 | 「どういたしまして、やよいちゃん」 |
やよい | 「でもこうやって小鳥さんにしてもらうのって、家族にしてもらうのとは違う気がします」 |
小鳥 | 「うーん、私にはよく分からないけど…」 |
やよい | 「私、兄弟で一番上だから…お姉ちゃんとかお兄ちゃんに憧れてた…のかも」 |
小鳥 | 「…なるほど、そういうことね」 |
やよい | 「だから、小鳥さんがお姉ちゃんみたいに思えて…違ったのかも」 |
小鳥 | 「フフフ、やよいちゃんみたいな妹なら私も欲しかったわ」 |
やよい | 「あの、お姉ちゃん…って今日だけ呼んじゃってもいいですか?」 |
小鳥 | 「…そうね、私みたいなお姉ちゃんで良かったらね」 |
やよい | 「じゃあ今日はそう呼んじゃいますね」 |
小鳥 | 「それなら私はやよいって呼んじゃおうかしら」 |
やよい | 「あ、それいいかもしれないです」 |
小鳥 | 「そうね、それじゃあ身体流したら一回温まって出るわよ、やよい」 |
やよい | 「はーい、お姉ちゃん」 |
|
脱衣所へと戻って服を着た2人。 |
小鳥 | 「やよい、どっちか飲まない?」 |
小鳥はやよいへとコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を差し出した。 |
やよい | 「お姉ちゃん、私の分までいいの?」 |
小鳥 | 「いいのよ、今日は全部お姉ちゃんのオゴリだから」 |
やよい | 「ありがとう、お姉ちゃん。じゃあ私はフルーツ牛乳にするっ」 |
シュポンっ シュパンっ |
二人は腰に手を当てて… |
やよい | 「ごくっ…ごくっ…ごくっ…はあっ!美味しいですっ!」 |
小鳥 | 「こくっ…こくっ…こくっ…ぷはっ!こういうところで飲むと格別ね」 |
やよい | 「お姉ちゃん、ごちそうさまでした」 |
小鳥 | 「どういたしまして。それじゃあそろそろ戻るわよ、時間も良い頃でしょ?」 |
やよい | 「あ、本当だ。帰ったら来てるかな?」 |
小鳥 | 「確か来てる頃だと思うわ。律子さんも待ってるだろうから、早く行きましょやよい」 |
やよい | 「はいっ、お姉ちゃん!」 |
事務所に戻ってからプロデューサーや律子に不思議がられたのはまた別の話である… |