とある日の事務所での一幕… |
伊織 | 「何よ!こんな仕事持ってくるなんて!」 |
P | 「伊織に一番合うと思って、持ってきたんだよ!」 |
伊織 | 「そんなこと言っても、こっちはイヤよ!」 |
P | 「分かったよ…嫌ならそれでも別に良いけどさ」 |
伊織 | 「えっ…?」 |
P | 「俺は伊織にしかできないと思って、この仕事を取ってきたんだけど…」 |
伊織 | 「何よ…」 |
P | 「セリフを見たら、伊織が普段俺に言ってるような言葉ばかりだったし…」 |
伊織 | 「だからって…」 |
P | 「いいや、もう。千早なら何とかこなしてくれそうな気がするし…」 |
伊織 | 「ホント、アンタってバカよね…世話が焼けるわ」 |
P | 「どういうことだ?」 |
伊織 | 「私はまだやらないなんて言ってないじゃない」 |
P | 「だって、やりたくない仕事を無理にやらせることなんて出来ないさ」 |
伊織 | 「やる…」 |
P | 「えっ?」 |
伊織 | 「や、やるわよもう!アンタのそんな顔、見たくないもの」 |
P | 「本当か?伊織」 |
伊織 | 「うるさいわね、気が変わったの!しつこいと嫌っちゃうわよ」 |
P | 「本当にありがとうな」 |
プロデューサーの顔にようやく笑みが戻った |
伊織 | 「やっぱりアンタの顔には笑顔が似合うわよ…」 |
P | 「ん?何か言ったか?」 |
伊織 | 「な、何でもないわ。ほら、それでこれの収録はいつなわけ?」 |
P | 「そうだな。収録日は…来週の土曜日だな」 |
伊織 | 「来週ね、分かったわ」 |
P | 「ああ、午前中に生放送やってからだから」 |
伊織 | 「ところで台本は今あるのよね?」 |
P | 「あ、ああ。これだけど」 |
と、渡された台本を読み始めた伊織。 |
伊織 | 「………にひひっ覚悟しなさいよ、プロデューサー」 |
P | 「え?何をだ?」 |
伊織 | 「何って、収録の時は収録現場に居てもらうわよ」 |
P | 「マジか…?」 |
伊織 | 「罵倒する相手が居なくちゃ気分が乗らないもの」 |
P | 「…カンベンしてくれよ…ま、それで伊織の気が済むならしょうがないな」 |
その時伊織はまだ、最後のページの一番最後のセリフを読んでいなかったようであった… |
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そして当日… |
伊織 | 「もちろんちゃんと覚悟は出来てるわよね?」 |
P | 「ああ、とりあえずな」 |
伊織 | 「そういえば、これ全部言うのよね…まったく」 |
P | 「どうしたんだ?何か問題があったのか?」 |
伊織 | 「こっちから受けるって言ったんだからもういいわよ…もう」 |
P | 「???」 |
伊織 | 「あんなセリフが入ってたなんて思ってなかっただけよ」 |
P | 「なるほど、そういうことか」 |
伊織 | 「でも、誰がこんなカルタの企画を思いついたのかしら?ほんっとに」 |
P | 「そういえば言ってなかったっけか、この前ゲストに出たラジオのスポンサーだぞ」 |
伊織 | 「へえ…私ってそういう性格に見られてるのね…」 |
P | 「…俺はそうは思ってないけどな」 |
伊織 | 「当たり前じゃない!アンタにまでそう思われてたら、私どうしたらいいのよ」 |
P | 「まあまあ落ち着いてくれ、そろそろ始めるみたいだけど準備はいいか?」 |
伊織 | 「いいわよ、もうこうなったら全力でやってやるわ」 |
……… |
紆余曲折がありつつも、収録もいよいよ最後のセリフ… |
伊織 | 「これで最後…よね?」 |
P | 「ああ。もう時間も時間だしな、一発で頼むぞ」 |
伊織 | 「分かったわ…」 |
一息吐いてそして一言… |
伊織 | 「んっ…大好きよ…もう死ぬほど好きよ、本当なんだから!」 |
もうすっかり顔が真っ赤に染まってしまっていた。 |
スタッフ | 「ハイ!OKでーす!おつかれさまでしたー」 |
と、ブースの外からスタッフの声。 |
伊織 | 「…ふう…本当に恥ずかしいじゃない!こんなの言わせるなんて」 |
P | 「…伊織…」 |
伊織 | 「な、何よ」 |
P | 「いや、すっかり溶かされたというか何と言うか…」 |
伊織 | 「まったく…しっかりしなさいよね」 |
P | 「これは間違いなく売れるな、うん」 |
伊織 | 「バッカじゃないの!こ、こんなの買う人の気が知れないわよ!」 |
P | 「何だ?伊織は買って欲しくは無いのか?」 |
伊織 | 「…買って欲しいわよ…これでも頑張ったんだから…」 |
P | 「でもどうだったんだ?この仕事は」 |
伊織 | 「まあ面白かったわね、何だか気持ち良かったわよ」 |
P | 「そうか…俺は最後の言葉にすっかりやられたな。何だか気持ちが篭ってたみたいだし」 |
伊織 | 「そ、そんなことあるわけないじゃない!」 |
すっかり顔が真っ赤になっている伊織であった。 |
伊織 | 「で、でも…」 |
P | 「何だ?」 |
伊織 | 「アンタのこと…嫌いじゃないんだから…」 |
P | 「…伊織…」 |
伊織 | 「もうこの話は終わり!ほら、帰るわよ」 |
P | 「あ、ああそうだな。ちょっと待ってくれ、あいさつしてくるから」 |
伊織 | 「分かったわ。帰り支度をしてるわよ」 |
P | 「了解。あいさつが終わったらそっち行くから」 |
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事務所への帰りの車中で… |
伊織 | 「まったく…もう金輪際ああいうのはやめなさいよね」 |
P | 「分かってるけど、好評だったら第2弾とか企画してるらしいし…」 |
伊織 | 「バッカじゃないの!何考えてるのかしら」 |
P | 「それにしてもノリノリだったな、今日の収録は」 |
伊織 | 「アンタが目の前に居ただけで、スラスラと言葉が出てきたわよ」 |
P | 「まあ俺も気分悪くは無かったけどな」 |
伊織 | 「…アンタって本当に変態プロデューサーね。あんな罵声を浴びせられて、そんなだなんて」 |
P | 「そりゃ伊織のプロデューサーも長いからな」 |
伊織 | 「でも…今日はありがと」 |
P | 「どういたしまして…でいいのかな」 |
何だかんだでその伊織の顔は、少し桃色に染まりながらもいつもの笑顔になっていたという… |