| ここはとあるオーディション会場の楽屋… |
| やよい | 「はあ…」 |
| 珍しくいつもの覇気が全く見られないやよい。 |
| P | 「ゴメンなやよい、俺の応援が足りなかったせいだ」 |
| やよい | 「そ、そんなことないですプロデューサー!自分の…せいですから」 |
| P | 「いいや、俺がこの前のレッスンを失敗させなかったらこんなことには…」 |
| やよい | 「プロデューサー…」 |
| P | 「何だ?やよい」 |
| やよい | 「ちょっとだけ…一人にさせてください…」 |
| P | 「あ、ああ分かった。どこに行くかだけ言ってくれないか?そこは避けるからさ」 |
| やよい | 「それならここ…使ってもいいですか?」 |
| P | 「構わないぞ。俺のことは携帯で呼び出してくれ。時間つぶししてるから」 |
| やよい | 「分かりました。ゴメンなさい、プロデューサー」 |
| P | 「いいんだ。じゃ、また後でな」 |
| カチャッ バタンっ |
| プロデューサーは楽屋を後にした。 |
| やよい | 「うう…せっかくプロデューサーが勧めてくれたオーディションだったのに…」 |
| やよいの落ち込みようはもう半端無いようだ。 |
| やよい | 「弟たちもあんなに応援してくれたのに…んっ…」 |
| 涙が少しずつ、やよいの頬を伝う。 |
| やよい | 「こんなお姉ちゃん…っく…ダメだよね…」 |
| 確かに今日の自分は何かが足りなかった。しかしそれが見えない… |
| やよい | 「…アクシデント…ううん、それは練習が足りないからだもん」 |
| テンションが戻ることなく限りなく下降していく。 |
| やよい | 「あそこでああ出来てたら…でももう落ちちゃったってことは変わらないよね」 |
| 楽屋のテレビには合格者の収録風景が映し出されていた。 |
| やよい | 「私も…あと少しであそこに居れたのかな…」 |
| 煌びやかな世界…テレビの中にはそれが広がっていた |
| バツンっ |
| やよいはそれが見ていられずにスイッチを落とした。 |
| やよい | 「次の…頑張らないと、プロデューサーにも愛想尽かされちゃう…」 |
| ネガティブになる時はとことんなってしまう。 |
| やよい | 「こんなダメな私なんか…きっともう見てくれないもん」 |
| 最早普段のテンションはどこへやらである。 |
| ……… |
| 一方ここは会場のある建物の外 |
| P | 「まさかあそこで指示ミスするとはなあ…」 |
| こちらもどうやら自分のミスを責めていた。 |
| P | 「本当に今回はやよいに悪いことしちゃったな…」 |
| プロデューサーもすっかり落ち込んでいる。 |
| P | 「この前のレッスンも大事なところで失敗させたんだよ…」 |
| 悔やんでも悔やみきれない。 |
| P | 「俺って肝心なところでこれだから、ダメな人間だ」 |
| 自分に全ての責任をぶつけているようだ。 |
| P | 「やよいのことだから自分のことを責めてるんだろうな」 |
| こちらもテンションがほぼ0まで落ちてきている。 |
| P | 「あと少しで合格だったんだっけ…はあ…」 |
| ため息ばかりが零れてしまう。 |
| ブルルルルル… ブルルルルル… |
| その時、プロデューサーのポケットにある携帯電話が呼び出しを告げた。 |
| P | 「ん?電話だ…やよいかな?」 |
| ……… |
| 楽屋に戻り… |
| やよい | 「プロデューサー、寒いところに行っちゃってるかも…電話してみよ」 |
| Trrrrr… Trrrrr… |
| やよい | 「もしもし、プロデューサーですか?」 |
| P | 『ああ。もういいのか?やよい』 |
| やよい | 「はい、プロデューサーは今どこですか?」 |
| P | 『俺?俺は今は外に居るけど』 |
| やよい | 「えーっ!ダメですよ、今はただでさえ寒いのに…」 |
| P | 『そんなこと言っても離れていてって言われたしさ』 |
| やよい | 「もう…プロデューサーが倒れちゃったりしたら私じゃどうにもできないです」 |
| P | 『分かってるよ、じゃあ今戻るから』 |
| やよい | 「はい」 |
| Pi♪ |
| やよい | 「うー…悪いことしちゃったかも…」 |
| ……… |
| 数分後… |
| カチャッ バタンっ |
| P | 「ただいま、やよい」 |
| やよい | 「おかえりなさい、プロデューサー」 |
| 戻ってきたプロデューサーの手には… |
| P | 「これ…飲むか?やよい」 |
| HOTのペットボトルが2本携えられていた。 |
| やよい | 「…いいんですか?」 |
| P | 「遠慮するなよ。やよいらしくないな」 |
| やよい | 「だって…」 |
| P | 「ほら、まずは飲んで」 |
| やよい | 「それじゃあいただきます…」 |
| カチャッ カチッ |
| やよいが開けたのを確認して、自分も開けるプロデューサー。 |
| やよい | 「こくっ…ごくっ…んっ…温かい…」 |
| P | 「ごくっ…んぐっ…うん…温かいな…」 |
| 言葉の後のしばらくの静寂、そして… |
| やよい・P | 「あのっ!」 「あのさ!」 |
| 同時に唇から発される声。 |
| やよい | 「プ…プロデューサーから先に言ってください」 |
| P | 「い…いや、やよいから先に言ってくれよ」 |
| やよい | 「いいんですか?」 |
| P | 「ああ」 |
| やよい | 「プロデューサー…今日は本当に色々とゴメンなさい」 |
| P | 「やよい、こっちこそ本当に今日はゴメンな」 |
| やよい | 「謝った後だけど、もう一つだけ…わがまま言っちゃって…いいですか?」 |
| P | 「え?いいけど」 |
| ガタンっ |
| やよいは立ちあがり… |
| ギュッ |
| プロデューサーに抱きついた。そして… |
| やよい | 「うわあぁぁぁーーーーーんっっっ!プロデューサぁぁぁーーーーっ!」 |
| プロデューサーのジャケットへと幾本もの水の筋が描かれていく… |
| ポンポンっ |
| そんな泣きじゃくるやよいの頭を優しく撫でるプロデューサー。 |
| P | 「泣きたい時は幾ら泣いてもいいんだぞやよい」 |
| やよい | 「でも…ぐすっ…でも…」 |
| P | 「今まではずっと受かってたからな。自分に悔しかったんだろ?俺も同じだからな」 |
| やよい | 「っく…えっ…プロデューサーも…?」 |
| P | 「我慢するばっかりじゃ良くないんだ。そう言う時は出しちゃった方がいい」 |
| やよい | 「はい…んっ…」 |
| P | 「だから今だけは泣きたいだけ泣いていいぞ」 |
| やよい | 「ありがとう…ございます…」 |
| |
| どうやら泣き疲れてしまったやよい。 |
| やよい | 「くぅ…ぐぅ…」 |
| オーディションの疲れもあり、すっかり夢の中だ。 |
| P | 「よし、そろそろ次の作戦でも練りながら帰るとするか。いつまでもここ使えるわけじゃないしな」 |
| 荷物を全て片付けたプロデューサー。 |
| P | 「じゃあ…よっと!」 |
| やよいを背中におんぶした。 |
| P | 「帰ってまずはやよいを帰してから、社長に報告だな」 |
| 心の奥に入り込んでいた物はもう消えた。だからもう何も怖い物なんか無い… |