土砂降りの雨の中、君が俺を待っていた |
律子 | 「遅いっ!」 |
その一言に今、俺の心は氷解していく… |
……… |
俺は雨の中、駅からの道を傘も差さずに走っていた。 |
P | 「くそっ!急に降るなんてどういうことだよ!」 |
そう言っても一向に止む気配などない。 |
P | 「だいたい渕岡さんの嘘吐きめ!今日降水確率10%だったじゃないか!」 |
そんな気象予報士に文句を言ったところで、どうとなるわけでもない。 |
P | 「確かこの信号の次の角を曲がればあの公園だよな」 |
目の前の信号は既に点滅を始めていた… |
……… |
律子 | 「え?雨…」 |
私はあの人との待ち合わせ場所の公園にいた。 |
律子 | 「どうしよう、でも…」 |
晴れていたし、雨なんて予報なんか無かったから傘なんて持ってない。 |
律子 | 「戻って…でもすぐ来るかもしれないし…」 |
待ち合わせの時間などとうに過ぎている。 |
律子 | 「来る…わよね」 |
その時の私は期待と不安の眼をしていたと思う… |
……… |
P | 「くっ!信号か、はあ…はあ…」 |
さすがの俺も駅から全速力で走ってきた所為で息も上がってきた。 |
ピヨッピヨッ |
P | 「律子っ!」 |
信号が変わるや否や、人をかき分けながら再び走り出す。 |
P | 「…待っててくれ、律子」 |
あと少し…もう少しで… |
……… |
律子 | 「来ない…わね」 |
雨が降り出してもう数分が経とうとしていた。 |
律子 | 「事務所に戻ろうかしら、もうあのプロデューサーったら」 |
すっかり私は濡れ鼠になってしまっていた。 |
律子 | 「最初からこうすれば良かったのよね…」 |
私は携帯電話をポケットから取り出した… |
……… |
残る操作は通話ボタンだけだった、その時… |
P | 「律子っ!」 |
振り向いたその先には… |
律子 | 「プロデューサーっ!」 |
律子の指はそこで止まった。 |
律子 | 「遅いっ!」 |
P | 「ゴメン…本当にゴメン!」 |
律子 | 「もうっ…おかげでずぶ濡れよ」 |
P | 「それなら別の場所で待っていてくれても良かったのに」 |
律子 | 「だって、だってっ…」 |
ぎゅっ |
律子は人目もはばからず、プロデューサーのことを抱きしめた。 |
律子 | 「来てくれるって…信じてたから」 |
P | 「律子…」 |
ぎゅうっ |
そんな律子をプロデューサーは抱きしめ返す。 |
律子 | 「フフフ…温かい…」 |
P | 「ここまで急いで走ってきたからな」 |
律子 | 「ううん、そうじゃないの…」 |
P | 「…そうか」 |
二人の間には最早言葉などいらなかった。 |
ポツッ…ポツッ… |
P | 「あれ?止んできたみたいだな…」 |
律子 | 「本当ね…日差しも出てきてるわ」 |
雲間から差し込む光に街が輝きだしていく。 |
律子 | 「ただの通り雨だったのかしら」 |
P | 「そうかもな。今日は雨の予報も無かったしさ」 |
律子 | 「でも、こういうのも悪くは無いわね…くちゅんっ!」 |
P | 「だ、大丈夫か?」 |
律子 | 「そんな大丈夫なわけないじゃない、あれだけ濡れてたのに」 |
P | 「そうだよな、もう戻った方がいいか…はっくしゅ!」 |
律子 | 「そうね、早めにしないと風邪を引いちゃうし」 |
二人は事務所への道を急いだ。 |
……… |
律子 | 「プロデューサー、空いたわよ」 |
シャワールームから戻った律子。 |
P | 「おう、じゃあ行ってくる」 |
プロデューサーはとりあえずの着替えを持って、入れ替わりに向かった。 |
律子 | 「まったくねえ…ん?」 |
律子が事務所の自分の机を見ると… |
律子 | 「そういえば、何か渡す約束だったのよね…」 |
何やら袋が置いてあった。 |
律子 | 「置いてあるってことは…開けていいのかしら?」 |
しばし思案して… |
律子 | 「でもちょっと待ってたいかな…せっかくだから…」 |
|
P | 「ふう…温まった温まった」 |
律子 | 「おかえりプロデューサー…って髪くらい乾かしてから来なさいよ」 |
P | 「別にそんな律子みたいに長いわけでも無いしなあ」 |
律子 | 「(濡髪のプロデューサーもいいけど…)そういえばこれは何?」 |
P | 「ああ、公園で渡すつもりだったやつだけど」 |
律子 | 「開けていい?」 |
P | 「開けてくれ、これなら律子に似合うと思うから」 |
ガサガサガサ |
律子 | 「えっ、これって………」 |
びゅんっ |
開けていた窓から一陣の風が駆け抜けていく。 |
律子 | 「こんなの私が…貰ってもいいの?」 |
P | 「そんなに自分を謙遜するなよ、律子にだから俺はあげたいんだ」 |
律子 | 「…ありがと」 |
ぎゅっ |
律子は自然と立ち上がって、プロデューサーの身体を抱きしめていた。 |
律子 | 「温まったわ…身体も…そして心も…」 |
窓の外の雲が流れてゆく滲んだ空の彼方、そこには一筋の虹が空に描かれていた… |