ここはある日の事務所… |
亜美 | 「ねえねえやよいっち」 |
やよい | 「どうしたの?亜美」 |
亜美 | 「やよいっちってさー、どんなお手入れとかしてんの?」 |
やよい | 「お手入れ?」 |
亜美 | 「ほら、肌とか顔とかー」 |
やよい | 「んー、そういうのはあんまり無いかも。撮影とかだとメーク落としてもらったらそのままだから」 |
亜美 | 「そーなんだー。じゃあ化粧道具は?」 |
やよい | 「そういうのも貰った物くらいしかないし、ほとんど使ってないかなあ」 |
亜美 | 「へー。じゃあ日焼け止めとかも?」 |
やよい | 「あ、それくらいはしてるけど…それも外で仕事とか学校で体育とかある日くらいかも」 |
亜美 | 「ってことはやよいっちって普段はお化粧とかしないの?」 |
やよい | 「特にしなくちゃいけないことも無いからしないよ」 |
亜美 | 「そうなんだー…んっふっふー」 |
不敵な笑みを浮かべた亜美。 |
やよい | 「あ、亜美?!」 |
亜美 | 「ねえねえ、例えばさー」 |
ジジジジジ |
亜美の手にはいつの間にやらポーチがあった。それを開けて何やら取り出した。 |
亜美 | 「こんなのは?」 |
その中から亜美はチークを取り出した。 |
やよい | 「え?これ何に使うの?」 |
亜美 | 「あれ?普段してもらう時に見ない?」 |
やよい | 「んー、そんなに色々付けてもらったりはしないから」 |
亜美 | 「これはねー…」 |
亜美はブラシでそれを付けて… |
さわさわさわ |
やよい | 「んっ!…くすぐったいよぉ…」 |
やよいの頬へとそっと載せた。 |
亜美 | 「チークって言って、ほっぺたをちょっと違う感じにする奴だよん。ほら、鏡見て」 |
やよい | 「うん…」 |
亜美に渡された鏡を見入るやよい。 |
亜美 | 「ほらほら、左と今やった右とちょっと違うっしょ?」 |
やよい | 「ほんとだあ。ちょっと右の方が立体的に見えるね」 |
亜美 | 「他にも口紅とか、アイシャドーとか、マスカラとか一杯あるんだよ」 |
やよい | 「んー、でもそんなお金の余裕は…無いかも…」 |
亜美 | 「ねえやよいっち、口紅くらいは持ってるっしょ?」 |
やよい | 「え?」 |
亜美 | 「口紅…口紅ももしかして無いの?」 |
やよい | 「持って…あーっ!」 |
思い出したと同時に顔を少し紅くしたやよい。 |
亜美 | 「ん?どしたの?」 |
やよい | 「ううん、何でもないよ」 |
亜美 | 「そんなこと言って、顔紅いよー」 |
やよい | 「こ、これはさっき亜美が塗ったチークだよ」 |
亜美 | 「じゃあどうして塗ってない方のほっぺたも紅くなってるの?」 |
ニヤニヤ |
妖しげな笑みを浮かべる亜美。 |
亜美 | 「ほうら、白状せーい。やよいっち、その口紅は誰から貰ったんだーい?」 |
やよい | 「プ…プロデューサーから誕生日に貰った…」 |
亜美 | 「え?でもどうしてそれだけで顔が紅くなったのかなー?」 |
やよい | 「だって…うー…秘密ーっ!」 |
亜美 | 「やよいっちがそこまで頑なになるってことは…ははーん、なーんとなく分かっちゃった」 |
やよい | 「プロデューサー…温かかったなーって」 |
亜美 | 「むむっ、これは予想以上の展開かもしれないなー」 |
やよい | 「もう亜美、これ以上聞かないでっ」 |
亜美 | 「んー…ま、いっか」 |
やよい | 「でもでも、そういえばどうして亜美が私にこんなの聞いてきたの?」 |
亜美 | 「だって、みんな言うんだよー。やよいっちの肌ってスベスベで綺麗で触ると気持ちいいって」 |
やよい | 「そ、そうなんだ」 |
亜美 | 「確かにやよいっちの顔って…」 |
ぷにぷに ぷにぷに |
やよいの頬を指で押す亜美。 |
亜美 | 「気持ちいいんだよねー」 |
やよい | 「亜美だってそうじゃないの?」 |
亜美 | 「違うよー、ほらほら触って触って」 |
やよい | 「うん…」 |
さわさわ さわさわ |
亜美の頬を優しく撫でるやよい。 |
やよい | 「あー、確かに何だか違うかもー」 |
亜美 | 「そうっしょ?だから何か普段からしてるのかなって」 |
やよい | 「んー、でも私は特別なことはしてないよ」 |
亜美 | 「さっきの話を聞いてるとそうだよね」 |
やよい | 「お風呂なんか、みんなが使っているのより安い物ばっかりだと思うし…」 |
亜美 | 「でも何か秘密がありそな気がするなー」 |
やよい | 「食事だってお風呂と同じで安い物ばっかりだよ」 |
亜美 | 「もしかして、野菜とかが良いのかな?」 |
やよい | 「そんなのよく分かんないよー」 |
亜美 | 「そだよね。んーやよいっちの謎がまた一つ増えたなー」 |
やよい | 「ん?」 |
亜美 | 「やよいっちの肌の謎も解けなかったし、口紅の謎もできちゃったし」 |
やよい | 「もー、亜美ーっ」 |
やよいは怒っていながらもその目は笑顔のそれである。 |
亜美 | 「わあっ、やよいっちが怒ったーっ」 |
やよい | 「もう亜美ったら、こうしてあげるからっ」 |
ぎゅっ ぎゅっ ぎゅーーっ |
やよいは亜美の両頬を摘んで両側に引っ張った。 |
亜美 | 「わー、いひゃいひゃいっ!」 |
その声にようやくやよいは亜美を解放した。 |
やよい | 「もう…本当に聞かれたくないのっ」 |
亜美 | 「でもここまでってことは、よっぽどのことなんだ」 |
やよい | 「フフフ…うん」 |
やよいは笑顔で一つ頷いた。 |
亜美 | 「何だか今日のやよいっち、いつもと違う感じだよ」 |
やよい | 「そ、そっかな?」 |
亜美 | 「亜美の知らない世界に行った人って感じ」 |
やよい | 「そんなことないよ…あ、でも」 |
亜美 | 「でも?」 |
やよい | 「大好きな人からあんな場所で貰うと、やっぱり違うかなーって思うよ」 |
やよいが何だか少し大人に見えた亜美なのであった… |