Reason for Contrariness(意固地の理由)

ここはプロデューサーが運転する車の中…
やよい「くぅ…すぅ…」
律子「ふぅ…くぅ…」
後ろの座席で二人の少女が寄り添いあって眠っていた。
「すっかり寝ちゃってるな、今日は大変だったもんな…」
プロデューサーは事務所に向けて車を走らせていた。
………
時間は少し遡って午前中の事務所…
やよい「いくら律子さんがそう言っても、私はそれだけは嫌です!」
律子「何よ、それならやよいはそうなの?そんなの私が嫌よ!」
やよい「私、これだけは譲れないです」
律子「私もよ。いくらやよいの願いだからって、それだけは聞けないわ」
何やら物々しい雰囲気が漂っているのは間違いない。
律子「私はこういう季節感の流れがあるからこうしたいの」
やよい「流れからしたら、私はこうだと思ってるんです」
律子「だったらこの曲からこの曲はどうするのよ!」
やよい「ちゃんと繋げられます!だったら律子さんのこの組み合わせは違うじゃないですか」
律子「そうじゃないわよ!だからこの曲は…」
先に限界に達したのはどうやら…
やよい「もうお話は沢山ですっ!律子さんなんか…律子さんなんか知らないですっ!」
ダッ バタンッ
やよいは着の身着のまま事務所を飛び出して行ってしまった。
律子「はあ…どうして分かってくれないのかしら、やよいは…」
「何だよ律子、さっきから聞いていたけどなあ…」
律子「何よプロデューサー」
「来月のライブのことだろ?」
律子「そうよ。もうやよいが分からずやなのよ」
「とは言ってもな、律子は自分の考えだけ押し付けてないか?」
律子「そんなこと…あるけど」
「どんなところでで揉めてたんだ?」
律子「ここよここ。この辺の曲順と衣装なんだけど、プロデューサーはどう思います?」
「そうだな…どっちもありって言えばありなんだけど…ん?」
律子「どうしたの?」
「何かこの辺に空欄があるけど、一回書いて消してないか?」
律子「確かに…そうね。プロデューサー、シャーペンか鉛筆はあるかしら?」
「ああ、ちょっと待ってな…」
………
その頃、事務所を飛び出してしまったやよいは…
やよい「律子さん、どうして分かってくれなかったのかな…」
少し泣いてしまったようで、眼が少し赤くなっているのが分かる。
やよい「うう…ちょっと寒いかも…」
ジャンパーも脱いだまま出てきてしまったやよい、身体も少し冷えてきている。
やよい「でも…分かってくれてない律子さんのとこなんか、戻りたくないもん…」
どうしたらいいか分からなくなっているようだ。
やよい「そうだ、ちょっとお金使っちゃうけど…」
意を決したように、JRの駅へと向かい始めた。
やよい「あっ、電車に乗るなら携帯電話はマナーモードにしておかなくちゃ」
やよいはその時、携帯電話をマナーモードではなくドライブモードにしてしまった…
………
そしてまた事務所…
シャシャシャシャシャシャシャシャシャ
やよいの書いていた紙に鉛筆を擦りつけてみた律子。
「何か出てきたか?」
律子「出てきたけど…何かしらこの文字」
「ちょっと貸してくれ。これは…ゴメン、俺が律子に言うのを忘れてたんだな」
律子「何なのよ?」
「そういえば俺も何でこの日にしてたかを、律子が居なかった時にやよいに言ってたんだ」
律子「え?この日って…?」
「ほら良く見ろ。漢字とかなが混じってるけど、………………って書いてあるだろ?」
律子「えっ…」
律子はその紙を見直して、自分のしたことの愚かさに気が付いた。
律子「やよいったら、一言でも言ってくれれば良かったのに…」
「俺には律子が一方的に言ってたように聞こえてたけどな」
律子「でも、だって…」
「たぶんだけどさ、俺が律子にも言ってたと思ってたんだろうな」
律子「だからやよいも譲れなかったのね…」
「これは俺の完全なミスだ。俺が責任を取らないとだな」
律子「責任って…私もよ。早くやよいを探しましょう!」
「そうだな。律子、携帯電話に連絡を取ってくれ」
律子「分かったわ」
 
その後、必死に連絡を取ろうとしたものの…
「どうだ?」
律子「ダメみたい。何かドライブモードになっているみたいで気付かないのよ」
「困ったな…」
律子「どうするのよプロデューサー…やよい、どこにいるのよ…」
律子の眼には少し涙が光り始めていた。
「なあ律子、ドライブモードなんだよな?」
律子「ええ、そう言ってるじゃない」
「電源は切れてないなら、GPSは効くぞ」
律子「GPS…なるほど、ちょっと調べてみます」
律子がパソコンで試しに検索してみると…
律子「何だか随分と移動しているわ。この楕円ってもしかして…」
「山手線を回っているんだろう。たぶん寒さ凌ぎじゃないかと思う」
律子「今ここだから、次この電車が事務所の最寄駅にくるのは…15分後ね!」
「よし、やよいのジャンパー持ってすぐ出るぞ」
律子「ええ、待っててやよい!」
 
事務所の最寄りの山手線の停車駅前…
「俺は事務所で待ってるから。方面を間違うなよ」
律子「ええ。一緒になったら降りて連絡するからそっちに車を回して」
「分かった。行って来い」
律子はIC乗車券とやよいのジャンパーを持って駅の中へと入っていった。
律子「んーと、東京方面は…そっちね」
やよいのGPSでの位置を携帯電話で確認しながら電車の乗り場へと急ぐ律子。
律子「この次の電車ね。この階段の位置からしたらここかあっちしか無いわよね」
ホームに着いた律子は、やよいの乗っていると思われる電車の到着を待ち始めた…
………
その電車の中…
やよい「電車の中が温かくて良かったあ…」
律子が乗ってくることも知らず、すっかり落ち着いたやよい。
やよい「律子さん…きっと心配してるよね」
半周した頃から自分がしてしまったことの罪悪感に苛まれていた。
やよい「あっ、次で降りて…でも、寒いから降りたくないし…」
事務所の最寄り駅ホームへと滑り込む電車、ガラス越しにそのやよいの眼に飛び込んできたのは…
やよい「えっ…」
プシュー
ドアが開いたその瞬間、お互いの一言は重なり合った。
律子・やよい「やよいっ!」 「り、律子さんっ!」
人目もはばからずにやよいは座席から立ち上がって、電車に乗り込んできた律子の胸へと飛び込んで行った。
やよい「ゴメンなさい律子さん。私…私…」
律子「こっちこそゴメンねやよい。私が分かってなかったからやよいにこんなことさせちゃうなんて…」
やよい「でもでも、…ぐすっ…律子さんに迷惑掛けちゃって私の方が悪い子です…」
律子「いいのよ、悪いのは私も悪いんだから。それに無事でいてくれただけで充分よ」
やよい「律子さぁぁぁん…」
やよいは律子の胸の中で幾本もの涙の線を描いていた。
律子「やよい、落ち着いた?」
やよい「…はい。でももう少しだけ…いいですか?」
ポンポンっ
律子はやよいの背中を優しく叩いてあげた。
律子「ええ。やよいが落ち着いてこれを着たら、その次の駅で降りるからね」
やよい「ありがとう…んっ…ございます…」
律子「落ち着くまでこうしてていいから」
やよい「はい…」
 
律子もやよいも落ち着いたのは新橋を通り過ぎ、東京を通り過ぎ、上野も通り過ぎ…
律子「やよい、もう大丈夫ね?」
やよい「はいっ、大丈夫です。あ、でも切符が…」
律子「それぐらいは事務所のお金で精算するわよ」
やよい「ゴメンなさい、律子さん」
律子「いいのよ。さてと…」
ピッピッピッ
どこかに電話を掛けている律子。
律子「もしもしプロデューサー?」
『もしもし律子。電話ってことは電車は降りたんだな。大丈夫か?』
律子「それは本人に出てもらった方がいいわね。はい、やよい」
やよい「ありがとうございます、律子さん。もしもし、プロデューサーですか?」
『もしもし、やよいか?とにかく無事で良かったよ』
やよい「ゴメンなさい、プロデューサーにまで心配かけてたんですね」
『それは気にするな。それで今はどこだ?』
やよい「えっと、た…田端です」
『田端か…今からそっちに迎えに行くから、ちょっと律子に代わってくれるか?』
やよい「はい。律子さんプロデューサーが代わってくださいって」
律子「プロデューサー、それでどこで待っていればいいですか?」
『それだけど、近くにファミレスがあったらそこにいてくれないか?もう時間も時間だし、やよいも律子もお腹空いてるだろ?』
律子「…そうね、もう午後の1時半だもの。じゃあこっちに付いたら連絡してください」
『分かった。すぐに出るから』
律子「ええ、ありがとうございますプロデューサー」
Pi♪
律子「やよい、お腹空いていない?」
やよい「実は…電車の途中からお腹がすいてて…」
律子「プロデューサーが先に食べてて良いからって言ってたわ」
やよい「え?いいんですか?」
律子「いいのいいの。行きましょ、やよい」
やよい「はいっ!」
迎えに来たプロデューサー、その眼には絆と信頼関係が一層強くなった二人が映っていた。
それであの紙には何が書いてあったのかですか?「たん生日の何か」って書いてあったみたいです…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
秋のま〜ちの二人が珍しく言いあいをしてしまいました。
やよいも芯は通っている女の子ですから、言うべきことは通したかったのでしょう。
ほんの少しの思い違いから生まれてしまったコト、だけどそれこそが理解を深めるコトなのかもしれませんね。
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2011・02・22TUE
飛神宮子
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