小鳥 | 「私に?」 |
貴音 | 「はい…よろしいでしょうか?」 |
ここはある日の事務所。 |
小鳥 | 「いいけど…何かしら?貴音ちゃんが相談なんて珍しいわね」 |
貴音 | 「こんなことでお時間を取らせてしまい、とても申し訳なく思っているのですが…」 |
小鳥 | 「いいのよ、こんな私でも良かったら頼ってちょうだい」 |
貴音 | 「あの…同性愛について少しお聞きしたく思いまして」 |
小鳥 | 「ど、どど、同性愛!?」 |
貴音 | 「はい…プロデューサーに相談したところ、小鳥嬢が良いと言われまして」 |
小鳥 | 「そ、そう…でも、どうして?」 |
貴音 | 「今度公演がある、わたくしが主役の演劇はご存知ですか?」 |
小鳥 | 「ええ。私が通したもの」 |
貴音 | 「それで役が、女性に恋されてしまう役でありまして…」 |
小鳥 | 「分かったわ。じゃあそうねえ…ちょっと待って」 |
小鳥は机の一番下の段から何やら数冊のライトノベルを取り出した。 |
小鳥 | 「これを読んでみたらどうかしら?」 |
貴音 | 「分かりました。これはお借りしてよろしいのですか?」 |
小鳥 | 「いいわよ。いつ返してもらっても構わないわ」 |
|
数時間後… |
貴音 | 「小鳥嬢、小説の方ありがとうございました」 |
何やらそう言う貴音の顔は仄かに紅く染まっている。 |
小鳥 | 「それでどうだったかしら?」 |
貴音 | 「その…凄い世界なのですね」 |
小鳥 | 「そうね。言ってしまえば『叶わぬ恋』かしらね」 |
貴音 | 「叶わぬ恋…」 |
小鳥 | 「だってまあ国外に例外はあるけど、どうしたって結婚なんかはできないでしょう?」 |
貴音 | 「確かに…そうなりますか」 |
小鳥 | 「それに親とか周りだってそんなにいい顔はしないでしょ?」 |
貴音 | 「なるほど…」 |
小鳥 | 「だから恋をしてしまった、相手を愛してしまった、でもゴールはできない、そうじゃないかしら」 |
貴音 | 「奥が深い世界であるのですね」 |
小鳥 | 「もしだったら真ちゃんの少女漫画も借りて読んでみるといいかもしれないわ」 |
貴音 | 「真?えっと、真って…」 |
小鳥 | 「真ちゃん、ああ見えて女の子っぽいことが好きなの。だからけっこう漫画も持ってるわよ」 |
貴音 | 「そうだったのですか…まだ知らぬことばかりです」 |
小鳥 | 「それにしてもどうしてプロデューサーさんは私にこんなことを頼んだのかしら?」 |
貴音 | 「小鳥嬢が詳しいとの話でしたが」 |
小鳥 | 「まあ詳しくないと言えば嘘になっちゃうわね」 |
貴音 | 「そういえばなぜ事務員の小鳥殿がお詳しいのでしょうか?」 |
小鳥 | 「うーん、私の場合は妄想することも多いけど、そういう光景をこの事務所で色々見ちゃってるからかしらね」 |
貴音 | 「見ているというのは?」 |
小鳥 | 「この事務所でも特に仲の良い組み合わせってあるでしょ?」 |
貴音 | 「例えば千早と春香とかでしょうか?」 |
小鳥 | 「そうそう。ああいうイチャイチャは結構あったりするのよ」 |
貴音 | 「なるほど…ということは、わたくしがよく雪歩に擦り寄られることがあるというのも…」 |
小鳥 | 「そう!それよ。演劇はそれを思い浮かべればいいんじゃないかしら」 |
貴音 | 「とても参考になりました。ありがとうございます」 |
小鳥 | 「じゃあ話を戻すけど、貴音ちゃんが765プロに入る前からそういう光景は見てきたわけなの」 |
貴音 | 「そうですか…」 |
小鳥 | 「やよいちゃんに対する伊織ちゃんとか、真ちゃんに対する雪歩ちゃん、美希ちゃんもそうね」 |
貴音 | 「この事務所はいったい何か魔法でも掛かっているのですか?」 |
小鳥 | 「さあどうかしら?でも、女性が多いから自然とそうなってきたのかもしれないわ」 |
と、そこに… |
ガチャッ |
P | 「貴音、先に帰らせちゃってゴメンな」 |
貴音・小鳥 | 「あなた様、お帰りなさいませ」 「プロデューサーさん、お帰りなさい」 |
プロデューサーが出先から戻ってきたようだ。 |
P | 「貴音、小鳥さんに聞けたか?」 |
貴音 | 「はい、とても参考になりましたわ」 |
P | 「小鳥さん、貴音に変なこと言ってないですよね?」 |
小鳥 | 「プロデューサーさん、何で私ばっかり疑うんですか」 |
P | 「だって小鳥さんの話、とても濃ゆい話になりそうな気がして…」 |
小鳥 | 「もう…プロデューサーさんったら、知らないですっ」 |
小鳥はすっかり機嫌を損ねてしまったようだ。 |
P | 「わー、ゴメンなさい小鳥さん」 |
小鳥 | 「もうプロデューサーさんなんか他の男の人に愛されちゃえばいいんですっ」 |
P | 「…カンベンしてください、本当にそれだけは…」 |
貴音 | 「あなた様、女の方の機嫌を損ねるとは見損ないました」 |
P | 「貴音…ああもうっ、小鳥さん今日連れて行こうと思ってた居酒屋、キャンセルしちゃっていいんですね?」 |
小鳥 | 「…プロデューサーさん酷い…物で脅しをかけるなんて…」 |
じとー |
貴音はじと目になってプロデューサーを見つめている。 |
P | 「もうこうなったらヤケだ!小鳥!」 |
小鳥 | 「えっ!?」 |
ふとされた呼び捨てについプロデューサーの方を向いてしまった小鳥。 |
チュゥッ |
その隙を見逃さずにプロデューサーは小鳥の唇へとキスをした。 |
小鳥 | 「プロデューサーさん…もう…」 |
小鳥はそう言いながらももう怒ってはいないようだ。 |
P | 「これで機嫌治してくれた?」 |
小鳥 | 「ちゃんと居酒屋に連れてってくれるなら、許します」 |
P | 「分かってますって、さっきのは冗談ですから」 |
貴音 | 「あ、あの…あなた様…小鳥嬢…」 |
目の前でこんなことを起こされた方にとってみればこの光景はとんでもない。 |
P | 「貴音、ゴメンな。こんなの見せてしまって」 |
貴音 | 「い、いいのです。あなた様方は契りも交わされた恋人同士、それは構いません」 |
小鳥 | 「貴音ちゃん、これも一つの愛の形ってことで受け取って」 |
貴音 | 「分かりました…あ、あと一つよろしいでしょうか?」 |
P | 「何だ?貴音」 |
貴音 | 「その…台本上で…相手方の女性のから口付けを受けなくてはなりませんで…」 |
小鳥 | 「ええっ!?」 |
貴音 | 「わたくし、今までそのような体験は残念ながらしたことはありませんでして…」 |
P | 「それはそうだよな…ん?貴音って雪歩とけっこうイチャイチャしてなかったか?」 |
貴音 | 「それは…しかし考えてみたところ口付けはまだ…」 |
P | 「それなら話が早いな。これから雪歩たちを迎えに行ってくるから…体験してみるか?雪歩さえ良ければな」 |
小鳥 | 「それはいいわ。私、部屋の準備してきますね」 |
貴音 | 「ちょ、ちょっとお待ちください!心の準備という物が…」 |
P | 「じゃあちょっと行ってきますね、小鳥さん準備の方をお願いします」 |
こういう時の連携はやっぱり恋人同士である。 |
貴音 | 「あなた様…小鳥嬢…」 |
その後どうなったかって?何だかんだ言って雪歩も妙に乗り気になってくれたようですよ… |