ある土曜日のラジオ放送局… |
ポーン♪ |
♪〜 |
律子 | 「秋月律子の…空のなないろ!」 |
軽快な自分の曲と共に入るタイトルコール。 |
律子 | 「2時になりました。ラジオをお聴きの皆さまこんにちは、秋月律子です」 |
律子は慣れた口調で声を乗せていく。 |
律子 | 「暖かい日があったと思えば、急に寒い日。三寒四温とはよく言ったものですね。うちの事務所も風邪の人が出ないように本当に大変です」 |
季節の挨拶も忘れないところはパーソナリティらしい。 |
律子 | 「それで今日のメールテーマは財布の日にちなんで、ズバリ『財布』です。財布に関することなら何でも構いません」 |
ん?何やら外に男の人が。 |
律子 | 「FAXは〜〜〜〜、メールは〜〜〜〜〜です。携帯からは各放送局の番組へのリンクからこの番組を選んで飛べば投稿フォームがございます」 |
律子もその男の人は知っているようで怪訝そうな顔をした。 |
律子 | 「それでは、今週も4時までの2時間。ラジオの波が私とリスナーの七色の架け橋になりますように…」 |
CMに入り… |
コンコン カチャッ |
P | 「入るぞ、律子」 |
律子 | 「もう何してるのよプロデューサー」 |
どうやらプロデューサーだったようだ。 |
P | 「何してるって、財布持ってきてくれって番組始まる直前に言ったのは律子だろ」 |
律子 | 「ご、ゴメン…そうだったわね、ありがとうございますプロデューサー」 |
P | 「ラジオなのに何かに使うのか?この財布」 |
律子 | 「ちょっとね…もしかしてプロデューサーって事務所のホームページ見てないんですか?」 |
P | 「最近忙しくて見てないかもなあ…」 |
律子 | 「ちゃんとこれについて書いてあったんだから。はい、プロデューサーはこれを持ってて」 |
何やらレンズが付いた物を渡されたプロデューサー。 |
律子 | 「プロデューサー…CMが明けたらこれを指示通りに動かしてほしいんだけど…ダメ?」 |
P | 「それだと番組中もブースに居ろってことだよな」 |
律子 | 「お願いっ!なるべく喋る方に意識を集中させたいし」 |
P | 「分かったよ、もうすぐCM明けるぞ」 |
律子 | 「ええ。じゃあこの次のCMになるまでお願いね」 |
CMが明けて… |
律子 | 「はい。秋月律子の空のなないろですが…動画サイトの方は見えてますか?今はスタジオが映って…」 |
持ち込んだノートパソコンを見入る律子。 |
律子 | 「大丈夫ですね、はい。今日は事務所と番組のブログで予告した通り、ちょっとだけ生中継も配信しちゃいます」 |
確認したのはインターネット中継用の画面のようだ。 |
律子 | 「それで今日のメールテーマが『財布』ですので、私の財布を見てもらおうかなって思います」 |
プロデューサーへと目配せして… |
律子 | 「生中継が見られる方はそちらをご覧ください。では…」 |
カメラを移動し始めたプロデューサー。 |
律子 | 「はい、私の財布はこんな財布です。私と言えばやっぱり緑ですからその色も入った物にしています」 |
生中継の画面に、テーブルに載った律子の財布が映し出された。 |
律子 | 「色からしたら女の子っぽくは無いかもしれませんが、どうでしょう?」 |
生中継に付いたコメントを見ている律子。 |
律子 | 「え?もうちょっとよく見たい…ですか?分かりました。もう少し近付けてください」 |
カメラを財布に近付けた。 |
律子 | 「中身ですか?それは…秘密にさせてください。大事なものも入ってますから…ね」 |
出来ないものはきっぱりと断っているのも律子らしい。 |
律子 | 「可愛い…ですか?自分ではそう思ってはいませんけど…ありがとうございます」 |
何だか少し嬉し恥ずかしのようだ。 |
律子 | 「財布ってやっぱり自分らしいものを選びたくなるアイテムの一つだと思います。はい、ではここでメールを一通お読みします。○○○FMでお聴きのツリーホワイトさん、ありがとうございます」 |
ようやくメールの紹介に入って一心地。 |
律子 | 「秋月さんこんにちは。今日のテーマが財布ということで、メールしました。昔、学生時代にバスの中に財布をバスの中に忘れていったことがあります。バス代だけ取り出してポケットに入れた時に滑り落ちていっちゃったみたいで、すぐに営業所の方に電話を掛けたら折り返しの便の途中の営業所まで届けてくれるということで事なきを得ました。あの時以来、財布だけは肌身離さず持っていようと思うようになりました…そうですよね、財布って大切なものなのにどうして落としちゃうものなんでしょうね?」 |
(このエピソードが作者の?そんなこと…ありますが…) |
律子 | 「でもツリーホワイトさん、ちゃんと見つかって良かったですね。メールありがとうございました」 |
流暢に話を続けていた律子の目に生中継のコメントが飛び込んだ。 |
律子 | 「少し生中継のコメントを見てみましょう。えっと…財布はいいから律子さんの顔を見たい…ですか?」 |
突然のことに驚きを隠せない様子である。 |
律子 | 「ちょっと待ってください、相談しますね。あ、今カメラで財布を映してもらっているのが私のプロデューサーなんです」 |
プロデューサーに筆談でどうするか尋ねる律子。プロデューサーはそれに「任せる」と返した。 |
律子 | 「分かりました。生中継は次のCMまでですから、それまで特別ですからね。お願いします、プロデューサー」 |
と、生中継のカメラが律子の方へと向いた。 |
律子 | 「もう…生中継の皆さんったら、私が映った途端に凄い書き込み…もしだったらメールやFAXの方もお願いしますね」 |
律子は少しだけ呆れているようだ。 |
律子 | 「はい、では次のメールは普通のお便りですね。FM-○○○○でお聴きのかいじさん、ありがとうございます」 |
もう気にせず読むことにした律子なのであった。 |
……… |
番組も終わりに近付き… |
律子 | 「さて、今日の空のなないろ、いかがだったでしょうか?」 |
締めのトークに入った。 |
律子 | 「今日はちょっとだけ生中継してみました。まさか私の方が見たいなんて、きっと言われると思ってましたけど予想以上でしたね…」 |
最初の生中継がまだ印象に残っているようである。 |
律子 | 「はい、では来週のお便り募集です。来週は□□さん担当週になります。普通のお便りのテーマはもうシーズンですね…テーマは卒業です。□□さんのいつものコーナーへのお便りも、もちろん大募集中です」 |
一人の時でも流れるような喋りは変わらないようだ。 |
律子 | 「FAX番号は〜〜〜〜、メールは〜〜〜〜〜です。コーナー名も忘れずにお書きください。それと来週は小説家の△△さんがゲストにいらっしゃるそうです。どうぞお楽しみに」 |
落ち着いてまとめの言葉に入った。 |
律子 | 「それでは今週もありがとうございました。ではまた来週、私とはまた再来週にやよいと共にお耳に掛かればと思います」 |
そして締めの言葉。 |
律子 | 「虹のたもと、それは素敵な宝物があると言われる場所。私からあなたへの声の宝物、虹の架け橋に乗って届きましたか…?」 |
ここで一呼吸置いて… |
律子 | 「この広い青に架かる素敵な…空のなないろ!」 |
♪〜 |
エンディングの音楽が徐々にフェードアウトしていき、2時間の生放送が終わった。 |
カチャッ |
ブースにプロデューサーが入ってきた。 |
P | 「おつかれさま律子。いや、さっきホームページ見てきたけどやっぱり見てなかったみたいだ」 |
律子 | 「もう…それでよくプロデューサーしてられるわね…でも今日はありがと」 |
P | 「別にあれは俺じゃなくても良かったんじゃないか?」 |
律子 | 「765プロの機材だから、あんまり他の人には触って欲しくなかったの」 |
P | 「そういうことか。よし、じゃあ片付けて支度したら戻れるんだよな?」 |
律子 | 「ええ。今から片付けるからちょっと向こうで待ってて」 |
P | 「分かった。じゃあ向こうで待ってるから」 |
……… |
帰りの車の中で… |
P | 「それにしてもああいうのは面白いな。今度のライブでも何か考えるか」 |
律子 | 「ライブの中継?んー…そうね、殆どの会場が完売しちゃうからいいかもしれないわ」 |
P | 「でもチケット買って見に来て欲しいところもあるけどなあ…」 |
律子 | 「そこが難しいところよね。一日だけやるっていうのも悪くないわ」 |
P | 「ちょっと考えておこう。特定の時間だけっていうのもありだろうしな」 |
律子 | 「何曲かだけってこと?なるほど…それなら全部は見れないから見に来てくれると」 |
P | 「これは社長と応相談になるけどな。とりあえず事務所に戻ってから考えることにするさ」 |
このプロデューサーで良かった、それを感じた律子であった… |