A Teeny-tiny Clerk(ちっちゃな事務員さん)

ここはある日の事務所の…
やよい「お茶をどうぞ。こちらもどうぞお召し上がりください」
『ありがとう』
高木社長「やよい君、私のはそこに置いておいてくれるかね」
やよい「はい」
カタンッ カタンッ
やよいの手でお茶とお菓子が置かれた。
やよい「それでは失礼します」
ペコっ カチャッ バタンッ
そのまま下がって一礼して、やよいは社長室から出て行った…
………
それは30分ほど前のことだった…
律子「ええっ!?急にお客さんですか社長っ!?」
高木社長「ああ、すまない律子君」
律子「もう…こんな日に限って小鳥さんもプロデューサーもいないなんて…」
高木社長「それでお茶菓子とかの用意は、今大丈夫かね?」
律子「どうだったかしら…ああっ!確か昨日、亜美と真美が食い漁ったかしら」
高木社長「今後に関わる大切な客人なのだが…今から買ってきてはもらえないかな?」
律子「そんなこと急に…どれくらいの物が必要ですか?」
高木社長「ふむ…相手方も大手出版社の専務クラスだからな…」
律子「それだと…走ってやっと10分くらいのところで買わないとダメですね…」
高木社長「今からギリギリだが頼めるかな、律子君」
律子「分かりました…でも本当にギリギリになりますからね」
高木社長「うむ、分かった」
律子は事務服のまま財布を持って街へと駆け出していった。
 
ここはとある、765プロが常連になってきている菓子店。
律子「これとこれと…これでいいかしらね。すみませーん、これとそれと…あとそっちのを1袋ずついただけますか?」
店員『はい…全部で三千五百円になります』
律子「えっと…はい、じゃあこれで」
店員『五千円お預かりしましたので…千五百円のお返しです』
律子「あ、すみません。領収書いただけますか?」
店員『はい、お名前はどうしましょう?』
律子「765プロダクションでお願いします」
店員『「なむこ」はどのような漢字でしょう?』
律子「あ、数字の7・6・5で。プロダクションはカタカナです」
店員『分かりました…はい、ではこちらでよろしいでしょうか?』
律子「はい、ありがとうございます」
ガーッ
自動ドア開けて店を出た律子。
律子「やっばいわね、時間はあと15分無いわ…走って行かないと…」
律子は事務所へ向けて走り出した。
 
バタンッ
事務所に戻ってきた律子。
律子「ふう…さすがにこれだけ走ったのは久しぶりだから…疲れたわね…」
やよい「律子さんどこに行ってたんですか?」
そこには何やら準備中のやよいがいた。
律子「あ、やよい。ちょっと急にお客さんが来るってことだったから、お茶菓子買いに行ってたのよ」
やよい「あれ?お客さんってさっきの人ですか?」
律子「え?もう来てるの?」
やよい「はい、ちょっと予定より早く来たみたいです」
律子「それでそのお客さんは?」
やよい「社長に用事って聞いたんで、社長室に案内しました」
律子「良かった…ありがとうやよい」
やよい「でも律子さん、すっごい息が上がってますー」
律子「そうよ、○○○まで走ってきたのよ」
やよい「ええっ!?私も暇してたんですから、おつかいに出ても良かったのに…」
律子「そんなこと言って…買う物まではわからないでしょ?」
やよい「あ、そっかあ…」
律子「ふう…でもさすがにこの天気で走ったのは疲れたわ…」
よく見れば律子の服は背中が汗びっしょりなのが分かる。
やよい「大変です、律子さん凄い汗です」
律子「これは…さすがにこの格好じゃお客さんの前に出るのは無理ね…」
やよい「私、律子さんの衣装の事務服持ってきますっ!」
律子「ええ、これが鍵だからお願い」
 
数分後…
やよい「律子さーん、戻ってきましたー」
律子「どうしたの?ちょっと遅かったわね」
給湯室の方で既にお茶を出す準備をしていた律子。
やよい「それが…律子さんのが見つからなくって…」
律子「え?どうして…」
やよい「分からないですけど、律子さんの以外でもほとんどこの衣装が見当たらなかったんです」
律子「私の他に…ああっ!この前の芸能人運動会で使ってクリーニングに出したのが返ってきてないのね!」
やよい「どうしましょう…」
律子「それはじゃあ…誰の?」
やよい「これは私のです〜。でも律子さんじゃさすがに私のは無理ですよね?」
律子「そうね…さすがに…」
やよい「うーん…でも着替えないとダメですよね?」
律子「汗は引いてきたけど、背中がちょっとこのままじゃ無理よね…」
やよい「うー…」
律子「しょうがないわ。もうやよいがお茶を出しに行ってきて」
やよい「ええっ!?わ、私がですか?」
律子「普段ここで見てるでしょ?」
やよい「たまに律子さんとか小鳥さんがやってるのは見てますけど…私にできるかなあ…」
律子「大丈夫よ。ダメでも私がちゃんと責任を取るわ」
やよい「うー…分かりました。じゃあちょっとそこで着替えてきます」
 
律子「よし、服は大丈夫ね。靴もそれなら大丈夫。立派な事務員さん姿よ」
やよい「そ、そうですか?」
少し顔を紅くしたやよい。
律子「ええ、本当は靴下も何とかしたかったけど…」
やよい「ストッキングなんて持ってないですー」
律子「そこはしょうがないわ。じゃあこれを持って行って。部屋をノックするまでは両手でいいから」
やよい「はい」
律子「ノックに返事されてから『お茶をお持ちしました』って言ってね」
やよい「分かりました。」
律子「あとのやり方は見てるって言ったから分かるわよね?先にこれを置いてからよ」
やよい「はーい」
律子「じゃあ行ってらっしゃい」
やよい「頑張って来まーす。あ、でも…ちょっといいですか?」
律子「え?何かしら…」
やよい「自信をつけるために…律子さん、ハイターッチ!」
パシンッ
律子とやよいの手からいい音が鳴り響く。
やよい「イエイッ!じゃあ行ってきまーす」
律子「フフフ、行ってらっしゃい。ちっちゃな事務員さん」
やよい「もー、そういう風に言わないでくださいー」
部屋に来た瞬間は社長は驚いた様子だったが、その後は雰囲気も変わって交渉は順調に進んだのだとか…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
秋のま〜ちコンビの珍しいSS。
小鳥さんもPもいない状況というのは、つまり数作前の真美と亜美の誕生日です。
普段から一緒なやよいだからこそ、律子は自信を持って送り出せた…ということでしょう。
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2012・05・31THU
飛神宮子
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