貴音20歳の冬… |
ズズズズズ ツルルルル |
沖縄に沖縄そばを啜っている貴音とプロデューサーの姿があった。 |
貴音 | 「無事に終えることができましたわね」 |
P | 「ああ。全国30公演お疲れさま、貴音」 |
貴音 | 「あなた様こそ、こんな私の我がままな行程をお許し下さいまして、ありがとうございました」 |
P | 「確かにライブハウスとかの公演場所選びはかなり悩んだけどね」 |
貴音 | 「殆どが普通はこんなライブは行なわないような場所でしょう?」 |
P | 「そうだな。大都市とか県庁所在地は良かったけどなあ…」 |
貴音 | 「本当にここまでして戴けるなんて…」 |
P | 「いや、俺もちょっと興味があったからな。折角だし良い機会かなと思ってさ」 |
貴音 | 「まあ、そうだったのですか?」 |
P | 「まあな。でも平日とかもあった上に、地方も多かったのに全会場満員だもんな」 |
貴音 | 「そうでしたか…それは嬉しいかぎりです」 |
P | 「北は旭川から喜多方に富山、和歌山に尾道に久留米…本当に全国行脚だったな」 |
貴音 | 「しかし、ファンの方は開催地に驚かれたことでしょうね」 |
P | 「だろうな。でもその分小さい所は小さい箱で出来たから結果オーライだけど」 |
貴音 | 「ファンのお姿がとても近くに感じられました」 |
P | 「確かにそうだよな」 |
貴音 | 「しかしながら色々な味のラーメンが戴けて、本当に幸せでした」 |
P | 「ファンの人も会場を見て、薄々気が付いていたみたいだけどさ」 |
貴音 | 「そうだったのですか?」 |
P | 「この前さ、インターネットを見てたら貴音のファンだっていう人の日記を見つけてさ」 |
貴音 | 「私のファンの方ですか…」 |
P | 「藤岡から和歌山までの9箇所で、ライブを見つつ同じようにラーメンを食べ歩いていたみたいだったよ」 |
そう今回のライブツアーは、地方ラーメンの食べ歩きを兼ねていたのだ。 |
貴音 | 「まあ、それは凄いですわね」 |
P | 「そういうのが共有できるのも何か嬉しいと思うけどさ」 |
貴音 | 「はい…それにしてもやはり沖縄そばは独特ですね」 |
P | 「厳密にはラーメンとは違うけど、これはこれで美味しいな」 |
貴音 | 「何だか今までの概念を少し覆されました」 |
P | 「こういうのはやっぱり文化の違いってやつだろうね」 |
貴音 | 「日本は本当に狭いようで広いものです」 |
P | 「ああ。それにしてもさ…」 |
貴音 | 「何でしょう?」 |
P | 「貴音は本当に美味しそうにラーメンを食べるなあ…って」 |
貴音 | 「なっ…」 |
少し顔を紅くした貴音。 |
P | 「だって、貴音の顔が本当に嬉しそうだからさ」 |
貴音 | 「そ、そうでしょうか…」 |
P | 「ああ、少なくとも俺はそう思うぞ」 |
貴音 | 「でもそれは…あなた様が居るからでしょう」 |
P | 「そうなのか?」 |
貴音 | 「はい。あなた様とこうして居られる時間…それが私にとっての幸せです」 |
P | 「…そっか」 |
貴音 | 「ラーメンは私とあなた様を繋いだ糸のような物、それが美味しくないわけはありませぬ」 |
P | 「そう言われたらそうかもな。でも、こっちに移籍してから随分と変わったな」 |
貴音 | 「あなた様の傍に居られる幸せからでしょうか」 |
P | 「そうか?俺なんてそんな…」 |
ビシッ |
丼を持っていた方の手で人差し指をビシッと差し出す貴音 |
貴音 | 「あなた様に出会えなければ私、どうなっていたか分かりません」 |
P | 「貴音がそう言うならそうなんだな、分かったよ」 |
貴音 | 「今の私には最早、水と同じように無くてはならない存在なのです」 |
P | 「…貴音。あのさ、一ついいか?」 |
貴音 | 「何でしょう?」 |
P | 「この話、後にしないか?こんな場所じゃなくてさ」 |
貴音 | 「…そ、そうですわね。急いで戴いてしまいましょう」 |
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近くで飲み物を買って宿へと戻った。 |
プシュッ プシュー |
買ってきたお酒を開けた二人。 |
P | 「じゃ、あらためておつかれさま貴音」 |
貴音 | 「おつかれさまでした、あなた様」 |
カンっ |
P | 「ゴクッゴクッ…ふう、本当に長いようで短かったな」 |
貴音 | 「ングッンクッ…そうでしたわね、こんな長い期間走り続けでしたから」 |
P | 「貴音にとってはこっちに移籍して初めてだったな、こんなツアーはさ」 |
貴音 | 「美希と響に先立ってこういう物をやらせて戴けたのは本当に嬉しく思います」 |
P | 「ま、貴音は美希や響より年上なんだからさ」 |
貴音 | 「ですが…」 |
P | 「それに…2人は2人で今は別々のプロデュースなんだから」 |
貴音 | 「でも、本当に私は幸せ者ですわ」 |
P | 「どうして?」 |
貴音 | 「961プロから私達を救い出して下さっただけでなく、こんな素晴らしいあなた様と一緒にお仕事が出来るなど、幸せ以外の何物でもありません」 |
P | 「そう言うなら俺も幸せ者かもしれないな」 |
貴音 | 「それは何故にでしょう…?」 |
P | 「こんなに俺にぴったり相性の合った人に巡り合えるなんて思ってもいなかったからさ」 |
貴音 | 「私と…あなた様がぴったりと…はい」 |
少々顔を赤らめながら笑顔になる貴音。 |
P | 「そうそう。その笑顔に逢いたくて、俺は貴音たちをこの765プロに入れたかったんだ」 |
貴音 | 「笑顔…ですか?」 |
P | 「だって、向こうにいた頃の3人はどこかその笑顔も寂しそうだった…からさ」 |
貴音 | 「確かに少し荒んでいたと言うのは嘘ではないでしょう」 |
P | 「だから今、この笑顔を見ていられるのは俺の最高の幸せかな」 |
貴音 | 「まあ…そんな、あなた様ったら…」 |
P | 「本当に可愛くなったな、貴音」 |
ギュッ |
その貴音の身体を思わず抱きしめたプロデューサー。 |
貴音 | 「あなた様の身体…とても温かいです」 |
貴音はその一言だけ呟いて、そっとその温もりに包まれていた |
P | 「貴音」 |
そんな中でプロデューサーは少し真剣な目になった。 |
貴音 | 「どうしました?あなた様」 |
P | 「貴音が765プロに来てからずっと思ってたんだ。貴音とならこの先やっていけるって」 |
貴音 | 「私と…ですか?」 |
P | 「ああ、そうだ。この巡り合わせを無駄にしてはいけないと思ったから、今言うよ」 |
貴音 | 「…っ!?」 |
P | 「貴音はさ、俺に食べさせて貰ったラーメンが初めてだったんだろ?」 |
貴音 | 「そうですが…」 |
P | 「これから先ずっと、俺と一緒に色々な新しい物に挑戦してみないか?」 |
貴音 | 「!?」 |
P | 「もし迷惑じゃなかったら、俺の…伴侶になって欲しい」 |
貴音 | 「そんな、迷惑だなんて…こんな不束者の私でよろしいのですか?」 |
P | 「不束者だなんてとんでもない。俺にしたら出来過ぎくらいの相手だぞ」 |
貴音 | 「本当に私…こんなに幸せを戴いて宜しいのでしょうか?」 |
P | 「まだまだだ。これからもっともっと貴音には幸せをもたらせて見せるさ」 |
貴音 | 「あなた様…こんな私でよろしければ、是非あなた様の許へ…」 |
P | 「貴音…」 |
貴音 | 「○○様…」 |
チュッ |
その瞬間、貴音の唇という雌蕊はプロデューサーの唇という花粉に他家受粉されて散ることをなくした… |
それは新しい種子の生成を約束した誓い… |
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しばらくして… |
P | 「あ、そうだ。あのさ、その『様』付けで呼ぶのはもうよしてくれないかい?」 |
貴音 | 「…それではどうお呼びすれば…」 |
P | 「そうだな………」 |
電気を落としていた2人の部屋に差し込んでいた月の光だけが、2人の小さく確かな誓いを見届けていた… |