ここはある日の事務所… |
小鳥 | 「ふんふんふ〜ん♪」 |
何やら鼻歌交じりで作業をしている小鳥。 |
千早 | 「音無さん、その曲は…?」 |
小鳥 | 「あら?千早ちゃんどうしたの?」 |
千早 | 「いえ、その曲って…LIVE ENCOREで音無さんが歌った曲ですね?」 |
小鳥 | 「そうよ、いい曲だし気に入ってるの」 |
千早 | 「あの歌は私たちも本当に感動しましたから」 |
小鳥 | 「千早ちゃんにそう言ってもらえるなんて感激だわ」 |
千早 | 「あの…一つ聞いていいでしょうか?」 |
小鳥 | 「何かしら?」 |
千早 | 「もしかして、765プロの出している曲って一通り歌えますか?」 |
小鳥 | 「うーん…たぶん大丈夫ね」 |
千早 | 「どうりであの時も、急だったのに『まっすぐ』も歌えてたのですね」 |
小鳥 | 「確かにあの時は大変だったわよ、急だったもの」 |
千早 | 「あの…1曲歌ってくれませんか?」 |
小鳥 | 「え?」 |
千早 | 「だから…また音無さんの歌声が聴いてみたくて…」 |
小鳥 | 「千早ちゃんにそう言われるなんて…」 |
千早 | 「ダメ、でしょうか?」 |
小鳥 | 「そうじゃないの。この765プロで一番歌が上手い千早ちゃんに、私の歌なんか聴かせていいのかなって」 |
千早 | 「そんな、もっと自信を持ってください」 |
小鳥 | 「うーん、そこまで言われたらしょうがないわね…」 |
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小鳥 | 「ふう…どうだったかしら?」 |
千早 | 「アカペラなのにここまで歌えるなんて…」 |
小鳥 | 「ちょっと緊張しちゃったわ、うん」 |
千早 | 「あの声で緊張してたんですか?」 |
小鳥 | 「そうよ、千早ちゃんの前でなんて…ね」 |
千早 | 「あの…お願いしたいことがあるのですが…」 |
小鳥 | 「何かしら?」 |
千早 | 「………………」 |
小鳥 | 「ええっ!?」 |
千早 | 「きちんと社長には許可はいただきます、ダメでしょうか?」 |
小鳥 | 「私で本当にいいのね?」 |
千早 | 「構いません、今はもう音無さん以外では考えられなくなりました」 |
小鳥 | 「んー…但し条件があるわ」 |
千早 | 「何でしょう?」 |
小鳥 | 「私の名前は出さないこと。何かあった時に大変でしょ?」 |
千早 | 「…そうですね、分かりました。それだけは約束します」 |
小鳥 | 「よろしい。それならいいわよ」 |
千早 | 「それではよろしくおねがいします」 |
小鳥 | 「で、それはいつになるの?」 |
千早 | 「確か…2週間後ですね」 |
小鳥 | 「分かったわ、もちろんアレは用意してもらえるのよね?」 |
千早 | 「はい、明日までには準備してきます」 |
小鳥 | 「ちょっとプロデューサーさんに色々とお願いしよっかな」 |
千早 | 「私からもお願いしておきます」 |
小鳥 | 「ありがとう、千早ちゃん」 |
……… |
さて当日… |
スタッフ | 『OKでーす!音無さんありがとうございましたー』 |
ガチャッ バタンっ |
収録ブースから出てきた小鳥。 |
P | 「良かったよ小鳥さん、本当に歌手じゃないかとは思うくらいだったよ」 |
小鳥 | 「プロデューサーさん、そこまで褒めてもらえるだなんて…」 |
千早 | 「音無さんおつかれさまでした、本当にありがとうございました」 |
小鳥 | 「いいのよ、他ならぬ千早ちゃんのためだもの」 |
P | 「千早…あのコーラスに負けないような歌声を、今日はお願いな」 |
千早 | 「分かりました。ブースに入ったら一度聴かせてもらえますか?」 |
P | 「ああ、スタッフに伝えておくから」 |
ガチャッ バタンっ |
そのままブースへと入って行った千早。 |
小鳥 | 「でもどうして私なんか…」 |
P | 「千早にも思う所があったんでしょう」 |
小鳥 | 「思う所ですか」 |
P | 「自分とは違う、クリアなボイスが欲しかったと言ってましたから」 |
小鳥 | 「それが私だったんですね」 |
P | 「あのライブの時からそう思っていたらしいですよ」 |
小鳥 | 「ええっ!?それって本当ですか?」 |
P | 「はい。一度小鳥さんのあの声を自分の声と重ねてみたいと」 |
小鳥 | 「何だかそう言われると照れてしまいます」 |
P | 「やっぱり信頼しているからこそだと思いますよ」 |
小鳥 | 「信頼してもらえてるんですね…私」 |
P | 「それにしてもさっきの歌声、本当に良かったですね」 |
小鳥 | 「そうですか?」 |
P | 「これのCDが出た後の生放送、どうです?出てみます?」 |
小鳥 | 「ええっ!?わ、私は表に出るような人では無いですってば」 |
P | 「でもこの前、いきなりとは言え出たじゃないですか」 |
小鳥 | 「あれはもう…本当は嫌だったんですから」 |
P | 「まあ無理にとは言いませんよ」 |
小鳥 | 「まったく、そうやって断れないような状況を作るし…」 |
P | 「別にそんなことは無いですって」 |
小鳥 | 「あ、千早ちゃんが何かこっち見てますよ」 |
P | 「ああ、そうだった。小鳥さんのコーラスを聴かせてって言われてたんだな」 |
小鳥 | 「もう、忘れてたんですか?」 |
P | 「はい、ちょっと行ってきますね」 |
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レコーディングも終わり、帰りの車の中… |
千早 | 「今日は本当にありがとうございました」 |
小鳥 | 「どういたしまして、私の歌声で本当に良かったのかしら?」 |
千早 | 「はい…とても綺麗でちょっと嫉妬してしまいました」 |
小鳥 | 「え?えっ…」 |
千早 | 「あの歌声は他の誰にも出せないですから」 |
小鳥 | 「そうかしら…でもそう言ってもらえるなら悪い気はしないわ」 |
P | 「よし、じゃあ千早を送り届けたら直行でどこか行きますか?小鳥さん」 |
小鳥 | 「いいんですか?それでも」 |
P | 「いいですよ、今日は特別ですから」 |
小鳥 | 「それなら…お願いしますね」 |
その時千早は、小鳥の表情の中に心に温かみがある大人を感じていた… |