Cardiac Elder Sister(心の姉)

ある日の事務所でのこと…
やよい「はぁ…」
何やらため息を吐いている少女が一人。
やよい「うー…」
どうやら何かを悩んでいる様子である。
小鳥「どうしたの?そんな難しい顔をしちゃって」
やよい「あ、小鳥さん」
小鳥「そんな顔、いつものやよいちゃんらしくないわ」
やよい「でも、どうしたらいいか分からなくなっちゃって…」
小鳥「どうしたらって…何のこと?」
やよい「これです…こんなことを頼まれちゃったんです…」
小鳥「なになに…」
小鳥はやよいに渡された書類に見入った。
小鳥「これって…やよいちゃんが通っていた小学校かしら?」
やよい「はい。この前、中学校に小学校の頃の担任の先生が来たんです」
小鳥「そうなの…」
やよい「それでお願いされちゃって、担任の先生だから断れないって感じになっちゃって…」
小鳥「やよいちゃんは優しいから。そうね、断れないわよね」
やよい「だからどうしようかなーって」
小鳥「これはプロデューサーさんには話した?」
やよい「話だけはしましたけど…」
小鳥「それでプロデューサーさんは何て言ったの?」
やよい「やってもいいんじゃないかって。でもこれはあくまで私が決めたボランティア的な物だから、プロデューサーは係わらないって言われちゃいました」
小鳥「もう、あの人はアイドルが困っている時に限ってそういう風に言うんだから…」
やよい「どうしたらいいんでしょうか」
小鳥「そうね…それで何人くらいなの?」
やよい「えっと、確か4年生全クラス一緒だって言われたんで、120人くらいだって言われました」
小鳥「120人の前でお話するのね…それは大変だわ…」
やよい「普段のステージと違ってみんながみんな私のこと好きだと限らないですよね」
小鳥「それは確かにそうね。でもそういう人たちがいるのは当たり前だし、そこは乗り切らないとよね」
やよい「あと…実は何をやるかが全く決まってないんです」
小鳥「え?何をやるって…その先生からは何も言われてないの?」
やよい「はい。時間と場所が体育館だってことだけ指定されていてあとは何も無いんです」
小鳥「時間はどれくらい?」
やよい「えっと…30分で、質問が10分くらいです」
小鳥「1人で30分…歌はどうするの?」
やよい「歌はやっぱり1曲は歌ったほうがいいかなーって思ってます」
小鳥「やっぱりそうよね。1曲は何か歌っておきたいわね」
やよい「それで…何について話すかがまったく思いつかなくって…」
小鳥「難しいわね…歌で3分か4分としても、あと20分以上はあるもの」
やよい「だけど、私の家の事とか話しても楽しくないですよね」
小鳥「うーん、そうねえ…アイドルになったきっかけに関わる部分ならいいかもしれないけれど」
やよい「あとは…この世界の話ってどこまで話していいのかなって」
小鳥「あまりディープな話はさすがにダメだから、楽しいところとか辛いところとかくらいかしら」
やよい「でもでもそうすると時間が大丈夫かなって」
小鳥「そうよね。やよいちゃんはこの世界でもトップレベルになってるから…」
やよい「はい。そういう話はいっぱいあるからどれを話したらいいかとかも難しくって」
小鳥「ここはそうね…ねえ、やよいちゃん。ちょっと気分転換しない?」
やよい「気分転換…?」
小鳥「こういうところでずっと考え込んでいても、いいアイディアは出ないと思うわ」
やよい「でも気分転換って…何をするんですか?」
小鳥「そうね…やよいちゃん、ちょっと行きましょ」
やよい「え?どこ行くんですか?」
小鳥「気分転換できる場所よ、フフフ」
やよい「よく分からないですけど、分かりました〜」
………
さてここは…
小鳥「ふう…気持ちいいわ」
やよい「そうですね、小鳥さん」
小鳥「やよいちゃん、やっぱりよく動けているわ」
やよい「小鳥さんに見られてると、何だかやっぱり違うなーって」
小鳥「でも汗を流した後のお風呂って、やっぱりいいわ」
やよい「はいっ」
二人はいつぞや訪れた銭湯に来ていた。
小鳥「ねえやよいちゃん、どうだったかしら?」
やよい「え、何のことですか?」
小鳥「もう…すっかり忘れちゃってるし。気分転換、できたかしら?」
やよい「あ、はい。でもレッスンとかしてたらすっかり忘れちゃってたかもです」
小鳥「でもどう?何を話したいかとか」
やよい「んー、何となくだけど分かってきた気がします。私のやってきたことを私らしく話せばいいって」
小鳥「…良かったわ、気付いたのね」
やよい「えっ…?」
小鳥「お話するって変に気取ったり作ったりはして欲しくなかったの。やよいちゃんがやよいちゃんを出せばいいのよ」
やよい「はい…じゃあ小鳥さんのことも話していいですか?」
小鳥「え?ええっ、私のこと!?」
やよい「話したいこといっぱいありますけど、お世話になった人のことはやっぱり話したいですから」
小鳥「わ、私なんて全然やよいちゃんに…」
やよい「もちろん律子さんにもプロデューサーにもいっぱいお世話になってます。でも…」
ぎゅうっ
浴槽の中で小鳥に抱き付くやよい。
やよい「小鳥さんにだって、二人に負けないくらいお世話になってますっ」
小鳥「そうかしら…。でも…そう思ってもらえるなら嬉しいわ」
やよい「お姉ちゃんって…こういう感じなのかな」
小鳥「やよいちゃん…」
やよい「はいっ、律子さんもラジオでお世話になってた碧莉さんも、この世界での私のお姉ちゃんですけど…」
小鳥「けど…?」
やよい「小鳥さんはまた違うお姉ちゃんっていうか…うー、何だかよく分からなくなってきちゃいましたー」
小鳥「やよいちゃん、そういうことは難しく考えなくていいの。やよいちゃんがそう思ってる、それだけできっといいのよ」
やよい「…はいっ!」
小鳥「やよいちゃんにとってはみんな違う感じのお姉ちゃんってことでしょ?」
やよい「そうですね。律子さんは厳しいけど優しいお姉ちゃんで、碧莉さんは私が憧れる素敵なお姉ちゃんで、小鳥さんは…」
小鳥「………」
やよい「温かいお姉ちゃん…かなって思います」
小鳥「そう言われると、少し照れちゃうわ…」
やよい「そしてプロデューサーは頼れるお兄ちゃん…です」
小鳥「フフッ、アイドルにそう言ってもらえたら、きっとあの人も冥利に尽きるわね」
やよい「プロデューサーをあの人って…えっと…ごちそうさまですっ」
小鳥「う…やよいちゃん、どこでそんな言葉憶えたの?」
やよい「あ、小鳥さん顔が赤いですー」
小鳥「もう…」
小鳥の顔は風呂を上がった後もしばらくはそのまま赤いままだったとか…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
やよいと小鳥さんの第2弾。やよいほどのトップアイドルならこういうこともあるんじゃないかなって。
こういう時はやっぱり頼りになるのは小鳥さん…ですね、きっと。
みんなの良き姉貴分、そして女性だから分かること…それを諭してくれるんじゃないかなって。
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2012・01・31TUE
飛神宮子
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