ここはとある別荘地… |
栞(伊織) | 「何ぐずぐずしてんのよ、早くいらっしゃい!もう…」 |
匡(涼) | 「そんなこと言ったって、こんなに荷物持たせて…」 |
栞 | 「何よ…この私に持たせるつもりなわけ?」 |
匡 | 「す、すみません!お嬢様!」 |
栞 | 「ほら…」 |
その少女は召使いの少年が持っていたカバンを一つ手に提げた。 |
栞 | 「早く来なさいよね」 |
匡 | 「はいっ!」 |
少年は歩き出した少女の後ろを再び歩き始めた… |
……… |
ここはある日の事務所… |
P | 「さて、どうだ?伊織」 |
伊織 | 「これって…雪歩達がやったシリーズよね」 |
P | 「そういうことだ。相手方からするとそうなるよな」 |
伊織 | 「そうね、さっき企画書も読ませてもらったわ」 |
P | 「ああ、まあそういうことなんだけどな」 |
伊織 | 「私ってああいう風に思われてるのね」 |
P | 「世間一般からは…きっとそうなんだろうな」 |
伊織 | 「アンタとしてはどうなのよ」 |
P | 「そうだな…伊織の気持ち次第だな。まずはやりたいかどうかだけ決めてほしい」 |
伊織 | 「これねえ…私だって一度やってみたいと思ったわよ。涼のシリーズ、人気なんでしょ?」 |
P | 「毎回かなりの視聴率たたき出しているとは聞いてるぞ」 |
伊織 | 「雪歩も春香も、真も美希も出てから変わったわよね…」 |
P | 「俺も少し世界観が広がった感じはする。今までの知らない自分を知れたとか言ってたしさ」 |
伊織 | 「でもこの内容は…」 |
渋い顔を見せる伊織。 |
伊織 | 「どうしてもやりたくないわけじゃないけど」 |
P | 「それなら一応は受けておこうか?」 |
伊織 | 「受けておいて。何とかやる決心を固めておくわ」 |
P | 「了解。台本が来るまではまずキャラクターを…って作る必要殆ど無いか」 |
伊織 | 「プロデューサー…それ、どういう意味よ?」 |
P | 「えっ…でもいつもこんな雰囲気じゃないか」 |
伊織 | 「アンタからはそう見えているのね…」 |
P | 「スマン、気を悪くしたか?伊織」 |
伊織 | 「いいわよ…私の本気、ドラマで見せてあげるわね」 |
……… |
それから数日後の765プロのレッスン室… |
伊織 | 「涼はどうなの?この役柄」 |
涼 | 「うーん…まだまだ弱弱しいって思われてるんだろうなって」 |
伊織 | 「よくOK出したわね」 |
涼 | 「それが運命だから仕方ないって」 |
伊織 | 「ちゃんと覚悟しなさいね涼」 |
涼 | 「え?」 |
伊織 | 「私の罵倒は精神に応えるって…言われたのよプロデューサーに」 |
涼 | 「そ、そうなの?」 |
伊織 | 「ええ」 |
涼 | 「でも伊織さんのプロデューサーは何ともない顔してるけど…」 |
伊織 | 「あれで結構鍛えられてるの。毎日うちの事務所の女の子達をみんな相手しているのよ」 |
涼 | 「そっか…確かに765プロの皆さんって、結構みんな個性強くて…」 |
伊織 | 「それがもう結構長いわね…これをこなして来たんだから本当に強い人ってことね」 |
涼 | 「それで伊織さんの罵倒って…そんなに酷いの?」 |
伊織 | 「分からないわよ、自覚なんてできないんだから」 |
涼 | 「あ、そっか…」 |
伊織 | 「でもやり過ぎないようにって言われてるわ…そういうことよ」 |
涼 | 「分かった…うん、まずはここで一回感じてみるよ」 |
伊織 | 「じゃあやりましょ。台本は持ってきたわよね?」 |
涼 | 「そうだね」 |
|
匡 | 「はあ…はあ…」 |
栞 | 「どうしたのよアンタ」 |
匡 | 「お嬢様、少しお待ちください。ちょっと…」 |
栞 | 「何ぐずぐずしてんのよ、早くいらっしゃい!もう…」 |
匡 | 「そんなこと言ったって、こんなに荷物持たせて…」 |
栞 | 「何よ…この私に持たせるつもりなわけ?」 |
匡 | 「す、すみません!お嬢様!」 |
栞 | 「ほら…」 |
その少女は召使いの少年が持っていたカバンを一つ手に提げた。 |
栞 | 「早く来なさいよね」 |
匡 | 「はいっ!」 |
少年は歩き出した少女の後ろを再び歩き始めた… |
匡 | 「今日から過ごすのはこちらでございますか」 |
栞 | 「あら、匡は連れてきたことが無かったかしら?」 |
匡 | 「僕はこちらにはまだ一度も…」 |
栞 | 「そう、それなら説明するから荷物を置いて来たら付いてらっしゃい」 |
匡 | 「はい、お嬢様!」 |
……… |
栞 | 「ここが匡にいてもらう部屋よ」 |
匡 | 「こちらからですと、お嬢様の部屋までは…はい、把握いたしました」 |
栞 | 「今日のところは夕食と浴室の準備だけでいいわ」 |
匡 | 「分かりました。何時頃お持ちしましょう?」 |
栞 | 「そうね…ってどうして匡はそうなのよ…」 |
匡 | 「えっ、お嬢様…」 |
栞 | 「二人きり…なのよ」 |
匡 | 「………」 |
栞 | 「二人きりにしてもらった…この意味分かってよ!」 |
ドンッ |
少女はその少年をベッドへと押し倒した。 |
栞 | 「匡は、匡は私のこと…どう思ってるの…」 |
匡 | 「お嬢…」 |
栞 | 「匡!名前で…お願い…」 |
匡 | 「栞様…」 |
栞 | 「………」 |
チュゥゥ |
栞の唇は匡の唇に重ね合わされた。 |
栞 | 「やっと…名前で呼んでくれた…」 |
栞のその瞳からは小さな涙が零れ始めていた。 |
匡 | 「栞様…こんな僕が栞様の…」 |
栞 | 「いいの…私が…好きになったんだから」 |
栞の腕はそのまま抱きつくように匡の後ろへと回されていった… |
スタッフ | 『はい、オッケー!これから次の場面セットができるまで休憩ー!』 |
涼 | 「ねえ伊織さん、オッケー出たよ?」 |
なぜかそのままの体勢から離れようとしない伊織。 |
伊織 | 「あっ涼…ちょっとボーっとしてたわ。すぐ離れるわ」 |
伊織はようやくその腕から涼を開放した。 |
涼 | 「どうしたの?」 |
伊織 | 「何でもないわ何でも。さ、休憩しましょ」 |
ベッドから降りた伊織は、涼に背を向けて重ねた温もりが残る唇を優しく触っていたという… |