ここはある日の事務所… |
真 | 「おはようございまーす!」 |
朝の事務所に何やらハスキーボイスが響き渡る。 |
真 | 「あれ?誰もいないのかな?」 |
よくよく真が見渡すと窓辺に… |
千早 | 「はあ…」 |
真 | 「千早ー何してるの?そんな窓の方でため息なんかついて」 |
カチャッ ガラガラガラガラ |
千早の隣の窓を開けてそこに手を付く真。 |
千早 | 「…真?ゴメンなさい、気がつかなくて」 |
真 | 「おはよう千早、でも朝からそんなところで何してるの?」 |
千早 | 「おはよう真。ええ、ちょっと…ね」 |
真 | 「千早が悩むって歌のこと?」 |
千早 | 「ううん、違うわ。歌でなんて最近悩むことなんて無かったもの」 |
真 | 「ってことは…もしかして…」 |
コクンっ |
真の言いたいことを察したのか、千早はただ一つ頷いた。 |
千早 | 「真ならちょうどいいわ。相談に乗ってくれるかしら?」 |
真 | 「いいけど…ボクなんかでいいの?」 |
千早 | 「亜美や真美、律子以外なら誰でもいいのよ」 |
真 | 「え、どうして?律子なんかボクより頭が良いのに」 |
千早 | 「むしろ真が適任なのよ、この話をするなら」 |
真 | 「ボ、ボクに適任な話って…」 |
千早 | 「真は萩原さんのことどう思っているの?」 |
真 | 「雪歩のこと?べ、別に友達…よりは少し進んじゃったけど…」 |
千早 | 「そう…一つ聞いていいかしら?」 |
真 | 「いいけど…変なことじゃないよね?」 |
千早 | 「たぶん…でも私もこんなこと言う柄じゃ無いかもしれないわ」 |
真 | 「まあいいから言ってよ」 |
千早 | 「女の子を好きになるのって…変なのかしら?」 |
真 | 「ええっ!?千早、まさか!」 |
コクンっ |
千早はまた一つ頷いた。 |
真 | 「そっか…それで誰なの?…って聞かなくても分かった気がするけど」 |
千早 | 「やっぱり…分かるものなの?」 |
真 | 「分かるも何も、普段一緒に居るのって一人しかいないじゃないか」 |
千早 | 「まあ…そうね。春香のことよ」 |
真 | 「分かる気がするよ。ボクだって雪歩を好きになった理由が同じ気がするからさ」 |
千早 | 「同じ?」 |
真 | 「自分に無い物をみんな持っているからでしょ?」 |
千早 | 「…そういうことだったのね。確かに言われるまで気が付かなかったわ」 |
真 | 「だと思うよ。でも千早が春香とかあ」 |
千早 | 「意外かしら?」 |
真 | 「ううん。春香かあずささんかどっちかとかなって思ってたからさ」 |
千早 | 「あずささん?そう見えるものなの?」 |
真 | 「外野から見てるとよく分かるんだよ。でもうちって複雑に絡んでるからなあ」 |
千早 | 「そうね…だから高槻さんも大変に見えるわ」 |
真 | 「響と伊織だもんなあ…」 |
千早 | 「でも高槻さんは今はユニット相手の律子に一辺倒だもの、ちょっと心苦しいみたいね」 |
真 | 「難しい問題だよ。ユニット組んでないと、実際絡むの難しいもんね」 |
千早 | 「そうよね、真」 |
真 | 「でも千早と春香かあ…」 |
千早 | 「………ポッ」 |
頬を少し紅く染める千早 |
真 | 「千早はそういうことになるとは思わなかったけどなあ、でもボクは応援するよ」 |
千早 | 「ありがとう…味方が一人いると思えるだけで嬉しい…」 |
真 | 「それで春香には気持ちはもう伝えた?」 |
千早 | 「そんな…だってこんなこと言ったら変に思われない?」 |
真 | 「どうかな…でもボクは大丈夫だと思うよ」 |
千早 | 「どうして?」 |
真 | 「ボクには春香も千早のこと嫌ってるとは見えないしさ」 |
千早 | 「でも…もし気持ち悪がられたりされたらって思うと…怖いの」 |
真 | 「まずはやってみたら?気持ちははっきりさせた方が絶対に良いって」 |
千早 | 「分かったわ…ん…」 |
真 | 「そういえば千早はこういう気持ちになるのって初めて?」 |
千早 | 「こういう気持ちって何かしら?」 |
真 | 「人に恋しちゃうってこと」 |
千早 | 「そうね…思春期に入ってからは思いつかないかもしれないわ」 |
真 | 「初めての恋…青春だね」 |
千早 | 「えっ…」 |
顔が沸騰しそうなほど紅くなってしまった千早。 |
千早 | 「そ、そうね…そう言う意味では初めてのことかもしれないわ…」 |
真 | 「それで恋する相手が女の子、別に変なことじゃないと思うよ」 |
千早 | 「どうして…?」 |
真 | 「そんなことを言ったらボクはどうなのさ。あれだけの女の子ファンがついちゃってるし」 |
千早 | 「…確かにそうよね…」 |
真 | 「女の子からのファンレターの中に、ラブレターも混じって来るくらいだよ」 |
千早 | 「フフフ、でも真のキャラクターがそうさせちゃうのね」 |
真 | 「まあそうだから諦めてるんだけどさ。でもそれで、女の子同士で好きになるのもそれは一つの形だと思ってるんだ」 |
千早 | 「それが初めての恋でも?」 |
真 | 「うん。どんな恋でも答えは無限にあると思うから」 |
千早 | 「ありがとう…真に相談して良かったわ」 |
……… |
数日後。真は千早に呼び出されて、事務所ビルの屋上に居た。 |
真 | 「春香に告白したってことだよね」 |
コクンっ |
千早はただ一つ頷いた。 |
真 | 「どうだった?」 |
千早 | 「真……後押ししてくれてありがとう」 |
ポフッ ギュッ |
顔を見られたくないのか、真の胸に飛び込んでしまった千早。 |
真 | 「千早は心配し過ぎだったんだって。そうだ、これ言ってなかったんだけどさ…」 |
千早 | 「これって?」 |
真 | 「春香も雪歩に同じような相談してたんだって」 |
千早 | 「は、春香もなの!?」 |
真 | 「だから千早も春香も、相手に嫌われるのが怖くて躊躇っていたのは一緒だったんだ」 |
千早 | 「どうして私にそれを言ってくれなかったの?」 |
真 | 「最後は二人だけの間で解決しなくちゃダメな問題だから」 |
千早 | 「二人だけの…問題?」 |
真 | 「ボクとか雪歩が間に入ってもさ、千早と春香の気持ちがどうなのかが一番大事なんだよ」 |
千早 | 「そうね…それが一番大事よね…」 |
真 | 「だから敢えて言わなかった。ボクはその偽りの無い気持ちと信念を、ちゃんと春香に向けて欲しかったから」 |
千早 | 「ありがとう…真っ…」 |
ギュウッ |
千早は真の背中に回していた腕をさらに強めていた… |