Arsy-Varsy Wishing Star(あべこべの願い星)

アタシは日高愛。876プロにいるアイドルのひよっ子だよ。
「ふー…気持ち良かったあ」
お風呂上がり、自分の部屋に戻った私は何となく空を眺めていた。
「そういえば今日だっけ?流星群が降ってくるの」
髪の毛をタオルでくしゃくしゃ拭きながら窓から外を見上げてみる。すると…
「うわぁ…降ってきてるっ!」
満天の夜空から一筋、また一筋と星が落ちてきているのが見える。
「そうだ!願い事しとこっと」
そんなアタシは流れ星にこんなことを願った。
「ママとは違う個性的なアイドルになれますように」
この願いがまさかあの事件の始まりになっちゃうなんて、その時は思ってもみなかった。
「…もうこんな時間、寝なくっちゃ」
翌日…アタシはベッドの上に居なかった。
………
私は秋月律子。765プロで事務員兼任でアイドルをさせてもらってるわ。
律子「ふぅ…今日も疲れたわねえ」
こんな言葉も出るくらいよ。アイドル活動の後に事務員の仕事もしてきたし。
律子「もうお風呂も入ったし、寝てしまおうかしら」
そんな中、ふと私はあることを思い出した。
律子「あ、今日だったかしら。プロデューサーが言ってたわよね」
髪を梳きながら窓辺に行ってみる。
律子「本当、綺麗…」
満天の夜空から一筋、また一筋と星が落ちてきているのが見える。
律子「こういうのに願ってみるのも悪くは無いわよね」
私はそんな流れ星にこんなことを願った。
律子「これからも自分が『自分』でいられますように」
この願いがまさかあんな事になるなんて…ね。
律子「さて、もう今日はやることが無いから寝てしまおうかしら」
翌日…私はベッドの上から消えていた。
………
アタシ、日高愛の翌朝…
「んんーっ!…あれ?」
アタシは異変に気が付いた。
「え?ええっ!?」
ベッドの上に寝ていたはずのアタシ。だけど今は蒲団の上。
「ここ…どこ?」
外の景色も見覚えなんかない田舎の風景になっていた。
「ど、どういうことっ!?」
でもこれはどこかで見覚えのある風景だったの。
「もしかして…」
アタシにいるはずのない、そしてどこかで見たことのある妹を見て確信した。
「ここ…あのアニメの世界だあ!?」
アタシはもう叫ぶしかなかった。
………
私、秋月律子の翌朝…
律子「……???」
私はなぜか森の中に寝て…いいえ、横たわっていたという方がいいわね。
律子「………(ど、どういうことよ)」
何か身体がおかしいのにはさすがにすぐ気が付いたわ。だって…
律子「………(これって…あれよね)」
昨日の姿とはまるで違う私。
律子「………(で、でも…どうしてこんなことに!)」
何でこうなっているのか、この時の私はまだ思い出せていなかった。
律子「………(これ…どうすればいいのよ)」
そんな私の身体はまるで巨大なワイン樽のようになっていた。
律子「………(まずは落ち着いて考えるのよ)」
妙に冷静になって今の状況を頭の中で整理し始めていた。
………
その頃、765プロ事務所では…
「えっ?律子は来てないんですか?」
小鳥「はい。まだ連絡ももらってませんよ、プロデューサーさん」
「参ったな…今日撮影だからなあ…」
小鳥「プロデューサーさんの携帯電話の方にも連絡無いんですか?」
「はい。今鳴らしているんですけど全然連絡も入ってないんです」
小鳥「困りましたね…どうします?」
「あの小鳥さん、先方に何とか違う日にしてもらうように連絡お願いできますか?」
小鳥「あ、はい」
「俺は律子の家の方に直接連絡を取ってみます」
 
小鳥「どうでした?」
「家の方にもいないそうです。そっちはどうですか?」
小鳥「何とか来週に回してもらえることになりましたけど…でも変ですね」
「でも親御さんの方も朝から見ていないそうで…」
小鳥「うーん、律子さんに限ってそんなことは無いはずよ」
「確かに…あ、そう言えば昨日って何かありませんでしたか?」
小鳥「昨日ですか?そう言えば律子さんと流星群が来るって話で盛り上がってましたよ」
「それで今日、朝から何かニュースやってませんでした?」
小鳥「あ…そういえば、何か変なことがいっぱい全国で起こっているってやってたわね」
「ちょっと昨日の流星群について調べてもらえますか?」
小鳥「はい…」
 
小鳥「これはっ…」
小鳥の驚きは異様の一言だった。
「何か分かりましたか?」
小鳥「ええ。昨日のってたぶんこれでしょう?」
小鳥が調べたモニタを見るプロデューサー。
「願ったことが反対に叶う流れ星…」
小鳥「つまり律子さんは、これに巻き込まれたってことじゃ…」
そこに…
Trrrrr… Trrrrr…
小鳥「はい、765プロダクションです。はい、え?そちらの日高さんもですか!?」
どうやら876プロダクションからのようだ。
小鳥「こちらも秋月の居場所が分からなくなってしまいまして…はい、分かりました」
Pi♪
「876プロからですか?」
小鳥「はい、あっちも日高愛ちゃんが居なくなったみたいで…」
「ということはやっぱり…」
パチっ
試しにテレビを点けてみると、不可思議な現象が色々と臨時ニュースで伝えられていた。
小鳥「これはもう間違いないですね」
「はい。とにかく律子の身に何があったか、アイドルも全員総出で調べましょう」
………
あのアニメ映画のように、場面は進展していく。でも、一つだけ違ったの。
五月雨の降るバス停の場面。隣に立っているはずの青い…あれ?
「あれ?あの柄の服って見たことあるけど………あっ!」
律子「………!(あれ?あの子って確か…!?!?)」
「あの…765プロの、り、律子さん?」
律子「………コクンっ(日高さん…ね)」
無表情ではあるが頷いて答える律子ト○ロ。
律子「………(昨日の流れ星、何か願った?)」
身振り手振りで愛サ○キへと質問してみる。
「律子さんもですか?」
どうやら理解したようだ。
律子「………コクンっ(ええ。)」
「どうしたらいいんでしょうね?」
律子「………(分からないわ。でも…あの流れ星のことちょっと調べてたこと思い出してみるわ)」
「分かりました、お願いします」
ドンっ
律子ト○ロは一度飛び上がった。
ザーーーーーー
その衝撃に周りの木々に溜まっていた雨が一斉に落ちてきた。
 
その日の夕方、その姿のまま律子は何やら思案していた。
律子「………(私の願いって何だったかしら…そういえば、どこかで『願いが逆になって叶う』って書いてあったわよね)」
原因から洗い出し始めている。
律子「………(あっ…あちゃー、確かに逆になってるわ。こうもなるわよ)」
自分の願いを思い出し少し反省している。
律子「………(それにしてもあの流星、確か26年周期とも書いてあったわね)」
さらに考えているようだ。
律子「………(確かこの作品の世界は昭和33年…今年じゃない!)」
そしてもう一つ気が付く。
律子「………(この世界で流星群が降るのも同じ日くらい。何とかなるかもしれないわ!)」
どうやら心が決まったようだ。
律子「………(確かストーリー上、愛がなったあの子とは今日も会うわ。やってみるだけやってみましょう)」
夜にどうにか愛へ伝える手段を考え始めた。
 
その夜。空には律子の計算通り流星が流れていた。
律子「………(それにしてもこの巨体でよく飛べるわよねえ)」
律子ト○ロは愛サ○キと妹を身体にくっ付けて空を飛んでいた。
律子「………(そんなこと気にしてもしょうがないわね)」
「律子さん、行きましょう!」
コクンっ
律子ト○ロは頷きで答えた。
「せーのっ!」
『元の世界の元の姿に戻りませんように!』
その刹那、律子ト○ロと愛サ○キの姿が輝きだした。
そしてその光が収束した時には、ト○ロとサ○キはそのアニメでの元の姿になっていた。
………
ここは夜も9時近くの765プロダクション。
小鳥「結局律子さんの手掛かりは何もありませんでしたね…」
「ですね。さすがにこれは日本中が混乱してますから…」
26年ぶりの流星による騒動は夜まで尾を引いていた。そこに…
小鳥「あら?会議室って電気点けてました?」
小鳥は何やら会議室から光が出ているのを見つけた。
「いや…さっき最後に真と雪歩を帰してから、電気消して鍵かけたはずですよ」
小鳥「でもあんな明るい…あら?また暗くなった」
「ちょっと見てきます、何かあったのかもしれないんで」
鍵を持って会議室へと向かうプロデューサー。
ガチャンっ ガチャッ パチっ
鍵を開けて電気を点けてみた。そこに居たのは…
律子「プロデューサーっ!」
ぎゅうっ
プロデューサーへと抱き着いてきた律子の姿だった。
「り、律子っ…」
律子「良かった…この世界に戻ってこられて…」
「この世界?ってことは律子、もしかして…」
律子「ええ。話せば長くなるわ………」
律子は小鳥とも顔を合わせてから、色々と連絡を済ませて事の顛末を二人に語った。
律子「………ということでこの世界に戻ってきたの」
「しかしなあ、律子も流れ星とか信じる方だったんだな」
律子「それは…私だって女の子だもの」
「でも戻って来れて良かったな」
律子「本当に周りも大変なことになっていたのね」
「ああ。まあうちとか876プロの方はこれだけで済んで良かったけどな。他の事務所も何かあったらしいし」
律子「でも今日は本当に御迷惑おかけしました」
「それは小鳥さんに言ってやってよ。連絡係とか殆ど小鳥さんだったしさ」
律子「小鳥さんも、今日は済みませんでした」
小鳥「いいのよ。そうそう、今日の撮影は来週にしてもらったわよ」
律子「あ、あちゃー…そういえば今日でしたっけ」
「ま、こういう事態だから仕方ないさ」
律子「明日、私からも謝罪の電話しておいた方がいいかしら」
「そうだな、一応しておいた方がいいかもな。でも事情は先方にも伝えてあるから大丈夫だけどな」
小鳥「じゃあ律子さんも戻ってきたことだし、そろそろ上がりましょうプロデューサーさん」
「そうですね、小鳥さん」
律子「もしかして私が戻ってくるまで、待ってるつもりだったんですか?」
「そりゃもしかしたらこっちに来る可能性だってあるんだからな」
律子「本当に今日はプロデューサーも小鳥さんもお手数お掛けしました」
小鳥「律子さん。貴方が戻って来た、私たちはそれだけでいいのよ」
律子「小鳥さん…」
「よし律子、送って帰るから二人とも俺の車に行ってて」
小鳥「はい。プロデューサーさん、鍵閉めとかお願いしますね。律子さん、行きましょ」
律子「…はいっ」
いつもの日常があることがこんなに幸せなんだ、それを律子は心の底から感じていた…
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あとがき
どもっ、飛神宮子です。
さて、六月のカレンダーSS。無茶ぶりにもほどがある構図ですよねー。
はっきり言ってSPのアイドラが無ければ、初の妄想オチを使うところでしたよ。
そうそう「26年」のくだりですが、ト○ロ内部設定が昭和33年らしいので計算して合うようにしました。
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2010・05・30SUN
飛神宮子
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